第2話 入学式当日
入学式とは退屈なものだ。面識がほぼない大人達の長い話を聞き、長時間座らされる。他学年は始業式をしたらしい。
午前中で入学式を終わり、担任の話が終わり、教室はすっかり自分と友人の2人だけになった。
小学生の頃からの友人であるマヤが駆け寄ってくる。美容院で整えたばかりのショートボブが似合う活発な印象を与える子だ。彼女は満面の笑みを浮かべ、話しかける。
「何か食べに行かない?」
「いいけど、何が食べたいの?」
「あは、ないわ」
スマートフォンを取り出しマヤは周囲の飲食店を調べ始める。ユノも食べたいものを考えるが、思い付かない為、ガイヤに連絡を入れることにした。すでに昼食を準備しているかもしれないと思い、心のなかで謝罪してメールを送った。
食べたいものも良い飲食店も決まらず、途方に暮れていると廊下から男子が大声で話しかけてくる。
驚いた2人はなんとなく耳を塞いでしまった。
「あー、もしかしてそこも食事行くのー!?一緒に行こー」
茶髪の男子が廊下から両手を振ってニコニコと笑っている。マヤもユノも同じことを思ったのだろう。
全く同じセリフを2人は顔を寄せて小声でつぶやく。
「めっちゃ陽キャ来たよ」
女子2人が席に座ったまま困っていると、陽キャ男子がズカズカと近寄って来る。
陽気な性格以外に身長が高いことに驚く。180センチメートルくらいはあるのではないだろうか。
近づかれたものの、何を言えばいいのか困る女子2人のもとにまたしても男子が増えた。
黒髪で茶髪の男子よりは背が低そうだ。教室を覗き、茶髪男子を見て眉が少し動いた。彼を探していたらしい。
「キヨ、こんなところにいたん...え、何、ナンパしてる?」
「してないよ、今仲良くなった」
ユノは首を思い切り横に振って全否定した。
「いや、名前聞いてないんだけど誰ですか」
黒髪の男子がため息をついて教室に入ってくる。絵に描いたような無気力系男子と陽気な男子が並んだ。
「俺、1年B組のキヨマサ。キヨちゃんってよく言われる。で、こっちはアサヒ、挨拶!!」
「言われなくても...どうも、こいつがすみません」
アサヒが軽く会釈する。
「同クラじゃん、あたしはマヤね。こっちはユノ」
ユノも軽く会釈する。
挨拶をしたら皆友達なのだろうか。キヨマサとマヤが近くの飲食店選びで盛り上がり始めた。すぐに仲良くなれる能力を素直に感心する。
二人の中で何か決まったのだろう。マヤがユノの袖を軽く引っ張ったので、荷物を持って立ち上がった。
現状についていけていないアサヒが眉をひそめつつ、ため息をつく。
連れてこられた場所は商店街のラーメン屋だった。味噌ラーメンがメインのお店のようで、店内には多くの味噌の種類が書かれた板がぶら下がっていた。
4人はカウンターに座る。味噌の種類を見てもどれがいいのかわからず、キヨマサが店員と話しておすすめと言われたものを注文することにした。アサヒは内心つけ麺がないか期待したが、ラーメンのみを扱ったお店と悟りがっかりした顔を見せた。
味噌ラーメンは非常に美味しいとユノは感想を抱いた。いつかガイアやヨルを連れて来ようと思っていると、横に座っていたキヨマサが話しかけてくる。
「ユノちゃんとマヤちゃんは仲いいけど同中?」
質問の意味がわからずマヤに顔を向けると、彼女が代わりに答えてくれた。
「ユノとうちは小学校から一緒だったんだよ。5年生の遠足の時にお弁当忘れちゃってさ。ユノが半分くれたんだよ」
小学校の遠足は疲れて面倒だった思い出しかなかったユノは、覚えていないことを気づかれないように一心不乱にラーメンに食らいつく。マヤが当時の思い出話を色々としてくれたが、どれも記憶にないようなことばかりで申し訳なくなってくる。
「まぁユノのことだから忘れてるだろうけど」
ラーメンを吹き出しそうになりながら、マヤに顔を向け返す言葉を探す。
「いや覚えてるよお弁当ね。いっぱいあって重かったから食べてくれて助かったよ」
「今はお弁当の話してないぞ。もう、聞いてなかったわね」
満面の笑みで応えてくれるマヤ。彼女が楽しいと思っているならなんでも良いか、とユノは考えることを放棄した。
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