第5話 初任務「見学」

 アサヒとキヨマサにとって今日が初任務になる土曜日。天候は雲一つない快晴。こんな日に、カーゴ車のカーゴスペースに乗せられるとは思ってもいなかっただろう。

 組織で貸し出してくれる乗り物は、モーターボードやヘリコプター、車など色々ある。トラックや電気自動車など車だけでも色々用意されている。この日はなぜか車の殆どが出払っていた。残った車は武器が積まれた緊急車両だった。そのため、カーゴ車の後ろに2人が詰められる展開になった。

 詰められた2人は、助手席に座っている自分たちの隊長に今日の任務内容を質問した。

 運転手をやっていったコウは、驚いた顔で隊長に少しだけ視線を向けた。2人に何も話していないとは思っていなかったらしい。

 

「俺たち、戦闘員の仕事はいくつかある。何をするか思い当たるか?」

 

 自分たちの役割を改めて聞かれた2人は顔を見合わせる。どちらが先に回答をするかを指をさし合って争った。

 

「危ない連中を倒しに行く、とか?」

 

 漫画やアニメでよくある話と付け足して答えた。

 ヨルはバックミラーで2人の顔を見ながら、返答した。

 

「魔法を武器にして戦闘を仕掛けてくる連中はいない訳では無い。だが、あまり多くはない。要注意団体の連中が放棄した遺物や施設の探索、破壊がメインの仕事になっている」

 

 魔法を私的に活用したり人類のために活用したりしている団体の総称である。すべてが悪ではなく、大規模な天災を予期し、事前に防いでくれた団体もいた。しかし、時には研究施設の管理ができなくなり放棄したり、異常現象を放置したりする団体が存在する。そのときに、駆り出される部が、調査隊と戦闘部隊の2つ。

 調査隊は異常があったり魔術の存在や施設が発覚すると、最初に派遣される。どこの団体のしわざか、目的や手段などを探り出すことになる。原則戦闘は禁止されており、調査中に対応できない事案があると判断した場合、すぐに帰還することが義務付けられている。

 戦闘部隊は基本的には調査隊ができないことを含めた、破壊や戦闘行為を担っている。

 

「じゃあ今回は施設の破壊ですか?」

「そうなるな」

 

 話しているうちに気づけば森の奥にたどり着いた。湿気が多く服がべったりと張り付いている気がした。

 車ではいけない細い道を4人で歩く事になった。

 数分歩いた先にあった建物。3階建て程度の高さで、一見したら高齢者施設に見える。怪しい雰囲気は感じないが、不釣り合いな場所にあるとアサヒは思った。

 

「調査隊がすでに確認済みで、中にあるデータは持ち帰れるものは持ち帰ってる。兵器はないらしいから壊すだけだ」

 

 そう答えてくれたコウは、ラジオ体操第一を鼻歌交じりに始めた。身体を動かす前には準備運動は必須である。ラジオ体操第一が終わると、ヨルが何かをつぶやき始める。真似をするには発音が難しく、聞き取ることも困難だった。

 横に立っているコウが施設を破壊する手順を教えてくれた。

 調査隊の調査が終わっている場合、破壊するためのふだを建物の端に貼られることになる。戦闘員が呪文を詠唱することで建物が砂のように形状を変化させる。人には効かない術であるため、万が一建物内に人がいた場合でも砂になるようなことはない。

 一通りの説明を終えたところで、眼の前の建物が砂となり崩れる。砂埃が舞い上がり、アサヒとキヨマサは目を閉じ咳き込んだ。

 

「なんでこれのために戦闘員が駆り出されるのか。それは、不慮の事態が稀によく起きる」

 

 矛盾したことを言い出した隊長の声で2人は、目を開ける。何者かの拳がアサヒの顔を得めがけて飛んできていた。

 拳を向けてきた相手の顔面に隊長の拳がめり込み、頭部が破壊される。飛び散った機械の部品を見て、眼の前の敵が人ではないことを悟った。

 150cmほどの球体関節をした人形が建物内に潜んでいたのか、建物が壊れたところを見計らって襲撃してきたのか。すでにコウは数十体の人形と交戦していた。

 建物を壊すために使う術は戦闘員の誰でも使えるように簡易的なもので作られている。そのため、隠されていた兵器には効果がなく、建物崩壊後に兵器が出てくるケースがある。

 恐る恐るアサヒは人形の部品を拾い上げる。軽く叩く。金属で出来た人形をコウが拳一つで戦っていることに気が付き、血の気が引く。横で「かっこいい」とはしゃぐキヨマサに同感できないまま、部品を眺める。

 

「急にあれになれとは言わない。戦闘に関してはこれから教える。ただ…」

 

 ヨルはアサヒに一度目を向けてから、続きを話す。

 

「俺たちはあの領域にいることを覚えておいてほしい」

 

 金属を身一つで破壊出来るほど化け物になれと言われていることにやっと実感したのだ。

 5分くらいでコウが人形を再起不能にし、一行は車まで戻ることにした。行きも帰りも車の運転をさせられると悟ったコウは、目を見開いて抗議したがヨルが無視して助手席に座ってしまった。

 疲労しているはずのコウよりも何故かカーゴスペースにいる2人組が早々に寝てしまい、より一層彼を不快にさせた。アサヒは何をさせられるのかと神経を張り詰めていたので、車に戻って気が抜けたのだろう。ただし、仕事は帰るまで続くことを今後覚えてもらわなければならない。

 見慣れた道まで出てからコウは、気になっていたことを問いかける。

 

「あれだけの数の自動人形オートマタがいたら、調査隊で気が付きそうですがね。手を抜いたんすかね」

 

 建物に到着する前から何かあるとわかり、準備運動をしたコウ。自動人形がいるのであれば、調査隊が建物に入ることなく、戦闘部隊に通達が来る案件だ。

 自動人形にはいろいろな種類が存在する。今回、破壊した球体関節持ちの自動人形は、大量生産しやすく低コスパで運用できるが非常に脆い。

 

「調査隊が去ってから設置したと考えるのが普通だろ」

「なんで」

「さぁな」

 

 思想や目的が異なることを理由に敵対する組織は山のようにいる。今回はその一つかもしれない。

 人員を削ることを目的にするなら、最初から調査隊を狙って計画を練るべきだろう。ある程度の戦力があることがわかっている戦闘員を狙った理由はなぜだろう。

 可能性はいくつもあるが、深く考えることをヨルはやめた。何を考えても戦わないといけないときは、いつか来るだろうから。

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