第6話 ゲームスタート



今日の授業は明日の配信を控えた、ゲームのおさらいだった。

早い話がマキオンワールドのPVを見て、個人の見解を述べる授業だ。


机に設置されたタブレットには数人の開発者が映っている。日本人もいた。

字幕を目で追いかけながら、開発者のインタビューを眺め続ける。

受業の題材は、AIが一新されて意思を強く持ったことだ。

時折アップデートを行う運営だが、今回はAIに関わることに一切手を出さないと明言したらしい。


昨今問題視されている人権問題。

意思を持つロボットに人権を与えるべきかということに、なんか一石を投じたいらしい。我々はプレイヤーに改めて認識させる意味を込めた、髭オジがカッコいいことを言っている。事前に考えてた?それとも翻訳の人の腕前かな。



「今日の授業はここまでだ。先生はこの後会議があるからホームルームはなし、それと明日は6時に二階ホールに集合、教室と間違えないように頼むぞ!」


「うぃ~す!」


「よっしゃあ!!!明日からマキオンできるう!!」



その気持ちは非常に分かるけど、ゲームの成績が悪いと退学って思ったら……やめようやめよう。楽しい事だけ考えよう。パタパタと机に収納する音が聞こえる、先生も生徒も教室を出ていく。



「みんな時間は守れよ?おつかれ」



今が幸せなのかもしれない。ゲームの発売なんて、頻繁にあることじゃない。

この始まる前のドキドキとワクワクを学生の内に体験できるのは、凄い事だよね。


手元の端末からステータス表を見る。

これは開発部の生徒が、この間のベータテストを基に作ってくれたアプリだ。



RACE   HUMAN

CLASS  ARCHAR  EXP0 →NEXT50 LV1


STATUS ELEMENTS RESIST POWER



基本ステータスが書かれてあって、その下に割り振れるステータスも書いてある。

STR・INT・DEX・DEF・MGR・AGL・VIT・LUKが割り振れるステータスだ。

職業には補正値があって、LUK(A+)とかなら、グーンと上がる。


STRは重い荷物を持てて、物理攻撃力も上がる。

INTはMPの回復速度が上がって、CTも減少。魔法とかの威力が上がる。

DEXは器用になって、クリティカル率が上がる。

DEFは物理防御。火傷とかに抵抗できる。

MGRは魔法防御。混乱とか、精神系の状態異常に抵抗できる。

AGLは素早さが上がって、スピーディに動ける。

VITはHPとMPとSTを選択して獲得できるステータス。

LUKは道具とかを作成する時の成功率が上がる。



赤、青、緑、黄色のゲージは左から、HP、MP、ST、LVなのだとか。STはスタミナのことらしい。


そしてレア度は以下の通り


コモン(C灰)アンコモン(U緑)レア(R青)

エピック(E黄)レジェンド(L黒)セイクリッド(S白)

オーソリティ(A赤)レガシー(L橙)イレギュラー(I紫)


