第9話 パァン!
今日でゲーム開始から3日が経つ。
午前中は昨日行ったパルムの森で狩りをして、遊んだ。
そう、狩りである。狩人になったぁ!レア度はアンコモンで、ステータス画面が緑色。
レベルは1になるから、割り振ったステ値がなくなる。それでステータスがちょっぴり下がるけど、問題はない。だって……後衛だからぁ~♪
「機嫌よさそー」
「まぁーね♪ジュリアンもほへ…職業が上がって、嬉しくないの?」
「ここでジュリアンはやめて、恥ずいわ」
狼耳が可愛いジュリアンは歩兵になった。
今は自慢大会という、発表会が終わって次の授業までの休み時間だ。
「ジュリアンがキャラ名で呼ぶことになるって言ったんだよ?」
「え。アタシ、そんなこと言った?」
「ジュリア~ン♪」
「ちょい、やめ!やっぱなしなし、優華でいいからっ」
「なにイチャついてるの?」
「リリン助けて、辱められた~」
人聞きの悪いこと言われた。ヒナが近づいてくる。
「のぼる、なにしたの?」
「なんで抓っ、痛い!キャラ名で呼んだだけだって」
「ふ~ん」
「見てリリン、あれが幼馴染よ?ラブラブだよ~」
「ヒューヒュー」
話してるとすぐにチャイムが鳴り、先生が教卓に立った。
「今からVARを配る。起動確認の前に、しっかり名前を書くんだぞー」
前の席から、開いた大きな箱が送られてくる。中には眼鏡とイヤホンがあった。
この眼鏡は動画配信者の視点を見れたりできるお高い眼鏡。
スピーカーが無いタイプ?イヤホン必須だね。
「今日は配信部の生徒の動画を見ることになっている。みんなで一緒の人の配信を見ることになるが、誰を見たいかを決めて欲しい。パッパッとな、プリントを配る間に考えろ~考えろ~」
そういって先生はプリントを配っていく。どこが良かった、悪かった。
改善点も書かないと駄目みたい。これも成績に影響する?
月のゲームの取得金額、倒したモンスターの数、作った物の数、見つけた情報等々。
先生達が成績をそういうので決めてるみたい。ある程度のポイント表は出来上がってきたみたいだけど、まだ発表はされていない。
ボスモンスターを倒した……とか。初めてなにかを成し遂げた……とか?そういうのがポイント高そうだ。
今日見る人は、日本からスタートの二年生の男の先輩だ。痩せてるけど、腕の筋肉があった。
合戦に参加して、メッチャ斬り殺してる。途中でやられて、掛け軸のある部屋に強制送還。
歴史ある街並み見学になった。景色が綺麗でいいね!匂いはわからないけど、いつか行ってみたいな。
☆
「日本行きてー」
海外のデカい木の根に座って、信玄が呟いた。
それに誰も何も返さない。だって面倒臭そうだから。
「あ…あ、あの、うどん。おいしそうだった、よね?お団子も」
((((やさしい))))
「まあ……そうだな」
Yumiは私達を会話に入らせようと、疑問符をこっちに投げてくる。
みんな知らんぷりしてるから、空気を読んでおこう。
そうして各々が自分の武器を整備してる風を装って、二人を見ていると。
信玄は耐えきれなかったらしい、立ち上がって狩りに行く事になった。
「はぁぁ……全員のレベルが20なったら、迷宮だぜ?」
「わかったわかったっ」
「ちっ、他の班はもうクリアしてんだぜ?俺らはフルパなんだから、そこまで慎重になることもねぇよ」
「もうわかったから!アタシが悪かったってば!」
例の課金の鍵、成績優秀の班はまた貰えるって先生が言ってた。
難易度はそれほど高くないみたいで、私達の班だけまだ使ってないみたい。スタートダッシュアイテムだって、あの時説明してたみたい。ごめんミサ先生。
「それで?そのダンジョンをクリアーしたら、装備が貰えるんだっけ?」
「そう。一人一つのレア以上のアイテム、それが入った宝箱が奥にあるって聞いた」
「桜井の班は初日にクリアしたんだと。エピックの槍が出て、今は俺達の倍以上進んでる。……あの時グーを出しときゃなぁぁ…」
「やめてくんない?そういうこと言うの。感じ悪っ」
「事実だからな」
もぉ~相性いいな、この二人。
私が余計な事を言わなければ……いや、理由はなんでもいいはずだ。私悪くない。
「……あ、さっきの授業の落ち武者先輩さ、喋り方変じゃなかった?面白かったけど」
「面白かったね~、あれロールでしょ?」
「ロールって?」
「ロールプレイだろ。お前ほんとにゲームしたことないんだな…」
ゲーム?ふざけたことを言うね。
「いや、あるから。パーティゲームにパズルゲームとか。グランド6とか」
「なんで最後だけ年齢指定厳しいやつ……しかも、古ぃ」
伝わった!さっすが、ゲーム学校の生徒!
