第4話 不法侵入
学校から帰宅するまでの道中にスマートフォンを覗くと、ガイアからメールが入っていた。内容はヨルは夕食をいらないと言っていたというものだった。
高校入学という節目に大きな思いがあるわけではないユノは、特に何も思わなかった。強いていうなら、人数が多い方が賑やかで好きということくらいか。
昼食を食べて男子2人と解散してから、いくつかお店を物色していたため帰宅時間が16時を過ぎてしまった。
ガイアは少々過保護になるところがあり、帰宅時間が遅くなると心配して電話してくることがある。連絡がないことを少しホッとした。
ビルドインガレージになっている為、車がないことを確認する。ヨルは車で仕事場に向かったのだろう。
玄関の鍵を開けようと、彼女はドアノブに手をかけて違和感を覚えた。必ずガイアは扉の鍵を閉める。外出する際には何度も確認する。家にいるときは足音で気がついて出迎えてくれる。
果たして扉を開けるべきだろうか。
ユノはゆっくり扉を開ける。中を覗こうとしたとき、視界の隅に誰かがいたように見えた。とっさに頭を守ろうとスクールバッグを掲げようとする。
室内が暗かった為、ハンマーを振り下ろした人物が男か女かわからなかった。振り下ろされたハンマーがスクールバッグにふれる寸前で、何かに弾かれた。弾かれた反動でユノも相手も壁に叩きつけられた。
不法侵入した男は状況が全く理解できなかったが、起き上がり落としてしまったハンマーを探す。たまたま盗みに入ったで住人が戻ってくることを男は想定していなかった。その上、見知らぬ力を目の当たりにすることになるなど思ってもいなかった。
ハンマーを右手で強く握りしめ、床に倒れて気絶している女子高生を見下ろした。きっと、握り締め方と覚悟が足りずにハンマーを落としてしまっただけだろう。男はそう思うことにした。
もう一度、男は少女に向けてハンマーを振り下ろす。
突然後ろから右手首を掴まれ、男が振り返ると青い髪の青年が立っていた。腕を掴んだまま青年は周囲を見渡している。
男は玄関がいつ開いたのかと不思議に思った。
「何かと思えばただの一般人ですか」
不法侵入に驚かず、どこから現れたかわからない青年に恐怖を感じ始める。
男は空いている左腕で肘打ちをしようした瞬間、右手首に体重をかけられ後ろに倒れるしかなかった。地面に叩きつけられる。衝撃でうっかりハンマーを落としてしまった。
ガイアは犯人の顔を確認し袂から札を一枚取り出すと、顔に貼り付ける。貼り付けられた札は、蒸気のように消えると男はそのまま眠りに落ちた。
もう一枚、袂から札を出す。そして床で倒れているユノを確認する。頭に外傷がなく、触った限り背中が腫れている様子もない。目覚めた後の体調の変化に留意しなければと心に留め、同じようにユノにも札を貼った。
次にしなければならないことは、今起きたことの後始末である。
床に置かれたままにしていた買い物袋と信玄袋。信玄袋からスマートフォンを取り出し、ヨルに電話をしようとする。電話帳には相手の名前やよく行く店の名前が入っているが、1人だけ名前が登録されずに番号のみ記載されている人がいる。それがヨルだ。
呼び出し音がしてすぐにヨルは電話に出た。
「もしも、珍しいなお前から電話とは」
ガイアはヨルの反応に対し、心のなかで肯定した。確かに電話もメールもすることは殆どない。自ら連絡するときは、ユノを含めた3人でやり取りをしなければいけないときくらいだろう。
しかし、肯定も否定もすることなく用件のみを単刀直入で伝える。
泥棒に入られたことやユノが犯人と遭遇してしまったこと、犯人の後始末をしてほしいということを伝える。
回答は「すぐ行くから待ってろ」だった。待つ間にユノをリビングの椅子に座らせる。
あとは本当に速かった。おそらく職場からすぐに家へ向かったのだろう。ガイアは男を担いでガレージに向かおうとして、ようやく玄関がピッキングされている事に気がついた。
ユノが攻撃されたことで保護魔法や守護魔法が発動したことで、彼はとっさに転送魔法で家に戻ってきた。当然玄関の状態など知るはずがない。
ひとまず玄関を置いといてガレージへ男を運び、止まっていた車の後部座席に放り込んだ。
運転席から顔を出したヨルはなにか言いたいことがあるようだ。ガイアは軽く会釈した。
「聞きたい事があるんだがいいか」
「おおかた想像できます。答えは無理です」
制服に魔法を施したように、家に魔法をかけてしまえば侵入されるリスクを排除できるのではないかという質問だと予想し答えた。
「主の制服は魔法がかかっていることがバレないように、届いてから一度バラしてます。細かく魔術をかけながら再度戻しているんです」
制服が届いておおよそ3週間かけて行っていることをヨルは知っている。そのことを思えば家に対して同じことをするのは現実的ではない。作業期間中は家がなくなり、1人でガイアが作業する。何も知らない近隣の一般人の記憶を長いこといじるにはリスクもある。
「魔術を隠す工夫をしなければできますが、ここは魔術師が住んでますというようなものですから」
魔法をむやみに表に出さない組織というスタンスと、主の生活に魔法が関わるべきではないというスタイルで利害が一致した。
次はガイアが質問する番だ。
「その不法侵入者は魔力を持たない一般人です。たまたまここを狙ってしまったのでしょう。どうするつもりですか」
「ん?まぁうちのエージェントに対応させる」
警察や病院、学校などあらゆる場所に組織の人員が配置されている。おそらく普通に警察に連れて行かれるのだろう。野放しにされることはないと判断し少し安心した。
「あと1つ。玄関の鍵がピッキングされてました。カードキーにしたほうが良いのでしょうか」
「考えておく、直さないといけないな」
車が発進したことを見届け、リビングに戻る。
ちょうどユノがあくびをしており、目を覚ましたところのようだ。首をまわし両腕を伸ばしている。
周囲を見渡しいつの間にリビングに来たのだろうかと、首をかしげた。ユノは帰宅してすぐのことを思い出せないでいた。ガイアに問うとすると、被せるように彼が先に答える。
「帰宅されてすぐ眠ってしまったようですね。お疲れですか」
疲れたのだろうか。ユノははっきりとわからないが「そうかも」とつぶやいた。
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