更に+が付くとスキルとか増えるみたいだ。

オーソリティは世界に一つだけのアイテム、レア度が一番高いみたい。

レガシーはクエスト限定とか?専用で貰えたりするらしい。

イレギュラーは特殊個体が落とすアイテム。あとは、セット装備とかハイレア?それに職業にも同じようにレア度が……うあー!もう、こんがらがってきた。



「のぼる?なにしてるの?」


「ちょっと、現実逃避を」


「そうなの?じゃ、一緒に帰ろ」



日菜と途中まで一緒に帰る。窓からは庭にある桜が見えた。

これから先、桜を見る度に待ちに待った日々を思い出すのだろう。

きっと明日の配信よりも……明日かぁ。



「いよいよ明日だね!」


「うん、楽しみ~」


「ねぇねぇ日菜はいつの間にハマってたの?たまに会っても言わなかったよね?」


「それは……だって、のぼるが好きなゲームを私だけがしてたら、嫌じゃなかった?自慢みたいに感じるでしょ?」


「ベータとかね」


「まだ言ってるよ……ヨシヨシ」



きっと学校を逃げ出して……ないな。普通に流してたと思う。

あの電車でミサさんと出会わなかったら、日菜の誘いを断ってたかもしれないし。



「こわっ!」


「高校生になって、のぼるとゲームしたりして遊ぼうって考えてたらね?すぐ新作が発表されて、こうして同じ学校に居られてる。本当によかったよ~」



…いや?それ以前だね。日菜がいてくれたから私はここにいるんだ。それがいいや。



「日菜、今ここにいるのは日菜のおかげだよっ。誘ってくれて、本当にありがとう!」


「ぁ…うんっ!まだまだ、学校に居続けるためにも。明日はがんばろう!」


「そだね。じゃ、また明日!」


「あっ――おやすみ」



もう速攻で寝た。



次の日。



ガヤガヤガヤガヤ…



「うわーお。混んでるね?」



地下二階にある、長く広い廊下に行列ができていた。

隣には🐓チキン・ナゲット🐓のメンバーの一人、将悟がいる。

班名で揉めた際、共通で好きな物の名前を付ける事になった。先生も苦笑いだ。



「だな……段取り悪ぃよな」


「しっかりしてほしいよね」



男子は男子専用のプレイルームへ、

女子は女子専用のプレイルームへ。最初に集まった意味よ……。



「機体は詰めて座ってください!名前のシールを貼ったら、そのままでお願いします!」



機体は卵型のベッドみたいだ。エイリアンが出てきそうな、フォルムの卵。それに鮫島登シールを貼った。機体同士の距離感は1mくらい。この学校を作るのに、何億円使ってるんだろう。


あ、ミサさんがいるっ。電車であって以来だ。他のクラスの担任をしてるのかな?

名刺にはたしか――数学か何かの教授、特別顧問ってあったから。開発部とかで授業してるのかも…


大人しく待つこと、5分。

マキオンワールドは日本時間で深夜2時から開始されていた。今は6時48分だ。

大和田先生は確認作業の為にログインしたぞ~って自慢してた。



「…それでは、ログインを開始してください。くれぐれも今話したルールは守るようにお願いします」



ごめん、聞いてなかったよミサさん。


一斉に機体に乗り込み、蓋を閉める。

私も電源ボタンを押して、眠るようにゲームの世界へ。





ログイン画面ではなく、いきなりキャラ画面に入った。

新規の要素として信仰する神さまを選べるみたい。それは最後かな?


既に授業で決めていた内容を入力していく。

暗記した内容を見落さないように……スタートは旧フランス。

ゲームではランセール王国にある、グーダ農場だ。難易度はイージー。


経歴の方は事前情報とちょっと違ってた。ま、似たようなのを選べば誤差は少ないよね。

山の部族出身、狩猟と交易を主とする。武器種は弓系で、初期武装は……弩!

弩って怖い漢字だよね。怒りに弓て……でも強そうだ。


初期ステータスの割り振りはDEXに全部やってしまえ。あとは……特性ガチャ!

特性は基本ランダムで決まる。固定の技能として効果を発揮し続けるみたい。

リセットはよっぽどの理由がない限り認められないので、醜悪とか大食いは嫌だ。

種族によっては少なく、人は種類が多いらしい。ガチャは好きだ、当たれ!


後は見た目を変える。髪は黒でいいや。

気持ち伸ばして、アイカラーも変えよう……チキンはレッドでしょ!

あぁでも緑の方が弓っぽいかも――早くしないと怒られる!間を取って、黄色にしよう。


四つのスキルは「野生の勘」「キック」「集中」「ショット」

最後に新規の要素、信仰神。この選択する神様はパーティで同じ、相性のいい神様を信仰しているとボーナスバフがある。だから選ぶのは事前に決めていた…



「戦争の神、ディドラ様……それとなく、お恵みくださいっ」



さぁ、スタート!



≪名前を入力してください≫



あ、名前が未入力ですか。あ!?ど、どうしよ。昨日考える予定だったのに!!



「………まずーい、早くしないとだ。シャークは流石にやめよう。なんか恥ずいし」



また優華にからかわれる。んー、サメ。サメサメサメサメ……ダメだ!サメが記憶の海で泳いでる!!



