第10話 課金ダンジョン



松明の灯りで照らされた洞穴。

その奥から、中ボス風の猿がちょこちょこ出てくる。

お面のように表情のないモンスターを二人が倒す。連携は良い感じだ。



「アンブラスプレー。足を、狙ってください」


「そ、らよぉっ!!」



ヒナの杖から出た黒い飛沫が猿の目を塞ぎ、信玄は両手剣をX状にブンブン振る。

すごいなぁ……右足、左足に重心を移動して大剣を振り回してる。あぁ…猿が膝をついた。



「フカもあんま、気にしないでよ?」


「え、なにが?」


「さっきの樋上の……言ったこと!協調性なさすぎんのよ、アイツ」



今すごい、協力プレイしてるんだけど。



「わかるー。Aクラスとか、班同士で協力してるのに……」


「マジでそれ。同じクラスになったんだし、情報交換くらいしてもよくない?」


「ほんと、くそだわ」



うちのBクラスは日本が一班、謎大陸が二班、フランスが二班だ。

孝二達とは同じフランスだけど……でも、授業中に班長同士で話し合いしてたよね?



「あ…んまり、そういうの言わない方が……フカくん引いちゃうよ?」



別に引かないけど、Yumiに乗っておこう。



「もうドン引き」


「うそつけ!」


「信じられるのはYumiだけか」


「ウケるんだけど。ゆみも大概じゃなかったぁ?」


「えっ?」


「ゆみは女優だから。今の全部演技、騙されてて草」


「し、してないっ!」



意外といじられキャラなんだね。反応がいいから、からかいがいがある。



「話戻していい?…この前先生が言ってなかった?軽くだが、班同士で情報交換しとけ~って」


「言ってた」


「お前はいいとか言われたわ、ウチらが知ってる情報なんて役に立たないとか。…他クラスの子の方が協力的だから。アタシあいつ嫌い、桜井。こっちが下手に出たら、調子ノってきてさッ」


「たしか、生産職同士でもない。中途半端なお前らと組んでもなーぁ?」


「リリン殺す!!」


「私じゃないって」



あー生産同士の班でも、支援って形になるのかな?

攻略って言っても色々あるって前に日菜が言ってた。

なにか大きいことをして、戦闘組だけでは達成できなかった。そういう感じが成績になるのかもだ。



「あっと、数が増えてきた」



リリンが腰から剣を抜いて、走っていく。

本当に獣系のモンスターがワラワラ奥から出てきていた。


よし。さっきはボスを引きつけちゃって失敗したけど!