「ロールプレイは……演技するって感じかな?」
「大体合ってる。あの先輩は、侍プレイ。落ち武者かも?…フフッ」
リリンが自分勝手にウケてるし。
あ、デメアスでヒナと店を回った時にいた、闇商人っぽいプレイヤーとか?
保育園もあったみたいだし、保母さんプレイとかもできるんだろうね。ニュースで泣いてたな、サ終で…
「フカもロールしてみたら?」
「簡単に言わないで!!混乱するでしょ?あ、ジュリアンはした方がいいと思う」
「なんで!?一人だけはキツイって!」
「それいいかも。ファンタジーぽい名前つけたしね。一人だけ」
リリンがニヤニヤして、賛同した。リリンも大概だよ。
「や、やだってば!リリンは……そういえば、こいつはリアルロールだったわ」
「そこまで巻いてない。それはもういいから、ジュリアンぽくして?」
「も~勘弁してよ……」
「フカもして?俺っ子になって?」
「いや…なんで?」
「かわいかったから」
そんなこと言うと、こっちに標的が絞られるよぉ。ヒナ~!!
「信玄!迷宮って…」
「あ、なんかそれ聞いたわ。フカは中学が男子校なんだってぇ~?」
「私って言ったら、狙われちゃうの?クッ…フフ」
ガサガサガサッ
「あ、ほら!モンスター来た、モンスター!!」
「GRUUUUWAAAAAAAAAA!!!!」
「くまっ!!?」
2mを余裕で超える。赤目で強そうな黄色の熊が立ち上がり、こっちを見た。――極悪な爪を研ぎながら。
「ジュリアン、盾!」
「え……あ、れ、動け…ない」
「恐怖か?まじぃな!」
「…ヒナさん?」
「今ニュートは外してて、使えません」
MGRが高めのジュリアンがかかるってことは、全員くらうんじゃ?
「うぉおおおおおお!!!」
「一人だけ精神耐性上げてる!」
「俺が前に出る、援護頼んだ!!」
あれが立札にあった、ウィローグリズリーだろうね。
「属性耐性が火が一番弱くてっ。あ、でも耐性あるから効きにくい…から、え…えっと」
「焦らないで、大丈夫」
「う…うんっ」
なにも焦ることはない、私はクロスボウを構える。
この武器のコツは掴んだ。まず、少しSTRを上げてください。そして片手で持ちます。
次に弩を持つ指に矢を収納するケースを引っかけ、空いた方の手で弦を引き、矢をセット。そして撃つ!何度も沢山、大量に!
パスッパスッパスッパスッパスッ
一秒に二発くらい撃ててる気がする!
「GRUUU……GUAAAAAAAAAAA!!!!」
「あ、想定外!こっちくる!?」
「い、いやぁっ!!!」
「うおらぁあッッ」
信玄がクマの背中を切りつけたが、無視してこっちくる!!
「シールド!」
「…ハッ!?あ、ヤバッ!!リフレクトぉぉおお!!」
「ジュリアン!?うごっ…」
目の前にジュリアンがっ、攻撃を庇いきれずに吹っ飛んできたぁ……いたた、クマも吹っ飛んだ?
「ふっ、はぁっ…スラストッ」
木とジュリアンに挟まれて身動きが……背中温かい。
戦闘はまだ続いてる。リリンが軽快に動き回って、クマの相手をしていた。
クマの動きが悪くなってる。なんか、もう勝てそうだ。
「…フカ!ご、ごめんっ」
「いや、守ってくれてありがと」
「当たり前だし、立てる?」
信玄とリリンに挟まれて、ヒナが回復を続けて――倒した。
黄色のゲージがグングン伸びて、レベルが上がる。
「えっとね?骨折状態で、動きが弱くなって。それと出血から気絶になったみたい?でもすぐに回復して、その間の二人の攻撃でHPは一割くらい…」
「助かるー。じゃ、このレポートも夕美が書いて?」
「それは……大変だから、璃李がやって?」
「リリンね」
「ご、ごめん。リリンがやってね」
「はい……そもそもこれ。班長の仕事ですけどー?」
班長はリジェネされていた。
私が解体しないとだから、使い道の少ないリジェネポーションを使った。
獣の解体はお父さんに手伝わされて慣れていた。魚もだけど、鹿もだ。
今は漁師と猟師は公務になっている。取りすぎも、取らなすぎもよくないんだって。
お父さんの友達と川に行ったり山に行ったりすると、よく獲物を解体させられる。熊も。
「ふぅ…!」
「いい笑顔だけど、顔に血がついてるよ?動かないで~」
「めっちゃ綺麗に剥げたよ?」
「ぐ、グロイって……そんなもの捨てて!」
設定でカラーを青にしてるから、そこまでじゃない。ちょっと血生臭いけど。
「熊肉っておいしんだよ?ねー、Yumi?」
「え…あっ。とてもおいしいと聞いてます……食べたことはないで…ウプっ」
目を逸らされた。
「こんなに持てねぇ。半分捨ててけ」
「もったいな……」