「フカヒレでいいや。フカだけで、いいか。もう」



絶滅危惧種だし、サメってカッコいいし。悪くないよ、フカ。二回続けて言ってみよう、やわらかそうだ。



デデデデーン!!



ムービーが始まった。


前作のストーリーはたしか……魔神に支配された世界。宇宙より外には魔神シールドがあった。それを破壊する兵器を探して、パリンっ。外の神々に救援を求める。魔神は迷宮を作り出して、逃げた。神々は人々を支援しつつ、魔神を滅殺。以降は神々が世界を支配する。要約するとこうだって、日菜が言ってた。この攻略に十年近く掛かったらしい。


で、今作は。時は1000年後、神々の祝福がある世界。魔神の封印が解かれるかもしれない。

それくらいだ。前作でプレイヤーが作った天空の城も健在で、途中からできたらしい地下迷宮が活性化状態にあると。

ムービーでは、前作にあった出来事が神様視点で描かれている。デメアスって魔神の名前なんだー。鎧カッコヨ…死んだ!そして千年の時が経った。で……あれ、そのまま放り出される感じ?暗転しちゃったよ。



「あ~あ」



どこかの農場に来た。周りには同い年くらいの男女が次々と現れる。

ここは中世のフランスが元になった王国?ゲーム内では、ランセーヌ王国の東の方だ。

フランスの西の海を越えると架空の大陸があったり、空にも謎の大陸が浮かんであったりする。



「おー、飛行船とか……あるんだねぇ」


「本当だね」



あ、この声は――



「え……司?あっ、似合ってる!」


「ふふ、君にそう言ってもらえると嬉しいな」


「一瞬、分からなかったよ!」



背は同じくらい、オリーブ色の髪は襟足まで伸びてて似合ってる。

短く鋭いエルフ耳がいいね。私もエルフにすればよかったかも。



「……この間は恥ずかしい所を見せたね、君に会えたのが嬉しくて、さ?」


「全然気にしてないよ!分かる、私も同じくらいに思ってたから!」


「そ、それは本当かい?」


「当たり前だって、会えてうれしかったよ。女の子だとは思ってなかったけど」


「あはは、隠してたからね。もっと早く伝えればって、後悔した日もあったよ」



司はEクラスだった。恥ずか死しそうなところで、偶然会って抱きつかれた。驚きで忘れたよね、恥を。



「というか、Eクラスはここじゃないんじゃ…?」


「そうだね、間違えてしまった。ところで、フレンド登録を送ってもいいかい?僕はすぐに行かないといけない」


「おっちょこちょいだね。もちろんいいよ」



≪実績〈初めての友達〉を達成しました≫



フィナって名前なんだ?なんかカワイイ。


って、さっきからアナウンスがうるさいな。前はあったけど、ログインボーナスは未実装?

報酬とかも見れる……スキル解放のアンロックトークンだけ。これはみんな貰えてそうだ。



「フカ…綺麗な目をしてる、僕にもっとよく見せてくれないか?」


「え、えー?」



目しか変えてないから、言われてる気がする。

もうちょっと変えればよかったかもと、周りに目を向けた。


周囲の人達は真剣な表情で虚空を弄ってる。設定かな?

結構キャラメイクしてる人が多い…異国の美男美女になってる。黒髪は少ない。

あ、ミサさんも農場にいた。



「ミサさん!」


「え?…あぁっ!!サメちゃんじゃない!うちの学校に入学してたのね?もう言ってくれたらよかったの、に……じゃなくて!今は駄目よ?あとでね?」


「ちがくて、フィナ?」


「先生、スタート地点を間違えてしまいました」


「ええぇ!?だから、私あれほど………いいわ。ちょっと待っててね」


「いえ、向こうで待ってくれているはずですから。すぐにここを出発しても、よろしいですか?」


「あ……そうね、君は何クラス?」


「Eです」


「ダッシュで行ってきて!」


「はい、それでは。フカ、また落ち着いたら会おう。…あ、その髪と瞳は本当に、似合っているよ!」



キザだ、なんか照れるね。おー!フィナ、凄い脚早い!

前は魔法使いだったけど、今回は弩だし。AGLに振っていいかも?

