第8話 パルムの森


お昼ご飯を食べた後、すぐにマキオンワールドに戻る。



「まだ夜だね」


「そりゃそうだろ。タイミング悪りぃよな?どうせなら、朝スタートがよかったぜ」



女子は来てない。混んでるのかな?

プレイルーム近くのトイレとか凄い混んでたし、女子は回転率が悪そうで可哀想だ。



「あ、採掘者になってる。鍛冶師の予定だったっけ?」


「前にも言ったろ。まあ、この建築スキルも役に立つっちゃあ立つ。マイナスではないな」



石工、木工のスキル。それに建築まで取って、戦闘系は取れなかったみたいだ。

スキルは実績の解除とか、一定のレベルが上がる毎に貰えるアンロックトークンで取得できる。

パーティで一番ダメージを出す人が信玄だからね、ご飯食べてる時も後悔してた。


簡易拠点は木で作られた大きな箱だ。扉だけは石で作られている。ヒナは壁に寄り掛かって休眠状態だね。三人は寄り添って寝ている。



「武器の耐久度も減ったな……修繕もか、トークン足んねぇ」


「鍛冶師はどのくらい先?」


「多分この次。でもそっち取ると、火力出ねぇんだよ。それに金がもったいねぇ。作った方がいいか…」



ブツブツ考え込んでしまった。

信玄はつるはし擬きを作れたし、扉も作った。剣も作れそうだ。石の矢も欲しいし、つるはしで掘る?



「この辺って割と安全だよね?」


「ああ。…お、ちょっと掘るか?」


「どっちかが見ていれば、平気だと思う」


「俺が掘るから、お前はモンスターが来たらすぐに教えろ」


「わかったー」



カンカン音が鳴る。信玄、掘り慣れてる?前のゲームでもやってたのかな?



