第4話 タクシー



「成績が悪いと退学ね……シラナカッターナ」


「それ、地名みたい。あ、正確には違うよ?学費払えば残留できるから」


「こんな大金払えないって!出戻りはキツイんだけどっ」


「大丈夫、大丈夫だってっ。任せて?私がなんとかする」



……それにしても、学内ランキング?こういうの嫌いなのに。



「日菜、300位くらいをウロチョロしてようね?目立ちたくない」


「気が早いよ~。まだどうなるかは、私にも分からないって」


「嬢ちゃん達は例の学校に行くんかぁ?お国の為にガンバレよ!」


「はい前向いて、絶対に事故らないでくださいね」


「だいじょぶだ、俺はこの道三十年の大ベテランだぞう」



だからなんだというのだ。事故る時は事故る。…窓の外ではトラックが飛んでいた。

空飛ぶ車両は公用車だけだ。いつになったら民間の車は空を飛べるのか、タクシーくらいはいいと思う。


イーグレット、白鷲が校章の一時的にマンモスになった学園。広大な敷地には校舎と寮がある。地下施設まである高校はそんなにないんじゃないかな?

そして、そこは部活の代わりに部門があるという。

クラスは部門で分けられる。パンフレットにはそうも書いてあった。



「攻略って言ってたけど、本当に大丈夫?」


「私に任せなさぁい。ガチ勢だよ~?」



古い造語使うね。ていうか、ガチな人だったんだ。



「そもそも攻略ってなに?」


「それは人によるかも。あくまで私の予想だけど、ストーリー攻略が主軸になると思う。でも、なにかを発見したり発掘したり。知らない事を誰よりも先に知ること……も、じゃないかな?」


「それは……なんか、忙しそうだね?私はもうちょっと、ノンビリしてたい」


「え~?でも最初の一ヵ月は我慢して?こういうのはスタートダッシュが肝心だから」


「うん。それはそうかもね。Bダッシュ決めようか!」


「なにそれ?」


「これは伝わんないんだ」



学校の制服を着てる人は肌が白い人ばかり、そういう意味ではみんなガチに見える。三ヵ月後、上位500名に絞られるであろう。学歴デスゲームが、今始まる!!



「のぼる、肩ガッチガチ……そこまで緊張しないでも、ただの入学式だよ?」


「事前に教えてくれたら、違ったんだ……」



今話題のゲーム。マキオンワールドは世界中で最も人気の高いゲームだ。老人から子供まで、幅広い層に人気がある。農業からNPCの子育て、王様に仕える事も可能。なんでもありな、楽しみ方は人生よりも人生らしい?最近そういうCMをやっていた。


そんな自由度の高いゲームでも、やってはいけない事が一つある。それが攻略に関するネタバレ。それは厳しく禁じられている。する人もいないだろうけど……。例えばスキルの組み合わせや、特殊な条件。そういったものはゲーム内で発見すること以外では、取引か情報交換で知るしかないみたいだ。ゲーム側がそれを推奨している。


配信部門の方は、認められた人のみが入れるらしい。というのも、攻略動画や配信をする資格を有するのは、公式から認められた人のみ。それ以外の人が動画をあげちゃうと、即刻逮捕される。それだけがこのゲームのルールだ。リアルでは重罪の、殺しも転売もスパイ行為もあり。NPCは死ぬとそのままらしく、他のプレイヤーからヘイトを買う。だけどもそれすら許されている。攻略情報を乗せることよりも罪は軽いようだ。