今度は雑魚いモンスターだ。囮もいないし、信玄にいい所を見せられる。



「速射と強射」



速射は動かない間は攻撃速度、AGLが上がったみたいになる。

強射はセットしたボルトの威力がアップだ。


一射目だけ、速い矢が飛んでいく。続く連射でドンドンと矢がHPを削る。



「やっぱり、ここのモンスター強い?レベルはいくつくらいだろ」


「えと、25付近ですね」


「そうなんだ?他の班もそれくらいなのかな」



一撃で三割は削れる。信玄は一撃、リリンは連続攻撃で確実に倒していた。



「これで終わりだ!…ナイスだったぜ、小坂さん」


「どうも」


「おう……んじゃ、ドンドン行こうぜ?」



そのまま一本道を奥まで進むと、大きな橋があった。



「ぼっろぼろ。これ絶対落ちるやつじゃん……」


「けど、他に道はねぇだろ?ここまでほぼ一本道だったし」


「隠し通路とか、あるかも。探す?」



休憩になりそうだった。みんなから離れて穴底を見てみるけど、真っ暗で何も見えない。



「フカ、危ないよ?」


「うぁあ!?…押さないでね、ヒナ?」


「そんなことしないよ、押さないって。わぁ~真っ暗」



いつも海とか川で後ろから押してくるから、怖かった。急に後ろに立たないでよ。



「ヒナ聞いて、さっき信玄を叩いてたけど。暴力はいけない、我慢しないと駄目だよ?」


「あれでもかなり我慢した方だから。怒りたくもなるよ……」



正直かなりスッキリしたけど、日菜がヴァイオレンスに目覚めるのはなんか怖い。釘を刺さないと。



「でももう駄目だよ。それで、信玄は何か言ってた?」


「特に何も。叩いて正解だったね~」


「いや、それは絶対違うと思う。後で謝ってきなさい」


「えー……」



眉を少し寄せて、舌を出して、すごく面倒くさそう。

信玄の気持ちもわからなくはない。成績貰えないと退学なのに、ノンビリしてるもん。

そう私も思ってたけど、ヒナは最初の表が出るまでは様子を見たいって言うし。



「はぁぁぁぁぁ」


「わ、わかったって!後で、謝ってきたらいいの?」


「そうだね。礼儀はしっかりしないとだよ」


「きびし~」


「当たり前だって」



信玄は――また言い争っている。この橋以外に道はあるのか。なんかカッコいいフレーズだね。



「MPは大丈夫?」


「まだ半分ある。今入れ替えた、ちょっと吸わせて?」



スキルの入れ替えは一時間のクールダウンがある。ヒナが入れ替えたってことは必要なんだろうね。MPの回復手段は今はコレと自然回復しかないし。



「MPは使わないから、どうぞ」


「いただきまーす。吸魔っ」



腕を触られ、手を握られる。ちょっとだけ体から力が抜ける感じ。少ない青ゲージがみるみる減っていく。


これはヒナの種族固有の技だそうだ。魔人にも色々いるみたいで、ヒナはシュラペント族って種族だ。

湖とか沼を信仰してる蛇の魔物らしい。それと人間のハーフ。開かせた目は蛇とか猫っぽい縦長の瞳孔だった。ちょっとかわいい。



「アンタさぁ!言うのは勝手だけど、自分にできないことを人に押し付けようとしないでくんない!!」


「だから効率の話だ!俺が仮にデスペナ喰らったら誰がボス倒すんだよ!!」


「それは分かってる…けどッ、人の気持ちを考えなよ!そんな言い方で従うと思った?それに、まだ他に方法もあるのに、バカ正直に行く意味ないし!」


「まって、喧嘩は……やめ」



離れてるのに反響して聞こえる。モンスターは寄ってこない、全部倒しちゃったしね。



「この橋の下にさ、松明を落としてみる?よくあるよね、底からタコの化物とか」


「ボスって、そこまでのボスじゃないからね?多分ここは猿のボス。他はミノタウロスと怖~い魔女だって。今のところ三種類みたいだよ」


「あ、そうなの?」



ここで時間を潰してもなー。それに、授業が終わる前に今度こそ街に行って買い物とかしたい。

明後日からは休みだし、土日で大分差がつくと思うんだよね。街にも人が溢れそうだ。



「ヒナ、私ちょっとこの橋渡ってみる」


「え?危ないから、無理しないでいいよ?」


「大丈夫。この班の中で一番死んでもいい人、筆頭だからね」


「そ…んなこといわないで、さっきの気にしてるの?あ、ちょっと!」


「信玄!ジュリア~ン!橋渡ってくる~!!」



木の板は頼りない縄で結ばれていた。結構揺れる…けど、何もないかも。



「私も行…」


「それは意味ない、ヒナさんも待機で」


「あっ…ふ、フカ!気を付けて!!」


「なにかあったらすぐに知らせろよ!!」


「大丈夫~!」



手を振ってみると、アタフタしてて面白い。



「普通に来られた。遠くで何か言ってるけど、流石に……チャットで返信しよっと」



奥の方はどうなってる……かぁ。見て来よう。



「「「キキッ」」」


「「グフゥゥ……」」



なにか声がしたけど、崖上に出た。

右横には道が繋がってて、曲がった坂になっている。

崖下を見ると、さっきの猿の進化の系譜達。大きな猿がわんさかだ。それにコボルトもいた。武器も装備してるし、家みたいなのもある。人がいなくなった村みたい。



「なにかアイテムがありそうだね」



チャットを送ってしばらく待つと、みんながやってきた。



「お~お~、いっぱい居やがるぜ」


「これは…スルー無理そう。全部倒してくよね?」


「あったり前だ!経験値がうめぇ!!」


「そうだね。敵の数が多いけど、引き寄せてく感じ?」


「だな、鮫島。早速やってくれ」


「時間間に合うかなぁ……みんな、なる早でお願い!」



午後の授業が終わると、帰りのホームルームのために教室に戻らないといけない。多分、歩かせて運動不足を解消させようとしている。学校側の親心だ。



「強射。それじゃあ、みんなで、頑張ろう!」



パスッ!





「「「キキキキッ!!!!」」」



坂を上ってくる敵を前衛の三人が倒し続ける。今度こそ底が見えてきた。

ヒナはウェーブとか言ってたけど、どうやら敵が出現するという意味の波があるらしい。

ここは段差になってるから、気にしないで撃ち続けられる。



「ごめん、抜けた!!」



ジュリアンの横を通って、コボルトが坂を上ってくる。

今は下手に挑発を使うのは危険そうだ。一匹二匹くらい、問題ない。



「大丈夫、キック!」


「キャインッ」



重たい感触。そこまで吹っ飛ばないが、坂を転がり落ちていく。



「振り向かないでくださいね!アンブラスプレー」


「きゃあ!?な、ナイスだけどぉ……」



ヒナがシャワーをかけるように、仲間ごとやった。でも、敵の動きが止まってチャンスだ!


コボルトを調査すると、下級兵士コボルトとある。そのままだ。猿のドルマン系は主に三種類。

小型と中型と武装した猿がいて、装備はそれぞれ違っている。武装した猿は貴族なのかもしれない。大体一匹一つの装備をつけていて、小型の方はボンボンかな?



