六日目・知床の秘境へ

 8月21日(日) 曇り時々晴れ(走行 40km)


 昨日から「知床岩尾別ユースホステル」に泊まっているが、今日は連泊を決意。

 このユースでは宿泊者に知床の名峰・羅臼岳に登ることをお勧めしており、同じ部屋の人でチャレンジした人たちもいたけれど、僕はここからまた長旅が続くことを考えて登山には参加せず、宿からレンタサイクル(マウンテンバイク)を借りて、一路、知床五湖方面へ向かった。なぜ自分のチャリで走らないのか? というと、途中かなりきついダートがあるという情報があったからで、自分のチャリのタイヤでは細くて悪路への耐性が低く持たないと判断したからだ。

 去年のように、タイヤが使い物にならなくなりリタイア……という失態はイヤでも繰り返したくなかった。

 

 宿から頂いた弁当を持って、僕はマウンテンバイクで原生林の中を通る林道を快調に飛ばしていった。

 五湖は尾瀬のようなもの静かな美しい所。僕が行った時は観光客が多くにぎわっていたけど、同宿の人の情報では、早朝に見に行ったら客の姿はなく、代わりにヒグマの姿を見かけたそうだ。

 五湖を出発し、そのさらに先にあるカムイワッカの滝に向かう。この滝には天然の温泉が沸いており、温泉好きな自分としてはぜひとも行ってみたい場所だった。向かう途中、ひたすらきついダートが続いた。これはマウンテンバイクを借りておいて正解だったと思う。滝には観光客がいっぱいいてイマイチ風情がない。

滝つぼからは白い煙があがり、天然の温泉が湧きだしているのが一目でわかる。入り口に近い方の滝つぼはほぼ満員だったけれど、上の方へ登って行くにつれて人が減り、端の方に何とか小さな滝つぼを見つけると、そこにドブンと入る。入り方がワイルドだけど、これがなかなかサッパリして気持ちがいいのだ。


 カムイワッカから先、道路は行き止まりになり、僕は来た道を戻ってユース近くにある岩尾別温泉に向かった。通りかかった人に聞くとこの辺はヒグマのメッカだそう。僕は恐怖心のあまり、口笛を吹いたり、わざと叫んだりして十分用心して走った。

 岩尾別の湯はカムイワッカの滝のようはワイルドさはなく、温度は少し熱め。それでも原生林に囲まれた露天風呂は雰囲気があり、格別であった。木々の香りも濃く、秘境の温泉という雰囲気が十分すぎるほど漂っていた。僕以外は、羅臼岳からの登山帰りの人たちで、今日の山の様子を楽しそうに話していた。


 温泉から帰る途中、ヒグマでなくキタキツネに出会った。この辺のキツネは観光客慣れしており、人が来ると逃げるどころか、えさをねだりに逆に近づいてくる。


 帰ってからは夕食まで時間があったので、文庫に置いてある大量の漫画本を片っ端から読み漁った。所蔵する漫画のコレクションは懐かしいものから最新のものまであり、秘境の宿にここまで揃っていたことに驚いた。

 今夜もランプを灯る中での賑やかなミーティングが行われた。

 懐かしい歌をみんなで合唱するのも良かったけれど、客のノリが悪い時には、自ら先導するかのようにヘルパーの女の子(多分大学生くらい?)がタンバリンを叩きながらひときわ大声で歌うのがすごく印象に残っていた。彼女は普段もこんな感じなのか? それとも普段はネコを被ってひっそりと生活し、「本性」をひた隠ししているのか? 大声で歌いまくる彼女の後ろで、色々と下世話なことを考えてしまった。


 明日は知床を出発し、斜里まで引き返した後網走方面へ向かう予定。

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