「大丈夫?ボーとして、人に酔っちゃった?」


「いや、ちょっとね」


「……?ほら、席埋まっちゃう前に行こ~」


「あ、うん」



三階席まである式場に案内された。窓際からは校舎または寮が見える。

理事長や教員の挨拶が終わり、今度は四人の部長が挨拶をしていた。配信部門の人、有名な人なのかな?他の生徒達が沸いて、部長さんは焦ったようにシーシー!ってやってる。



「Bの紙をお持ちの方はこっちに!集まってくださ~い!」



式が終わると、先生らしき人が誘導を始めた。ざわざわして、一気に騒がしくなる。



「日菜はB?……あれ、日菜ぁ?」


「お、おまたせ!私もB、行こっか」


「だね」



Bのグループに集められた。多分クラスだよね?丁度、30人くらいだ。クラスってクジ引きで決めるんだなぁ……



「はい、皆さんはこちらへ。ついてきてください」



背の高い若い男の先生が、Bグループを廊下へと集めた。



「これから、学園の主要施設を案内する。僕は君達の担任になる大和田です。これからよろしくお願いします!」



礼儀正しくて、いい先生っぽい。



「優しそうな雰囲気ね?」


「だね、結構イケメンじゃない?」


「……やっぱり、男が好きなんじゃ」


「それはない。感想を述べただけで…あっ!」



あれはギャル!?クラスメイトにギャルがいた。珍しい、レアだよエピックだよ!

今朝ニュースでもやってたのに、今時の若者は容姿に気を使わない人が多いって。

別に校則で封じられてるわけでもないのに黒髪ばっかりの中、際立つのは金髪ポニテ!似合ってる!!まつ毛長いしパチッとして。かわいい……ギャルって初めてみたかも、ちょっと感激だ。



「ああいうギャルっぽい子が好きなの?」


「う~ん、どうだろう。中々見ないよね?白ギャル可愛いのに」


「それは……今日は入学式だからかな。チラホラと化粧してる子はいたよ。現実でしない人は多いけど、ゲーム内ではよく見かけるかな」


「やっぱりそうなんだ。いいなぁ、日菜はベータもやったんでしょ?私はまだなのに」


「でも、もうすぐマキオンできるからね。だって来週配信だよ?延期は絶対ないから安心して」



そうだけど、最後に『ぬぬぬ』にお別れを言いたかった。

先週サービス終了しちゃったし。



「では、僕の後について来てくださ~い」



先生の後をついて靴箱や寮の場所、各施設を見回った後に教室に辿り着いた。



「疲れた……」


「日菜、体力なさすぎ」


「え~?周り見て、他の子も疲れてるよ?階段を上ったり下りたり上ったり…」



言われてみると、他の生徒。…クラスメイトだね、疲れて机に寝てる。



「いや~申し訳ない!僕もまだ慣れてなくてなぁ……みんなは迷子になったら、地図を頼ろう!」


「大和田センセー、方向音痴?」


「だから地図見てくださいって、散々言ったじゃないっすか」


「はは、すまんすまん!」



雰囲気は良さげだ。共学って感じでいいね。暑苦しくない、爽やか~。



「それでは、時間もないし。端から自己紹介していこう!…君からでいいかな?」


「はい!相沢智花です、デメアスではヒーラーやってました。構成は…」



え、そんなことも紹介するの!?


自己紹介の文を考えて、クラスメイトの話を聞く余裕はなかった。

後で日菜に聞こう。クラスの人は数え間違いがなければ、全員で29人いる。



「さて、明日からは授業になる。とはいっても、明日は身体測定と親睦会だ。あ、班を決める予定もあったか……今の内に仲良くなっておいても良いかと思う。質問がなければ…各自、寮に戻って寮長から説明を受けるように」



班も気になるけど、親睦会ってなにやるんだろ?



