クイーンズサーヴァント

柑橘系蜜柑

第1話 平穏で平和な生活

 夜が明ける前から活動を始める。

 ベッドから起き上がり、自身のベッドを整える。顔を洗い、髪を梳かす。全身が映る鏡で身だしなみを確認し、鏡の前の自分にお辞儀をした。

 青い髪、青い目、青い着物という目立つ格好をした男が映っている。

 鏡に映る自分に違和感を感じて顔を眺めると、眼鏡をしていないことに気がつく。質素な机に置かれた眼鏡をかけ、部屋を出る。

 朝食を作るためにキッチンに立つ。キッチンの種類でいうならペニンシュラキッチンで、左側が壁になっている。

 ご飯を炊こうと思い、炊飯器から内釜を取ろうとする。驚くことに炊飯器の蓋があっさり外れてしまった。壊れるような力を加えただろうかと不思議に思うが、何一つ思い当たらなかった。

 仕方がなく鍋を取り出し、中に3合分のお米を入れて水につけた。早起きして良かったと思う。

 現在4時半になったばかりだ。水につける時間を30分、水切りを30分でそこから炊けば朝食には間に合うだろう。

 おかずは何かできるだろうと思い、冷蔵庫を開ける。中には卵とキャベツと夕食の残り物しか無かった。すぐにキャベツと卵の中華炒めを思いつく。あとはスープにしようか。

 キャベツを切り、卵をボウルに入れて混ぜる。調味料を確認するとサラダ油と塩が少なくなっていた。今、必要分はありそうだと感じる。

 朝食を作っていると、金髪の青年が欠伸をしながらやってきた。赤と黒のボーダーTシャツがよれている為非常にだらしない印象を受ける。

 互いが交わした最初の会話は挨拶ではなかった。


「お風呂なら沸かせてません。入るならご勝手にどうぞ」


 聞き取るには難しい半端な声で返事が届いた。しかし、返事の内容など期待していない。言わずとも彼らは勝手に行動を起こす。あくまで業務的な会話に過ぎなかった。

 スープと中華炒めを完成させ、炊飯に差し掛かる。残念なことにこの家にはガスコンロはなかった。

 先程の金髪の青年が、上半身のみ裸でやってきた。頭にはバスタオルを乗せ、新聞紙を片手に持っていた。

 その格好で郵便受けまで行ったのだろうか。


「ガイア、飯」


 投げるように言うと、リビングの椅子に座り新聞を読み始めた。

 呼ばれたガイアはそのまま黙っている。2度目も無視し、3度目でやっと口を開いた。本当の事をいうと近場の包丁を投げてやりたかったが、そこまで幼くはないと自分を制した。


「あなたのための食事ではないので、あなたのスケジュールに合わせて作ってません」


 言われた方は返答を聞いていたのか、分からないような態度をとる。新聞をめくり、空いた手でテレビのリモコンを触っていた。

 面白い番組がないとぼやき、リモコンのボタンを適当に押している。

 次に、セミロングの黒髪少女が部屋に入室した。パジャマのまま、寝癖を一切整えず顔も洗っていないように見える。

 少女は上半身裸の男を見て声をあげた。


「ヨルが、変態になっておる」

「まずは挨拶だ。おはよう、ユノ。顔を洗ってこい」


 上半身裸を指摘されたことを気になったのだろうか。ユノが洗面台まで顔を洗いに行く間、ヨルは服を取りに部屋に戻った。

 食事はお米が炊き終わり、少し蒸らせば食べられる。

 洗面台から戻るまでの間にガイアは、テーブルに食器をセッティングしていつでも食べれるようにする。

 2人が席に付き、ご飯を茶碗へ移し提供する。食事を始めたことを確認し、ガイアも席に付き少量ながら食べることにした。

 食事は至ってシンプルな家庭料理だった。評価をするなら可もなく不可もなくといったところだろう。満足のいくものではなかった。

 最初に食事を終えたのはユノだった。「ご馳走様」とつぶやくと着替えるために自室に戻る。ガイアも食事をやめ、残された食器を片付け始めた。

 食卓に残された男にとってはいつもの光景なのだろう。戸惑うことなく食事を続け、自分のタイミングで食べ終える。ガイアが洗っている最中にも関わらず、シンクに食器を放り込んだ。

 いくら見慣れた光景とはいえ不快にならずにはいられなかった。ガイアは目を細めてヨルを見る。しかし彼は気にもとめなかった。

 ユノが制服姿でキッチンに来た。新高校1年生として制服姿を見せびらかしに来たのだろう。男2人は何か感想を述べることは無かった。


あるじ、サイズに違和感はありませんか?素材が合わないと感じたり解れているような箇所などは?」

「第一声がそれ?せめて高校生活初日を楽しんで来てくださいくらい言ってよ」


 不貞腐れた顔でヨルを見たが、もう一人から返ってきた返事は「馬子にも衣装」だった。

 乙女心が何もわかっていない男性2人に対して怒りを露わにし、スクールバッグを肩に提げる。そのままぶっきらぼうに出かける挨拶を言い放ち、家を出ていってしまった。

 しばらく無言のまま2人は互いのしたいことに勤める。ヨルが静寂を破った。


「あの制服、処理は済んでるのか」


 大事な単語が抜けた質問だったが、聞きたい内容は1つしかないだろうとガイアは思う。聞き返す必要はなかった。


「はい、保護魔法、守護魔法はかかっています。何か攻撃されれば感知可能です」


 シンクを清掃し、自身の手を拭いてガイアは椅子に座った。

 外的要因から身を守るために処置として施してある魔術。可能ならそのようなことをせずに済めばいいと思っている。ヨルは魔術という一般的ではないものが日常に近くあることを気にしていないのだろう。

 

「俺の夕飯、いらねぇから。勝手に買って勝手に食う」


 真面目に考えて首を捻っていると、ヨルは話題を変えてきた。彼がどうやら言うほど気にしていないらしい。返答を待たずに自室から携帯電話と車の鍵を持ってきて、出ていってしまった。

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