第5話 バァン!


「私は……メインが剣士。他はバランス取って、摘む感じで」


「アタシは班のみんなに合わせる感じ~、この子は料理担当だけど。いいよね?」


「料理と、得意なのでっ。家が……してて」


「もうちょいおっきい声でいいなって?聞こえん聞こえん」


「ぁ…ぁぅ」



ギャルの山城さんが西東さんの肩を抱いて、そう言った。昔の日菜みたいだ。

日菜は昔より成長してる。朝とか、孝二と普通に話ができるようになってたし。VRのおかげ?やっぱVRですわー。



「………」


「日菜?」


「私達はそれで大丈夫です」



やっぱりちょっと固いかも。緊張してる?そう思っていると、山城さんの後ろから先生が近づいてきた。



「こっちも決まりそうかぁ?」


「大和田センセ、あと一人待ち~」


「そうかそうか。他も二、三人で固まって……お、融合しそうだ。あとはあっちか……あのジャンケン終わりで負けた子を入れてやってくれるか?」


「え~けど、あそこ男しかいなくな~い?あ、ハーレム野郎ってからかってみる?」



一応、男いますけど……



「ははっ、面白いかもしれないが。先生的には優しく迎えてあげて欲しい。これ、先にプリント渡しとくぞ」


「う~い」



山城さんは受け取ったプリントをそのまま真ん中に置いた。えっと、個々のプレイスタイルと班長と班の名前を決める?



「そっちも軽く自己紹介して?ゲームの方の」


「うん。職種は私も山城さんと同じ感じで、班に合わせるよ。登って呼んで」


「オッケー!アタシらも下の名前でいーよ、その内キャラ名で呼び合うかもだけどね?」



そういえば、そうかも。まだ名前考えてないや。

このプリントにも、本名で書いてくださいって注意で書いてある。

あ、班長はレポートを書くみたい。ゲーム内であったことを記録するんだ?



「私は魔法専門で、序盤は回復役も兼任しますね。他にやりたい人がいたら、回復は譲りますよ?」


「よしっ、魔女一名ね~?」


「でですね。班の構成とか、決めてたりします?」



日菜がかなり成長してる!ちょっとだけ、親の心が分かったかもしれない。



「え…え~っと……璃李?」


「…前衛2か3、魔法は始め1か2。支援職はサブで取れば、いいかも」


「西東さんは料理ですよね、鑑定系も任せる感じですか?」


「そうなる。未定の二人、残り一人次第で、盾役多めで後は魔法でもいいと思う」


「……野上さんは剣士ですよね?」


「その場合は盾を持つから。荷物持ちと取引役は決ま…」



な~にを言ってるんだろうか。ちょっとわからない。

優華さんと妙に目が合う。冒険の話は二人に任せよう。



「優華さん、前のゲームやってた?」


「さんはいらないって。…デメアスはやってないね、あんまし。登は?」


「少しだけやったけど、やれる事が多くて。そうなると、何やればいいかわからなくない?」


「それ分かる~!後でリセットすればいいし、初見は上級者に任せた方がいいってのもあるけど…」


「璃李さんの方は経験ある感じだ?夕美さんも?」


「ぁ……ちょっと、だけ」



話していると、あいこでしょ!の声が聞こえなくなった。トーナメントでやればもっと早く終わっただろうに。

孝二は勝ったみたいだ。負けた男が、キョロキョロ周りを見渡してる。



「そういえば、五つの班で一人余るよね?」


「空いた班には、先生が入ったり?なんて」



あの先生、優しくていい人そうだけど……彼の方がいいかもだ。強そう。



「お~い!おいでおいで」


「!」


「あ、呼んじゃうんだ……いいけどね」



運動できそうな男の子だ。腕に筋肉がある。空手とかやってるかもだ。



「よ、ろしくな!俺は樋上将悟だ。スタイルは侍と鍛冶…」


「まぁ~座んなって」


「…だな」


「はい、よかったらどうぞ」


「お、すまねぇ!」



日菜!イスを出してあげるなんて、成長してる。いい子だぁ~





「まだ役割決まってねぇのか……魔法、料理?料理って、最初はやめといた方がいいんじゃね?」


「や、それはもう決めてあるし、変えないけど?」



あのVRゲームの世界は24時間ではなく、36時間だ。毎日働いてる人への配慮だと思う。ストーリーは見てないから、ちゃんとした設定があるかもだけど。あ、あと不思議な事に、3時間でお腹が空くようになっている。空腹度というパラメータが隠れてあるみたいだ。一日に12回食事を取るとか、デブりそうだ。



