十五日目・礼文島~稚内~サロベツ原野

 8月30日(火) 晴れ時々曇り (走行 41km)


 今日、礼文島を離れた。今朝も桃時間の午前5時30分になると、スピーカーから流されるド演歌で無理やり起こされた。このユースでは、掃除を宿泊者に手伝ってもらっているが、掃除時間中はわざわざ調子が狂いそうになるBGMを流してくれる。

 そして、離島の時がやってきた。宿近くのトンネルをくぐる時、ヘルパーから「ここから先は、『知性』『教養』『羞恥心』の三つを取り戻してくださいね。そして、桃時間から標準時間に戻りますので、時計を三十分進めてください」と指示があった。

 それは、桃岩荘の狂喜乱舞の世界から、現実世界へ引き戻される瞬間でもあった。


 出発前に香深港近くの食堂「さざ波」に寄り、名物「ジャンボソフトクリーム」を平らげた。ソフトクリームをゆっくり味わったせいか、搭乗手続きは出航時間ギリギリだった。搭乗に間に合わなければ、またあのユースに連泊させられることになるので、時計を見てかなり焦った。


 桃岩荘ユースのヘルパーたちは、先に港にたどり着き、荷物を届けてくれた。

「また来い!」「桃岩東京大会(桃岩荘宿泊者の同窓会)で逢おう!」と叫び、ミーティングで披露した踊りをその場で披露し始めた。僕たちも、彼らと一緒に船のデッキで踊っていた。テープが埠頭に投げられ、それが徐々にひきちぎられていくにつれ、何度も目頭を拭いながら泣き出してしまう女性宿泊客もいた。


 船が稚内フェリーターミナルに到着後、宿泊客達は住所交換をし、再会を誓い合って散り散りに別れた。僕も再びチャリにまたがり、南下を始めた。

 稚内市内を一人走ると、まるで現実に戻されたようで、祭りの後の寂しさのようなものを感じた。

 稚内からは日本海に沿って、ハマナス咲くサロベツ原野を南下。今夜の宿泊は、その名も「あしたの城(ジョー)」という名の民宿。北海道の民宿が掲載されている冊子「とほ」に載っている宿で、その名前ゆえに以前から存在が気になっていた。

 各部屋は基本的に相部屋だが、「カーロス・リベラ」など、宿名の漫画に出てくる登場人物たちの名前がついていた。

 宿泊者は少なく、久しぶりにゆったりとした夜を過ごす事ができた。ここはサロベツ原野のど真ん中。夜空が本当にきれいな場所で、まるで降ってくるかのような星の多さに、しばし目を奪われていた。

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