第7話 冒険の始まり




リリンが大仰に溜息をついて、信玄の肩をやさしく叩いた。



「まだ君には早い。当初の計画通り、クラスを取得してレベルを上げてからね」


「そうそー、冷静になりなー?コレを無駄にするのは勿体ないぞぉ~?」



≪パーティに招待されました≫



ヒナが空気を読まずに送ってきた。いいけどね。

ステータスをパーティ公開にしてと……これでみんなに見れるのかな?



「ほら、パーティ入れし?ステータスの確認だけしとこ?」


「…だな」



職業  蛮人  EXP0 →NEXT30  LV1



前にやった時とUIが変わった気がする。

端の方にオープン表示の切り替えボタン、これは他人にも見せられる機能だね。

表記が日本語訳に変えられて、頭にスッと入ってくる。…パーティ画面は、これ?


新しい画面が手元に現れた。

一つの画面に縦に長いステータスバーが6つ横並びに置かれてある。

レベルとステータスが上部に書かれ、真ん中に絵のついた小さなアイコンがあった。

アイコンに触れると下部に書かれた装備品や持ち物、属性値を切り替えられると……拡大アイコンを押すとキャラの全体像と装備画面、スキルまで見れた。


私はフカ。職業は蛮人。特性は野心家?その効果はVITに補正++……当たり!!

蛮人が進化すると、アーチャーとかレンジャーになると思う。

【野生の勘】【キック】【集中】【ショット】


ヒナは魔人と没落した貴族の娘、特性は潜水。

VITとINTを均等に上げてる。職種は異端者、長杖を装備。

【ヒール】【ウォーター】【シールド】【吸魔】


リリンの職はごろつき。平民出身の極悪犯罪者エルフ。

STRとDEXを上げてる。盾と片手剣を持って、特性は殺人者。殺人者!

【煙幕】【早業】【隠密】【ブーメラン】


ジュリアンは兵士の背景効果で盾にボーナス。特性は勤勉家。

DEFとMGRを上げて、職はやっぱり兵士。中くらいの盾だけ持つ。

【構え】【リフレクト】【挑発】【根性】


Yumiは見習い料理人、特性は目利き。

技能特性が工作系でVITとDEXを上げている。手ぶら。

【手作り】【キッチン】【解体】【調査】


信玄は浪人。STRとDEX、リリンと同じだ。特性は勇敢。

背景では弱い者の味方と説明書きされている。村人からボーナスとかあるのかも?

【怒声】【渾身の一撃】【威圧】【強健】



後はディドラさまの加護も発動してるっぽい。

パーティ全体に戦闘開始から30秒間、与ダメージが5%上昇。


HPは平均で90くらい、MPはバラバラだね。私は38でヒナは75もある。

その代わりに私のSTは81で一番多い。VITで割り振れるみたいだけど、とりあえずはこのままでいいか。

VITに補正があるみたいで、私が平均値を上げていた。野心家は当たりっぽい!



「お前も基礎ステ高めだな、弓だから意味ねぇけど」


「まぁね。設定でリアルにしたから、多分ちょっとだけボーナスも入ってる」


「なあ、ミスはねぇだろ?こんなの穴が空くほど見た。俺達も行こうぜ?」


「ちょい待って、装備とかはこのままでも平気?」


「問題ねぇよ。武器が弱かったら、近くの街か村に行けばいい」



それを最後に信玄は自然の多い方へ歩いていくのだった。

遠くには山々、近くには木々が生い茂ったモンスターが居そうな森がある。



「フカ……フカヒレ?」


「シーーー」



ヒナが気づいた。前の人に聞こえるから静かに言って!



「あ、そゆこと?サメだから?」


「…ジュリアンはどうしてジュリアンていうのー?」


「世界観を重視して、それっぽくつけただけ。アタシより夕美のが酷いっしょ」


「えっ」


「一人だけローマ字だし?」


「ぁ……だってぇ、だめかな?」



目が震えて、泣きそうなんだけど。やめてあげてよ。



「日菜はヒナだね」


「名前はどうでもいいよ。どうせいつも、非公開にしてる…」


「お前ら、もっと早く歩けよ!!攻略班だろ!先を急ごうぜっ!!」


「彼の言う事はもっともだね」


「何者なのよアンタは」



所持品は前作と同じ、不思議なバックに入っている。その中には不思議な布袋もあった。

容量は30キロと5キロ。ストラップのような輪付きの矢筒と回復薬だけ入ってる。

武器はクロスボウと鉄のボルトが30本。少ないかも?