「班ってなんの班ですか~?」



先生と仲良く話してた、男の子が質問する。



「ゲーム内でパーティを組むことになる、そのメンバーのことだ。一班六名で組むことになる。来週のゲーム開始までには決めておいてもらいたいが、とりあえずの形だけは整えたい。それを明日決める予定だな」


「うげ、まじで!?」


「決まってるの!……えぇ~」


「(日菜、ゲームって自由にできない感じ?)」


「(わからない。班で、行動するとか?めんどくさい……)」





八人が寝泊まりする広い大部屋には畳が敷き詰められ、押し入れには布団が詰め込まれていた。部屋の時計は五時過ぎ。寮の説明も終わって、相部屋の男の子とも軽い挨拶が済んだ。六時からは大食堂で夕ご飯だ。



「時間までトランプでもやんね?」


「先に布団だけ敷いちまおう」


「だな」



私は集団生活には慣れている。

一ヵ月前と生活はそれほど生活は変わってない……いや、前よりは楽かもしれない。とはいえ、とはいえだ。話しは今のところ合いそうにない。


相部屋の私を除いた七人はデメアスワールド、先週末にサ終したゲームの話で盛り上がっていた。きっと、マウントを取り合っているんだろうけど、そのマウントが分からない。教えてって言いにくい雰囲気だし……もう寝よう。



そして朝。顔を洗って、歯磨きをしていると。後ろから声をかけられた。



「はよー、同じBクラスだよな?すまん、名前なんだっけ?」



私よりも背が高い、明るい茶髪の男の子だ。地毛かな?



「鮫島登だよ。たしか、コウジで合ってる?」



後で玄関の札を見て覚えとかないとだ。



「そうだ、よろしくな!のぼるって読むんだな、ほい握手握手」


「あ、よろしくっ」



相部屋の七人の仲間の内、彼だけBクラス。同じクラスの子だった。



「昨日は疲れてたのか?食堂に行ったら、クラスの奴らで集まることになっててな。班の話をしたりしてたぞ?」


「そうなんだ」


「なんか余裕そうだな?てか腹減ってるだろ、飯食い行かね?」


「いいね、行こ行こ」



地下にある食堂は共通の大きい場所らしい。第一から第四と案内にはあったけど、置かれた場所はほぼ同じ。中央に食材を配給する部屋があって、その部屋を囲むように食堂があるのだとか。



「ゲーム始まった時の役割とか、話してたんだが。登はなにやるかもう決めたか?」


「まだ決まってない。班で動くなら、他の人に合わせようと思って…」


「でもやりたい事とか、あるだろ?他は気にしないでもいいと思うぞ?前は何やってたんだ?」


「前作は……魔法使いをやってたよ」


「お!火力系?バフ系?」


「か、火力かな……」



きっと孝二は、メイジとかウィッチとかを思い描いているんだろうけど。本当に魔法使いだよ。見習いが取れただけのね。火魔法を使ってたから、火力系だ。



「俺は弓だな、小学から弓道やってて大会にも出たことある」



エントリーすれば出れるでしょ。

特別な大会ってこと?もしかして自慢されて……って感じでもないね。

多分パーティに誘うべきか、勝手に面接されてるんだと…思う。



「孝二、私はプレイ時間は少しだけで。その、そこまでやりこんでないよ?」


「あー、そうなのか?…そうか。それ、あんま言わない方がいいぞ?中にはそれで見下してくるヤツもいるから」


「そうなんだ?」


「マキオンは新作だから、そんなの…あんま関係ないってのにな」



いい人だった。食堂ってここかな?

昨日はここまで案内されなかったから、ほんと助かる。



「この時間は、結構空いてる…のかもな」



食堂はかなり広かった。横に長いテーブルが繋がって置かれている。

カウンターから料理を受け取るらしく、列になる事を見越して開けた空間があった。



「もうやってるのかな?」


「時間内だから、やってると思うが……多分あと三十分もしたら混むと思うぞ」



孝二がカウンターにあるボタンを押す。ロボットが給食を運んできた。

それを受け取って、適当なテーブルに座るようだ。



「のぼる、おはよ。……えっと、友達?」



日菜も早起き?昨日は悪いことしたかも。ご飯は食べに行けばよかった。



「こちら、同じクラスの五十嵐孝二君。こっちは幼馴染の小坂日菜子」


「あ、よろしくな。小坂さん」


「どうも。私もご飯一緒にしてもいい?」


「俺はいいぞ」


「あ、先食べてていいよ」



おう、とだけ言い。孝二はトレーを持って、近くのテーブルに座った。

私は成長した日菜とロボを眺める。



「昨日はごめんね、寝てた」


「探したのに……いいけどね。クラスで集まって、班の話とかしてたよ?」


「さっき孝二から聞いたよ、班って決まった?一緒の班だよね?」



日菜とは同じ班になるって約束はしてないけど、なるよね?