「わっ!!」


「ふあああ!!?」


「な、なんだ!?」


「あはははははっ!!!」



連鎖反応で信玄まで驚いてるよ、ビックリした……リリンとジュリアンね。

いつの間に起きてたんだ。遅れてYumiとヒナも起き上がった。ゾンビみたい。


信玄が拠点に近づいてきて、作戦会議を始める。



「街に異端者は入れない?――それ、どういうことだ?」


「だから、魔女狩りよ。歴史で習わなかった?」


「あー……それが?」


「いや、だから、魔法使い系はバレたら逮捕されて死刑」



どんなゲームだよ。子供もやるんじゃなかった?ハードモードすぎる。



「ヒナはこの辺でベータしたんでしょ?その時も?」


「私ベータの時は馬を使ってたから」


「馬を使ってたってなに!?」


「移動手段にね?街には極力入らなくて……杖とか、魔法系の武器を持っていると駄目なんですかね?」



その前に魔人は入れないんじゃない?青肌だし。



「というかリリン達はどうしてそんなこと知ってるの?」


「クラスの子に聞いた」


「あー」


「……んじゃあ、続きするぞ!レベル上げだ!」



すぐに支度をして、夜の草原を彷徨った。

信玄は『怒声』の効果で、大声を上げると精神耐性。さらに『強健』でHPにボーナス。

どっちもパッシブスキル。多少はダメージを受けても問題なく、かなり強引に戦闘をする。



「ヒール」



それをヒナが回復させ、信玄がモンスターを倒すこと倒すこと。

ヒナに魔物とモンスターの違いを聞いたら、死んだら消える生物が魔物らしい。

モンスターは剥ぎ取れて、魔物は何かを落とすこともある。幽霊みたいだ。



「ざりゃああッッ!!」



1に戻ったレベルは10を超えて、弓兵に上がったところで授業は終わった。



次の日。



「翼達は昨日迷宮に行ったんだとよ、エピックの槍が出たって言ってたぜ」



ここは第二簡易拠点。

昨日は始まりの農場から、ルーラットという街の入口まで来た。

そして、そこから引き返すように、丘の方角に北上した。

この丘を越えると、風車小屋のある村が点々としてあり、別の街があるとヒナは言う。



「だから、私達も――って?」


「そうだ。行こうぜ?強ぇ装備が手に入ったら、効率上がるだろ!」


「それもうちょい待って」


「ウチらはウチらのペースで行こ?アイツの言うことはホントかどうかわかんないし、アタシ失敗した子の班も知ってるんだけど?」


「いや、けどよ…」



孝二が言ってたから、多分ホントだ。

課金アイテムは発売からしばらく制限がされるみたいで、一日に三つしか買えない。

生徒はそもそも購入できないけど。



「はぁ」



隣で溜息が聞こえた。よく分からないけど、ヒナも反対らしい。



「信玄、数日は様子見てもいいんじゃない?念のために、もうちょっとレベルは上げておいた方がいいと思うよ」


「そそ、失敗したらマイナス。それはありえない」


「その数日で離されるだろ、俺の話を聞け。RMTの為に大多数のプレイヤーは…」



難しい話題から離れて、私はYumiの料理の方へ。

ドロドロのスープは濃厚そうだ、木の皿にはジャガイモのようにゴロゴロキノコがいっぱい。

私は謎の茸料理を啄む。調査スキルでは安全らしいけど……旨っ!



「え、なにこれ一番おいしい!!」


「え、そうかな?えへへっ」


「ヤバー、いい匂いするぅ。あれ食べて、レベル上げしよ?昨日レア武器出たし、頼りにしてるわよ~」


「…だな。昨日よりは楽か、なんだこれうめぇ!!」



昨日、私のスキルで見つけた宝箱から攻撃力高そうな外観の両手剣が出た。

それを信玄が背負ってて、なにかの漫画のキャラっぽい。まだ血を知らない剣だ。


もう日は昇ってるから道中にモンスターはいない。目的の村までは、ただ移動するだけ。

すぐに風車のある村について、道すがら決めた通り分れて行動する事になった。



「ジャガイモくださ~いっ」


「あん?はぁ、10でいいか?600hだ」


「じゃあ、30個で」



愛想のないおじさんから買った、泥のついた芋をYumiのバックに入れる。



「汚れそうで嫌だよね」


「うん。でも洗えば、平気だよ」



袋の中を?


私達のパーティは昨日倒した狼の毛皮や肉を交換して、ちょっと小金持ちだ。

9.8000ほどある。9Kと表示されて、H部分の小数点は切り捨てられた。

1000Kになると、1Mになる。1000Mで1G、次はTかな?

武器の類は最安で3000Hから取引されるってヒナが言ってた。この村には武器は売ってないけど。



『もう素材売ったか??』



信玄からパーティチャットが飛んでくる。売ったと返すと『マジカ』とだけ。

しばらくして合流すると、村人に囲まれた信玄の姿があった。

ヒナ達は木の下の木陰でそれを見ている。ジュリアンの耳が風で折れて、かわいい。



「あれは?」


「経歴のヤツっしょ、あむ」



ジュリアンが答えながら目の前のリンゴを齧る。

両手は大きな紙袋で塞がっていて、袋からは赤いリンゴが溢れていた。



「リリ~ン、アイツ民衆の味方って言ったぁ?」


「そんな感じ。私も、もうひとつ」 


「村での売買は彼にさせた方がよかったね。ごめん、気づかなかったよぉ~」



ヒナに頭を触られる。ジュリアンからリンゴを貰って食べてみると、甘酸っぱかった。



「てかさ、明日…午後から授業あるって。さっきメッセきたわ」


「ま?ゲーム内でなく?」


「そ。進捗発表ぽい、記録係がお願いね?」


「だる。……やー、やっぱやだ。それはないありえない。リーダーがやって、ジュリアン頼んだ!」


「えっ?アタシ書いてないし、ムリムリっ!」



二人で押し付け合いをしてた。信玄は逃げるようにこっちに戻ってくる、女の子と一緒に。



「おし、もう出るぞ!」


「お待ちになってください!よろしければ、お昼をご一緒に…」



村娘に絡まれていた。信玄に押され、逃げるように村から出た。



「信玄様、私ずっと待ってますから~~~~」


「だって?モテモテねぇ、まだ手振ってるし」


「るせー。いいから、レベル上げんぞ」



風車村からは街への道が出来ている。

その道をずーーと進んでいき、灰色の壁が見えた。とても大きい街だ。



「あそこが、チューベルト。ここ一帯を納める貴族が住んでいる街ね」


「見た感じ誰も並んでないね。門も大きい」



遠くから見ても門だってわかるくらいにデカかった。下にいるのは騎士かな?