技能は【射撃】【解体】【交易】解体は肉の品質が上がり、交易は5%高く売れる。私は売買する取引役だね。


クロスボウの紐を引っ張って、溝に短い矢をセット。

逆さにしたら……落ちない。ピッタリ嵌まってる。



「おい、バルガーウルフだ。俺が倒すぜ?」


「「「おねがい」」」


「……まあ、いいか。おらよッ!」



波模様の鋼色β剣がズバッと狼のモンスターを切った。一撃だ。

勇敢はクリティカル率が少し上がるらしい。



「初キルおめ」


「おめー」


「ああ、もう、やりずれーなっ……次行くぜ?」


「解体はいいの?」


「食糧はあるんだ、料理もレベル上げないと意味ねぇよ」



それもそうか。あ、経験値が少しだけ入ってる。



「その剣最強じゃん、なんか身構えちゃってた?」


「次出てきたら、私いい?」


「その調子だ!!行くぞ!」





一時間が経った。


パーティは経験値共有もできて、微量だが少しずつレベルが上がっていく。

だけど私も倒したい。出るモンスターにクロスボウを向けるも矢は当たらない。

信玄の木工スキルで、木のボルトを量産してもらったけど当たらないよ。



「野生の勘……あっちに敵と大きい反応」


「おし」



私のスキル『野生の勘』は予想が外れる事もあるが、周囲の物を知れる。CTは20秒。

信玄と片手に盾を持ったリリンが先頭を歩き、その後ろに四人が固まって歩いてる。陣形もなにもない。



「お!洞窟だぞ」


「ここからモンスターが来てたり?」



このように、レーダー代わりだ。

帰り道は完全に見失っているけど、ゲームだから?危機感はそこまでない。

今はそんなことより経験値を重視してるみたいだ。



「あ、でも待って。そろそろ街に行かない?回復薬とかアイテムでも買って…」


「んなことしてたら、誰かに先越されるだろ。大丈夫だ、そこまでダメージは貰ってねぇ。それに3瓶ずつ。全員のを合わせたら18本も回復はある、何より…その、ヒールがあるだろ?」