「それは、当たり前でしょ。……他の四人は見つかってないけど、班で動くとなるとランキング上位って難しいかもしれなくてね」


「へー」


「もっと興味持って!個人戦じゃないから、ちょっと大変かもしれないっ」


「調べる時間もなくて、まだよく分かんないから何とも言えないよ。どういう人が班に欲しいの?」



ロボが料理を持って来た。テーブルに移動すると、孝二は食べずに待ってくれてた。



「私は魔法系、ヒーラーでもいいけど。前衛が二人に生産が多めがいいかも」


「生産?それって大事?」



戦闘ばっかりをイメージしてたんだけど。



「私は特にね。最初のスタートでは必須、そうよね?」


「あ…そだな。新作だから、ま~当たり前なんだが、先人がいない。自分達で素材を活かす場面も多くなる。実は俺さ、ベータの時に武器の調達でマゴついた」


「武器、だけではなくてね。例えば…木工は簡単な拠点を作れたりするし、裁縫や錬金は金策にもなる。だからバランス良く組みたいかな?」


「ほ~?」


「小坂さんは結構やりこんでるみたいだな」


「そこそこには……五十嵐くんは、班は決まりました?」


「ああ、決まった…かもしれない。人数オーバーで、後でじゃんけん大会だ」





「「「「「「「「「ジャンケンポン!!!」」」」」」」」」



教室の後ろの方で本当に大会が開かれていた。頑張れ、孝二。



「日菜、こっちはどうしよっか」


「う~ん。困ったね……」



昨日決まったという班は先生からプリントを貰っていた。

日菜はというと、端末にメモを書いている。クラスメイトの名前の横に弓とか魔とか書いてある。11人も把握してるんだ。…魔法に剣士が多いね。こんなことしてないで、直接聞きにいけばいいのに。



「ちょっと、適当に声かけてくる?」


「よろしく。のぼる頑張って、ここから応援してるよ~」



日菜は人見知りさんだからね、私は社交的に行こう。

例のギャルが三人で駄弁っていた。うまくいけば、私達を取り込んでくれるかもだ。



「あの、もう班決まった?」


「「……」」


「んや、まだまだっしょ」



金髪ポニテの子が答えてくれた。少しだけ怠そうだ、まさにギャル。



「ねえ。君さ、昨日アタシの事……その、見てなかった?」


「自意識過剰でた」


「う、うっさい」



近くで見るとやっぱりギャルだ。化粧して、ネイルもしてる。

スペースギャルもいいけど、ベーシックな白ギャルの方が好み。かわいい…



「うん。見てたよ、かわいいなと思って」


「うわ!直球だし……君って、男の子だよね?」


「男だよ、鮫島登。登でいいよ」


「アタシは山城優華やましろゆうか、こっちは…」



山城さんの両隣には、短い黒髪で目が少し隠れ気味のギャルっぽい子。毛先にパーマを当てていて、クールな感じだ。あと、眼鏡で長い髪の大人しい感じの子がいた。



野上璃李のがみりり、よろー」


「あっ…私は、西東夕美さいとうゆうみです」


「よろしくね。あっちにもう一人いるんだけど~……あれ?」


「どうぞよろしく、私は小坂日菜子こさかひなこで~す」


「うわっ!?」



いつの間に後ろにいたんだ。



「アタシら三人だし、璃李もいいよね?」


「モチ。私が言った通り、待っててよかったね」


「あ~はいはいっ、そうかもね!」

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