「やっぱポーションとか、錬金にはできねぇ?栽培でも…」


「却下」


「あ…その……私」


「ゆみは気にしないでいいの」



優華はオドオドしてる夕美さんを撫でていた。



「将悟くんは…」


「将悟でいい、気持ち悪りぃな」


「ひどい……」


「あ、いや、そういう意味じゃねぇって――んで、俺は前衛な?」



将悟はプリントの裏に書き始めた。



「私が攻撃魔法と回復、種族は見てから決めます?」


「そうだ……魔物はいないよな?」



それ気になってたけど、ヒナが見せてくれなかった。



「なんか違いあるわけ?」


「は?……え、デメアスやってたよな?」


「いや?」


「私もやってないよ」


「はぁぁ!?マジで?なんつー……ベータもないのか!?…そおか」



力が抜けたように項垂れてしまった。



「日菜、種族って?」


「私はエルフだったでしょ?魔人とか、人族以外も選択できるの」


「エルフ?小坂さん、それって人と違ったりする?」


「エルフ知らねぇのか……」


「それは流石に知ってる!あの、あれ…種族適正ってやつが知りたいだけっ」


「えっとですね…エルフは先天的な特性に美形があって、NPCから好かれやすいですね」



黙っていた璃李さんも答えてくれる。



「あとは魔法属性が高いとか、ヒューマンとは違ってDEX、INT、AGLの補正が高い。だからステの伸びがいいとかね」


「そんなの基本だぜ?頼むから、事前に調べといてくれよ?」


「うっ……ごめん」


「私も知らなかったぁ。ヒナ、魔物は?」


「魔物というかモンスター全般はスポーン地点が人系とは違うから、班は難しいんじゃない?街の出入りもクエストもバラバラ」


「…そうだ。ちなみに最初に決まったのは魔物の班だぞ?ただ、攻略となると人のが有利かもしれん。始まらねぇとわからねぇが」



それから、将悟はプリントの余白に書いた文字を見せてきた。



「俺と野上が前衛、もう一人盾が欲しい。料理に金策を任せるのは不安だが……後は、魔法よりも弓…か?後衛は弓と魔法の二人がいいと思うぜ」


「のぼるは弓にしたら?」


「弓?優華はどっちがいい?」


「私は盾でもいいけど」


「じゃ、そんな感じで」


「アッサリだな……本当にこれでいいのか?野上と小坂は経験あるだろ?」


「無難でいいと思う」


「私も」


「そ、そうか」



日菜はどうして弓を選ばせたんだろう?

それはともかく、他の班の構成が知りたいね。



「他の班も似た感じだぜ?魔法多めだと、MP切れで戦えなくなるからな。敵MOBの数とかで効率がかなり落ちる」


「みんな!僕に注目しろ~!」



先生が授業の終わりを告げる。この後は身体測定だ。

着替えの為に更衣室へ行く。寮があるのに更衣室があった。

隣にはプレイルームと書いてある。ここでゲームをするのかな?



「……なんか、見られてる気がする」





ゲーム学校特有の測定でもあるかと思ったが、そんなことはなかった。

握力とか、砲丸投げとか、音楽に合わせて走ったりする。



「のぼる!がんばって~」



運動会じゃないんだから、やめてよ恥ずかしい。人見知りはどこいった。



「298、鮫島ぁ!もういい、もういいぞ~!300で終わりでいいからな~!!」



みんな体力無さすぎる。20回近くで、ヘロヘロな人が半分近くいた。面倒だから疲れたフリしてない?



「300!」


「お疲れ、鮫島!見かけによらず体力あるな~」


「1000まで行きますか?まだ残機1残ってますし」


「いい、いい!時間もったいないから、早く次に行ってくれ」



測定が終わったら、教室に戻って班で話し合いだ。

それも終わると、親睦会とやらの為にホールに集まる。

日は沈み、暗いホールの中で軽いゲームをした後。解散になった。



「遊んでるだけで終わっちゃったな」



一年前に思い描いていた高校生活とは大きく違っていた。だけど、かなり楽しい。

今も十二分に楽しいのに、先にはもっと楽しみがあるんだよね。早く来週にならないかな…


そういえば。日菜に聞いてみたら、弓使いはDEXのステータスを上げるらしい。

やりたいことができたら他に移行もしやすいみたい。

リセットは可能だけど、最初の設定までは変えられないとか言っていた。


そのDEXはクリティカル率に関係するという。

序盤はクリティカルダメージだけでも高ダメージ。

孝二も弓を使うみたいだけど、やっぱり難しいんだと思う。



「弓道部とか、人気だったな……私はクロスボウかな?こんな感じで――バァン!」



校庭にある木に向かって、それっぽく雰囲気で撃ってみた。



「…のぼる?」


「…ッ……」



日菜の声がして、後ろを振り向く。

そこには日菜だけじゃない。優華と璃李と夕美さんもいる!?



「…ぁ…あの」


「バァン!」



り、璃李に撃たれた。く、ぐぅぅぅ…



「ぶふっ……ふ、ふはっ!バァンだって、あはははははっ!!」


「のぼる、なんかごめんね?」


「笑っちゃ……だめ、だよ」


「だ、だって…くふっ……っ…む、むりっ!!あははっ!」



し、しにたい。



「待って!のぼる~!!」


「…………」



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