「ねぇどっちでもいいけど。帰り道はわかるの?」



聞いてみたら、驚いた顔で見てきた。



「……え?」


「ちょっと待て。野上のそれ、地図を書いてるんだろ?」


「私は書いてないけど?あとリリンね」


「リリン!だってお前、記録役だろ!」


「そっちはちゃんと記録してるけど?提出する必要あるし、でも地図は書いてない」


「それヤバいって、リリ~ン……」


「なに?私は悪くないけど?」


「ずっとなにか書いてたよな!」


「暇だったから絵を描いてただけ」


「マジかよ……」



ありゃ?気付いてなかったんだ。



「あ~、やっぱり」


「ヒナは余裕そう…だね?」



基本無表情の日菜だが、青肌になって余計に冷たい印象になった。

その無表情の顔でも、思ってることくらいは分かる。現実と変わんないな……。



「死ななかったら今はそこまで問題ないよ」


「遭難しても?」


「大丈夫、リアルの時間で昼頃には夜になるから。あと…二、三時間もすればモンスターと連戦になるかな?」


「問題ある気がするよ」


「デスペナルティは経験値減少とアイテムロスト。それにステータスダウンね。今はステータスが低いから、そこまで問題はないし。死に戻りでスタート地点に戻れるよ」


「アイテムロストは怖くない?ドンドン装備減っちゃうよ?」


「装備してるのは落とす確率は低いから安心して。落とすのは素材とかアイテム系が多いかな?取ったばかりの物からランダムでその場に落ちる」


「じゃあ、死に戻りでもいいってこと?」


「最悪は」


「でもステが半分削られるんだぜ?二度死ねば、なんにもできねぇと思うが」


「…とりま、あそこに入んない?洞窟の中は夜関係ないし」



信玄とYumiが松明を持ち、さっきよりも固まって洞窟を進んでいく。地図係はYumiになった。

コウモリが天井から吊り下がって、奥からはヒューヒュー風の音が鳴る。少し不気味だ。


奥からペタペタと足音が聞こえた。信玄とリリンが止まり、自然と前方を警戒する。



「ゴブリンか。――数は多いが、挑発はしないでいい」


「二人に任せるわ。アタシは後ろで待機しとくね?」



狼のHPは30前後、ゴブリンはそれよりも少しだけ低い。

信玄のβ剣なら二回攻撃すれば確実に倒せるが、レベルも上がって今は一撃で倒せてる。

リリンも同じく二回で倒せるから、後衛は必要なくて暇だ。



「ブーメラン!」



リリンは金属の丸い盾を投げる。その盾は運良く帰ってきた。

盾に弾かれたゴブリンは吹っ飛んだまま動かない。



「ナイス投擲、私も…」



私も横にずれて、クロスボウをゴブリンの群れに向けて撃つ。矢はゴブリンの腹に刺さって瀕死になった。


DEXは初期が12、今はレベルが上がって18。クロスボウを装備した効果で24だ。

当たり所でクリティカル率が変わるみたいだけど、頭に当てろと言われても難しい。ほぼ一撃でゴブリンは動かなくなるから、まぁよし。



「うおおぉぉッ!!」



信玄が松明片手に、剣を振り回す。

矢を装填しながら戻ると、ヒナは眠そうに戦闘を見ていた。Yumiも暇そうだ。

敵が弱い上に、エンカウントしない。行く場所を間違えた感じ?



「フカも近くで撃ってきたら?近くの方が当てやすいよ」


「それはそうなんだけど、攻撃を受けたら回復しないといけないじゃん?」


「少しはダメージ受けてもいいよ。ヒールも使わないとね、スキルレベルが上がらないの」



でも、クロスボウが邪魔になる。多分2.2キロくらい。

これ木製だから耐久値低いし……その為のキックだった。CTは5秒。



「よし、行ってくる!」


「がんばって~」



渾身の一撃!信玄は叫び、ゴブリンを両断する。気持ちよさそう。

私も……2mくらいの距離なら外さない。パスッ!と音がして、ゴブリンの頭に矢が生えた。



「キック!」



白いエフェクトが足を包んで、蹴りにダメージボーナス。アシストまで付いて蹴りやすい!

リリンが相手にしていた二体の内の一体を壁に叩きつけた。リリンはすぐさま、残りの一体に剣を振り下ろす。

グロ規制は取ってないから、血は出てないけど。謎の液体が服にかかった。



「さて、リロード」


「やるね。敵もまだ弱いからいいと思う」



リリンに褒められた。腰に装備した水筒のようなポケットから短矢を装填。これも慣れてきた。



「ふぅ、はぁぁ……うし、次だ!」



奥へ奥へと進む度に、敵が強くはならなかった。信玄とリリンの二人で倒すには量が多い、ゴブリンしかいない。ボス部屋には少し強そうなホブゴブリンがいる。



「一応かけておきますね~、シールド」


「サンキュ……ヒナ」


「小坂でいいよ」


「ブーメランっ」


「挑発、リフレクト!――え、ちょいちょい、信玄く~ん!?」


「お、悪り!渾身の一撃!!」



もう全員で殴りに行ってる。ゴブリン舐められてるー

後衛の三人は傍観するだけだ。誤射が怖いし、私も待機……。

ホブゴブリンは十秒持たずに倒された。奥には宝箱があった。



【ライトクロスボウ(C)】農民や新兵が使用する簡易なクロスボウ



「萎えるわー」


「この洞窟、初心者用かよッ!」


「キレんなし。次いこー?時間勿体ないじゃん?」


「そろそろ夜になったかな……はい、フカ」



レア度コモンのライトクロスボウ、重さは1.8キロくらい。ちょっとだけ軽い。DEX+3の効果がある。今使ってる新兵のクロスボウはDEX+6。宝箱なのに微妙だ。



「これ、Yumiが使って?」


「う、うん」


「使い方わかる?」


「少しは……わかるよ。あ…あのっ。わからなかったら、教えてくれる?」


「先輩として優しく教えるね」



木のボルトを半分渡した。これで、戦力は倍。そう考えないと損した気がする。

そして私達は早足で洞窟を出た。外は暗くなっていて、狼の遠吠えが遠くで聞こえる。



「早く森を出ようぜ。たしか、農場の近くに大き目の街があったはずだ」


「オッケー!」



基本的に、リリンもヒナも喋らない。ジュリアンと信玄が喧嘩したり、ズレた事をしようとすると口を挟む感じだ。Yumiが無口なのは仕方ないけど、二人はクールすぎる。私もあっちでワーワーしたいかもだ。