「目的はそこじゃないだろ?」


「入口の所から道が分かれて、東には採掘場。モンスターが出る洞窟があるから…」


「よっしゃ、突っ切って行こうぜ」


「ありえないんだけど!絶対虫モンスターいるし!!」


「山城、我儘ばっかいいやがって」


「ハァ?アンタこそ…」



また喧嘩だ。――やっとこさ着いた採掘場には、人が結構いた。

やっぱり考える事は皆同じ?モンスターは資源だとか、言うらしいけど……本当だったんだ。



「人いっぱいじゃん!え、ここ並ぶ?」


「ないわー。……中でも待たないといけないかも?」


「また並ぶのだりぃな。こうなったらよぉ、誰も行ってねぇ場所に行こうぜ?」


「アンタバカ?誰も行かないのにはちゃんとした理由があるわけ、わかる?」


「うるせえな!んなこと分かってるよ!小坂さんは知らないか?おすすめの狩場とか」



ヒナは知っている。しばらく様子を見るって言ってたけど、どういうことだろ?



「あの街を超えた先にある森は危険度高めですね。レベルが20前後で、上級者しか行かないかもです」


「よし、そこだ」


「いや……それは、難しいんじゃない?」


「俺達の目的はなんだ、攻略だろ?問題ねぇって、戦闘も上手くいってるんだから」


「それには私もさんせー。昼間の内はエンカウント率低いし、今レベル16だし。そこまで苦戦はしないと思う」


「だとよ」


「うざっ……わかった」



ジュリアンはゴキゲン斜めになってしまった。心配してるのに、だとよはないよ。



「ゆ~み~」


「うぁ…っ」



森へ来た。立札がある、ウィローグリズリーに注意!!パルムの森。

誰も立札には目もくれない様子。



「熊出…むぐっ」


「(のぼる、黙ってて?何も問題なーし)」



バキッ



壊しちゃダメ!!え、言うなって?なんか面白そうだし、いいけどね。

また引き返すなんてありえない。ちょっと退屈がすぎる。

退屈は人を殺すというやつかもしれない。


森に入って早々に、道外れの上り坂からモンスターが近づいてきた。



「左だ山城!」


「ジュリアンなっ!」


「「「「グルルルルルッ!!!」」」」



また狼……かと思ったら、一体だけ二足歩行の人狼モンスターがいた。発達した筋肉は毛で覆われて、手には長い剣を持っている。



「るせぇ、雑魚は任せた!!!」


「ちょっ、一人で突っ込むな!…挑発!」


「あれ、ジュリアンの仲間?そ~れッ」


「なめんなよ。アタシはハーフ!ちょっと違うし!」



大声で精神耐性を上げて、信玄は突貫していく。

それを阻む狼に、リリンの盾が飛んでいった。



「はっ!」



リリンは続けて、切れ味が落ちた剣を狼に突き刺す。

後方で私とYumiは邪魔をしない程度に矢を撃って支援する。



「アクアボール……えいっ、アクアライズ!」



綺麗な水のボールが杖に触れ、大きく膨らみ飛ぶ!

狼男に炸裂、水に捕まった狼の体が少し浮いた。



「ヒナのかっこいい!」


「でしょでしょ?」


「るっらああッ!!」



信玄はちょっと強そうな、尖った両手剣を胸部に突き刺す。トドメを刺した。

余裕があったので、調査してみるとワイルドウルフってモンスター名だった。

レベルが低かったり、情報が不足していると『???』で表記される。



「弱点は火、斬撃と打撃に少し耐性がありました」


「次はもっと早く言ってくれよ?……あ、いや、責めてるわけじゃねぇ。使える情報があった時は頼むわ」



そんなこんなで、クマさんに出会うことなく。あっという間に一日が終わった。


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