不遇で不死身のタンク、謎スキル「吸引」で世界最強に至る。

UFOのソース味

プロローグ

 西暦2324年


 突如として、世界中に『ゲート』と呼ばれる異世界へと繋がる門が現れた。無数のモンスターがゲートの向こう側から押し寄せ、街へ侵入し、人を襲い始めた。


 すぐさま各地域の警察や軍隊が鎮圧に乗り出したものの、銃火器類は効果がなく、蹂躙されていく一方だった。


 全世界で被害者の数が数百万人を超え、もう終わりかと思われたそのとき、神様から祝福『スキル』を与えられた者たちが協力して立ち上がり、モンスターを殲滅、平和を取り戻した。


 この災厄の日を教訓に覚醒者達は世界各国に協会を作り、モンスターの侵攻を抑えるためにゲートを攻略していくのと同時に、覚醒者を育成するための学校を作った。それが日本覚醒者学校。


 俺は『吸引』というOriginクラスのスキルを神様に与えられ、覚醒者学校に通いながらゲートを攻略していた。災厄に巻き込まれ意識不明のまま入院している妹を助けるために。


「お前さぁ弱いくせに、何回も何回も回復を要求してくんなよ」


 俺を怒鳴りつけているのは、山本愛梨という女で、同じパーティーを組んでいた。Aクラススキル『神官』を持つヒーラーだった。


「拓海、男として情けなくないんか?それに、お前が怪我をするたびに回復を使ってたらポーション代が勿体ないだろう。お前の今日の取り分から減らしておくからな」


 愛梨にBクラススキル『魔法使い』の斎藤 一樹がそれに追随する。いつもの流れだった。


「なんか言ったらどうなの?」


「ごめん」


「見た?いまの。気持ちがまったく籠ってないよね」


 俺は気にせず散らばっている魔石を回収していく。誰も手伝おうとしない。このパーティーのリーダー、Aクラススキル『剣聖』を持つ佐藤大輔は関心がないのか、興味がないのか、少し離れたところに立って、じっと先を見つめている。


 スキルはゲートが開いたあの日から、覚醒者達に与えられたもので、1人につき1つしか持てない。これまでの努力や生き方は一切関係なく成長することもない。運によって選ばれる不公平なシステムだった。


 俺が手に入れたのは、そのスキルの中でも世界に1人しかいない最上位のOriginクラスのスキル『吸引』、同じパーティーが受けるダメージを肩代わりしたり、敵を引き付けるタンク向けのスキルだった。確かに異常なスキルではあるものの攻撃に活かせるわけでもなく、体力が大幅に増えるわけでもない。特に役に立たないスキルだった。


「さっさと拾いなさいよ、ノロマ」


「痛!」


 背中に衝撃を感じた。それと同時にポーションの空き瓶が転がる。タンクのためアーマーを着込んでいたからよかったものの、痣ができてもおかしくないくらいの衝撃だった。


「あいつが遅いからダメなの。言葉でわからないなら身体に教えてあげないとね」


 もともと、クラスメイトでパーティーを組んだ俺たちは、俺が『吸引』なんていう、よくわからないスキルを獲得したことによって、関係性は大きく変わってしまった。敵の攻撃を引き付けるしか能のない俺にとって、パーティーを出ても誰にも相手にしてもらえない。かといってソロとしてやっていけるほどの実力もない。妹を治療するためにはお金が必要だったから、こうしてパーティーを組んでゲートで働き、金を稼いでいた。


 魔石を拾い終えたことを大輔に伝えて、この階層のさらに奥へと歩みを進める。この林を抜ければ、ボス部屋へと通じる階段が現れるはずだった。


 今日は初めて40階に挑戦する日だった。40階はボス部屋のみの空間になっている。過去に突破したプレイヤーによってボスモンスターの情報は公開されていて、サイクロプスという一つ目の緑色をしたモンスターだった。


 階段の前に立つと、異様な雰囲気を感じる。それは感知系のスキルを持っていない俺にもわかるくらいに、向こう側には強大かつ禍々しいモンスターがいることを予感させていた。


「今日、俺たちはボスへ挑戦する。先輩達の誰も成し得なかった学生の40階攻略。そして、卒業した後も上位パーティーとして成り上がり、伝説の仲間入りをするんだ」


 大輔は扉の前を陣取り剣を掲げた。ミスリルでできた剣は光に反射して輝いている。英雄気取りかよと、俺は思った。


「ああ、俺たちならできる」


「役立たずなんてハンデとして十分ね」


 愛梨と斎藤は大きく頷いて大輔についていく。


 40という数字の下に、最後の扉が待ち構えている。この先にはボスがいる。いまは、不気味なほど何も感じない。


「全員武器を構えろ。いくぞ!」

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