あ。レベルが5に上がって、蛮人から弓使いに変わってた。

最初は自動的に変わるみたいで、次から選択するみたいだ。

実績やステータスを見る間もない程に信玄は急かす。後で見ればいいんだけどね。



「あ、弓使いになってる」


「そうそうDEXだけ補正がFになった。強射ってスキル……見た感じ弓用なんだけど、クロスボウも使えるのかな?」


「見せて~?……使えるけど、STR補正であまり良くはないかな。他のスキルが出たら見せてね?」


「ヒナ頼りになる~」



ヒナは満更でもない表情を見せた。ヒナとYumiのレベルは4だから、5で職が変わるのかな?戦力もすぐに上がるね。



「ナイトウルフが来るぜ!囲まれないように視野を確保しろ、よっ」


「一人で突っ走んなし!子供かっ」


「やば、スタミナ切れそう。私一旦下がる!」


「え?あ、任せて!こっちこ~い、挑発!」


「え…えいっ!」


「シールド。やっぱり攻撃系にすればよかった…」



少し大きめの狼の群れを倒し、ヒナもYumiもクラスが変わった。

レベルがポンポン上がって気持ちがいい!謎の光が舞って、軽快な音が鳴る。



「ようやく外に出られたけど……暗っ」


「街まで急ぐぞ!」


「えぇぇ、休ませてよぉ」


「休む場所もねぇよ。あの街の方まで行きつつ、モンスターを倒してくぜ?」



若干、丘になっている場所に出た。

信玄が松明を指した方角には、大きな灯りが見下ろせる。街かな?

周りは暗い草原、モンスターが徘徊していることだろう。


空腹度が減って、HPの総量が減る前に辿りつきたいね。

携帯食料はさっき食べたから、余裕はあるけど。





「んだよこれ、メチャクチャ人いるじゃねぇか……」



街の入口は遠い、長蛇の列になっていた。PI3の発売みたいだ。モノを売るってレベルじゃない。



「(あー。ま、そうなるよね)」


「(というと?)」



ヒナがコソコソ教えてくれる。

ヒナはβでヨーロッパを旅してたらしく、このランセーヌ王国近辺でもプレイしてたそうだ。

たまたま場所がここだったけど。当初の予定でも、この国で始めたかったみたい。

さっきの洞窟はチュートリアル用なのね。



「(じゃあ、地理を把握してたんだ?)」


「(地形に変更はないからね、主要な場所は全部覚えてる。この辺りは農地ばかりで行ける街が限られてたと思うよ。あ、近くに村はあるけど、夜間は閉ざされてるから使えない」


「(言えばいいのに)」


「(楽しみを奪っちゃだ~め)」



えぇ、そうなのかなぁ?

これ一応授業、成績だってあるのに。……楽しみか。



「この異端者が!!!」



列の前の方で、なにやら揉めごとだ。門番の兵士と……魔法使いかな?



「捕えろ!火刑に処せ!!」


「「「ハッ!!」」」


「や??…ワッツ!?へい、待って待って!」


「落ち着け!ルーク…戦いになるか?ぐあっ!!」



長い杖を叩き折られ、鼻の高い外国人達が拘束されていた。そのまま街に連れて行かれる。



「なにがあったんだ?」


「イベントでもあった?」



ステータスを確認してた信玄とジュリアンが近づいてきた。



「イベントかもだけど、急に…」


「あ、ちょい待ち。先生からメッセ来たわ。――お昼だから、ご飯だって」


「そっか、休憩だね。これって大丈夫なの?そのままログアウトしても」



信玄が苦い顔をして、バックを漁り始めた。横のヒナが優しく教えてくれる。



「リリン、どゆこと?」


「最悪、戻ってきた時には死んでるってこと」


「おい、街は無理そうだ、五分で拠点を作るから手伝え!」



信玄はそう言い残し、木のある方へと走っていった。

それを少し眺めてリリンが伸びをする。



「ん~~。それしかないけど、時間は?」


「30分でやめにしてって。ここで列を待ってても――宿屋も混んでるかぁ?」


「追いかけましょ?彼、スキルを取ったみたいですよ?」



ヒナはパーティ画面を見てた。すぐに家を作れるといいけどね



「時間オーバーは激マズだし。さんせー、ゆみ達もいい?」


「うん…大丈夫」


「いいよ!」



遠くの方で松明が揺れていた。信玄が手を振ってる?



≪~Laurier5が『新たな伝説』を達成しました~~特別な報酬が授与されます~~≫



突然、視界に文字が泳いだ。これがワールドレコード、そのメッセージかな?



「うわ、まじ?もうレジェンダリー取った人いる。早すぎ……」



まだ始まって半日も経ってないのに、すごいね。

私達は松明に近づいて、急いで拠点を作った。

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