「バッシュ!あぁ、もう、キリがない!!」


「大丈夫!少しずつ減ってる…から、スラスト!」



パスッ、パスッ。



装備は剥ぎ取れるし、条件を満たせば装備もできる。だが汚い、病気になって感染症とかになるらしい。中世だね。



「おっしゃあ!回転斬り!!」



あっ!信玄が動かない敵の中に飛び込んでった。危ないけど、バッタバッタと切り伏せていく。いいね。



「ねぇ!やりすぎだって!戻ってこ~い!!」


「信玄、列を崩さないで。ちょっと、止まれ!」


「あれ?走って降りてっちゃった。ヒナ、ちょっとだけ前に進む?」


「う~ん、ここで死なれたら困る。行きましょ?」


「あ、はい……援護に、よいしょ!」



レアな大剣を振るう信玄は、スキル【回転斬り】と【スラッシュ】を交互に使う。

武器についてるスキルはスラッシュだ。レア以上からスキル付きが出る。

あの剣大きいから、スラッシュでも三匹まとめて倒せてるね。



「ぐッ!?な、盾だと!?おわああ!!!」



あっ!信玄の回転斬りが止められて、背中から倒された。でもヒナのシールドで被ダメは軽微だ……といいな。



「言わんこっちゃないじゃん。もう…挑発」


「待って!それはマズっ……ヘイスト」


「ヤッバい!?えっと、防刃!あ、あんにゃろうぅぅぅ!!」


「フカ達も来た、もう倒すしかない」



まだ二十体近くいる。信玄は踏まれて、無視されて、敵は一気にジュリアンの元に走って…



「や、ヤバい!」


「アンブラスプレー」


「ヒナのそれ便利だね!」


「そうでもないよ、二人共構えて!」



どっちの事を言ってるんだろう――多分どっちもだね。



「くっ!優華は盾になって、後は私が…っ」


「わかった!!」



連携が完璧の二人は戦っていたコボルトを手早く倒し、坂を上ってくる集団に備える。



「MP節約したいので、できるだけ耐えてくださーい!」


「がんばって!!」



言いながらも矢を撃ちまくる。よし、一体撃破!その屍を超えて集団は近づいてくる。

ジュリアンが敵に囲まれそうなところを速度の上がったリリンが必死に倒す。

上からYumiと一緒に援護の矢を飛ばす――けど、一番厄介そうな大猿のHPが全然減らない。これマズいかもだ!



「うおぉぉおおおお!!!」


「なんか復活した、でも体力が無いね」


「距離が遠くてヒールは無理そう、自分のHPに気づいてないの?判断力ないねぇ」



ヘイストの効果が切れ、膝をつくリリン。



「…あっ、ごめん、私を守って」


「ちょ、リリィィィン!!!」


「ふぁいと」


「挑発を解除しろ!」


「はぁ、冷静に考えたらわかるでしょうに。言わないでも時間で切れるわよ、ね~?……あれ?のぼる?」



坂を走りながら矢を放つ。矢は大猿の腕に刺さって、HPは微量に減った。クリティカルでも倒せなかったが、本命はこれだ。



「どぉ~~~ろっぷ、キッックぅ!!」


「ギャギィィッ!?」


「ぐはああ!!」



ふふふ、ドロップキックが決まったぁ!しかも転がり落ちて、追加ダメージもあるはず。一番デカい敵を倒せたかもだ。

急いで、立ち上がって、リリンを守る。大丈夫!信玄がいるから一緒に守れば……守れば?



「あれ、信玄は?」


「フカ後ろ!避けてッ」



リリンの声に反応して、横に跳ぶ。



「キキッ!」


「危なっ、ナイスリリン!お前も落ちろ!」



爪を回避して蹴る。そして矢を装填――坂の上に行こうとするコボルトに向け、撃つ。

背中のド真ん中に突き刺さった。そしてフラつくように転がり落ちていく。



「どっせい!!もう少しだから!気を抜かないでっ」


「うん!こんの、うりゃあ!!」


「あと二体、いけーいけー」



Yumiの援護もあり、ウェーブは凌いだ。



「これ、難しくない?よく孝二達は初日でクリアーしたね?」


「てめ、あっぶねぇだろぉが!!!」


「アンタが言うな!!」


「ほんッッとそれ。まじでありえないから。勝手な真似しないでくれない?」


「っ……そりゃあ、な」


「えっと……私なにかした感じ?」


「ン~♪な~んにもっ。えらいえら~い!」


「フカはナイスだった」



ギャルに褒められてると、ヒナ達が下ってきた。



「ねぇ、ごめんなさいは?」


「あ~~、なんつーか。すまねぇ、調子乗ったわ」


「は?え、聞こえな~い?」


「なにそれ。ごめんなさいっていいなよ、それ謝ってないよね」


「……チッ」



ジュリアン達が信玄を虐めてるように見える。ミスくらい笑って許そうぜ?



「フカ、頑張ったね~」


「どーして子供扱いされてるの。いいけどさ、みんな~!ほら廃村だよ、良いアイテムあるかもよ?」



やっぱりゲーマーだね。みんなの興味は未知のアイテムに向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マキオンワールド MM @Art18196

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