私の服はみすぼらしい感じだ。毛皮のついた露出度高めで蛮人っぽい。



「キミも整列しなさい?」


「分かりました、ミサ先生」



先生は軽く微笑んで、背中を物理的に押してくれた。

あ、将悟と日菜が何かを話してる。優華達も合流したところだ。タイミングいい。



「おまたせっ」


「遅ーい」


「見てたよ!今、合流してた!」


「バレてたかっ」



優華ともじゃれ合うくらいに仲良くなった。

つけま無くても、まつ毛が長い。ギャル感は薄れたけど、かわいいのが付いてる。

ちょんちょんと誰かに肩を触られた。



「のぼる、フレンド交換しよ?」


「あ、うん。…送った」


「ありがと~」


「……てか。集まったんだし、行こうぜ?」


「樋上、先生の話聞いてなかった?待機して」



登録、登録。フレンドが6人になった。あ、ミサ先生ともすればよかった。



「これ、揃うの待つ感じ?パーティ組むのも待ってないとダメ?」


「そのくらいはいいと思いますが、一応やめておきましょう?――先にステータスの確認だけします?」


「そうしよっか!」



日菜も仲良くなって、私は嬉しいよ。

そんなヒナは肌が青い。そして髪が白い。糸目で目は見えない……後で開かせよう。



「…公開表示は誰かに見られるかも。パーティ組んでからにして――そうなるとやることないわ」



璃李、リリンはエルフだ。横髪を伸ばして長い耳を隠してる。前髪は変わらず邪魔そうだ。

ジュリアンも金髪ポニーに部分的にピンクを入れて変えていた。人狼だから狼耳がある。かわいい!

夕美はYumi。まさかのローマ字。そして髪と目がベージュで似合ってる。眼鏡がない代わりに前髪を編んで、ちょっとアレンジされてて、実に乙女っぽい。私と同じ人間だ。



「Yumiの髪、似合ってるね。かわいいよ」


「よね?アタシも思った!黒も清楚でいいけど、こっちもかわわ~♪」


「ぁあ…や、髪いじらないで~…ぅぅ」


「ジュリアンの耳も触らせろっ」


「きゃああ!」



仲良いなぁ。最後に一番変わってる人を見る。

将悟の側頭部には、岩のように固そうな二本の黒色の角が生えていた。



「将悟は赤鬼だね?角生えてる」


「まあな。基本ステ高ぇし、序盤で有利なんだよ」



赤髪に赤肌で、赤好きなのかな?そして微妙に機嫌が悪い。

やっぱり日本スタートがよかったっぽい?

まさかクラスでスタート場所が決まってるとは思ってもいなかった。

ウチのクラスは日本とフランスと架空の大陸。将悟はジャンケンが弱いんだね。



「あの子達って、例の学校の?」


「たしか……イーグレット?少し見てたいが――いや!もう待てない、行こう!!」


「そうね、早く行きましょ!」



と、朝からやってるカップルっぽい男女が冒険に出かけていった。

向こうの牧歌的な格好のおじさんはNPCかな?パジャマみたいな作業着を着て、手にはクワを持っている。チュートリアルしてくれそうだ。



「はい、みんな注目して!班員が揃ったところからアイテムを配布していきます。受け取った班から自由行動していいわよ!」


「マジで!?アイテムくれんの?」



どよめきがある中で、他の生徒も見て見ると。

私と装備が結構違う。被ってる人もそこそこ……ベータ―?

ヒナもリリンも信玄(将悟)もベータ―っぽい。


配られるアイテムは課金のアイテム?みんなが口々に言っているけど、ヒナに聞いてみよう。



「あれって本当に鍵かな?ヒナ、何に使うか知ってる?」


「迷宮に入る為のアイテム……だと思うよ?」



前からクラスの男子で組まれた班がやってくる。弓を背負う孝二の姿もあった。



「うぉっしゃあ!お前ら行くぞ、将悟お先!!」


「よっ!またな?」


「じゃあな~!」



ジャンケンに負けた将悟を置いて、孝二達は農場から出ていった。

あ、ジュリアンも帰ってきた。



「もらったよ~」


「うし。早速行こうぜ!」


「どこによ?」


「もちろんボスだろ!」


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