裁縫スキルでバックを拡張できるらしいけど、誰も取ってない。街に行かないとだ。
「んじゃ、鍵使おうぜ?」
「鍵はいいけどさ、信玄は疲れてない?」
「十分休んだ。俺は全然だ」
「フカは疲れた?もうちょっと休む?」
「こいつは戦闘も疲れねぇだろ…」
「そうそう。私は平気、ジュリアンもいい?」
全員まともな職業になった。余裕で迷宮に行けるね。
私が狩人、ヒナが魔女、リリンが盗賊、ジュリアンが歩兵、信玄が鍛冶師見習い、Yumiがシェフ。
「別にいいけど、ここで?門から敵が出てくるのに、場所は選んだ方が…」
「出てくるのは雑魚MOBだ。それに誰かに宝を横取りされるかもしれねぇ、人目につかない森が最適だぜ」
他の人も入れるから、それは怖いね。フィンみたいな速い人が颯爽と奪っていきそうだ。
「…かもね。じゃ、みんな準備はいい?」
「いいよ」
「よろ」
「大丈夫で~す」
「うん……」
ジュリアンはバックから取り出した鍵のモニュメントを地面に置き、使用した。
「置き型花火みたいだね」
地面に円状の紋様ができて、光り出す。
「お、出てくるぜ!こいつぁ~……コボルトか?」
「うわっ、挑発……い、多い、多いって!!」
「できるだけ横に走って!」
「そ、そんなこと言われても……っ…きゃあ!」
二十、三十と続々と小型の人型のモンスターが現れる。
犬顔の曲がった背のコボルト、猿のモンスターもいる。名前はドルマン。
ゴブリンのように小さいけど、すばしこい。
「オラッ!ハァァァ!!!」
「こっちは安全だけど、なんか申し訳ないなー」
「そういう役割だからね。精一杯援護しましょ、アクアボール」
こびりつく汚れを取るように、少しずつ慎重に削り取っていく。
「は…ぁ…はぁはぁ…ッ…しんどぉぉぉ」
膝に手をついて、背中で息をするジュリアン。
「ちょっと休む?」
「オネガイ…シマス」
「水は飲みますか?」
ヒナの水筒を持ったまま、飲むこともできないくらいに息切れしていた。持久力は大事だね。
「まだ五分も経ってねぇ……体力つけろよ、それか持久力に振れ」
「あ、あいつ。ブッ殺してやりたいぃぃっ」
「信玄も言い方悪いって、攻撃を回避しながら逃げるの大変そうだったよ?」
「そうか?つーか、お前らの役割逆ならよかったよな。お前シャトルランで最後まで残ってたろ」
それを疲れてるジュリアンの前で言う?
「そうかもしれないけどさ。傷つくような言い方やめない?」
「あ?なんでだよ。俺達はたしかに班は組んでるけどな、たまたまクラスが同じになっただけの関係だろ」
「…え、だから?」
「そういう馴れ合う感じは好きじゃねぇよ。俺以外も基本そうだぜ?イーグレットには攻略する為に入ったんだ。俺は桜井達の班に入れなかったから、仕方なくお前らの班に入っただけだ。そもそも攻略する気があんのか?下手したら退学になるんだぜ?危機感ってもんがなさすぎだわ。俺とお前らでは意識が違うんだろ」
この!ジュリアンが何も言えないからって、好き放題言って!!…イラつく。
「たしかに、結果はまったく出してないけど。その結果だってまだ分からないよ?スタートが良くなかったからって、諦めるみたいに仲間を悪く言うのは違うんじゃないの?」
「仲間ぁ?はっ、雑魚が言いそうな言葉だな。分かりきってるだろ。小坂さんとリリンとYumiさんはいい、お前とジュリアンは替えがきく」
こ、心にグサッとグサグサッと来た。刺さった…よ。
「そうは思わないけど……」
ヒナ、お母さんみたいにぼそっと言わないで。ちゃんと言ってやってよ。
「さっきの熊を倒せたのは、ジュリアンのおかげだから!」
「お前がタゲを取らなきゃ、俺とリリンが倒してた」
「う…ぐっ…」
「アンタさ、マジいい加減にしたら?いつまでも言い訳ばっかして、みっともない。ダサすぎ」
やばいやばい回復しちゃった、喧嘩が始まっちゃう!
「待ってジュリアン!回復したでしょ?レアアイテムを取りに行こう!な、信玄?」
「まあ、そうだな。二人で傷を舐め合ってろよ…小坂さん?」
パァン!!
ヒナがビンタした。ええええええええええええ!!!!
「ぁ…ぇ、え?」
「早く、中に入りましょう」
「あ……は、い」
「「「「………」」」」
なんで、何事もなかったかのように?
信玄も頬を撫でながら、普通に迷宮に入ってく。
「ジュリアン、怖いよぉ」
「リリン、怖~い」
「夕美、おいで」
「………うん」
Yumiを先頭に、ヒナ達の後ろを歩いていく。
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