第二話 不撓不屈

いつも心に留めておくと良い。成功しようと決意することが、何よりも大事なのだと。


エイブラハム・リンカーン

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 ヘイト達は途中途中で休憩を挟みながら、カウストへと退却していく。


 ヘイト達はカウストへと向かう道中、別段何事もなくカウストへと到着する。


 末端の兵士達は、戦争前と戦争後では、士気の有り様は天と地ほどの差があったが、到着した頃には、末端の兵士達の士気は、ほんの少しだけ戻って来ていたような気がヘイトはしていた。


 カウストに到着するともう既に、陣地が張られていた。

 

 ハウスヴェルト中佐は、部隊を離れ、陣地を護衛しているであろう兵士に話しかける。護衛兵が、敬礼すると、ハウスヴェルト中佐は、答礼し、


 「ハウスヴェルト中佐だ、今帰還した。」


 「了解しました。お疲れでしょうから休憩をと言いたいところですが、ノックス少将閣下から言伝を承っております。」


 と言うと、一瞬の間をあけた後、ノックス少将からの承った言葉を慎重に紡ぐ。


 「ノックス少将閣下が、『各兵士は、休憩をとり、ハウスヴェルト中佐はすまないが、会議に出席してくれ』との事です。その会議は午下ごか頃行われます。」


 「了解した。」


 と頷くと、部隊に戻っていき、先程護衛兵から聞いた事を話す。


 話しを聞いた兵士達は、今まで張り詰めていた空気感が霧散し、急に疲れが押し寄せるが、彼らの中には嬉しさもあったのだろう。


 兵士達は、陣地の中へと入っていく。





 ヘイトとハス曹長は、陣地の中に入り、人の表情やその人が纏う雰囲気を見て回った。


 大体は見て回ったヘイト達は、同一の感想を抱く。


 「思っていたよりも、士気の低下も苦悶くもんの表情も浮かべていなかった。」


 「ええ、私もそう思います。」


 そうなのである。この先の不安も、死への恐怖を抱く兵士は存在していなかった。


 「中将閣下が戦死しするという最悪の事態、敗戦という事実を受けて尚、士気は低下していない。それどころか、上がっているようにすら思える。」


 普通ならば、士気が低下していてもおかしくない、いや、低下する状態にあり、それを士気を下げるのでなく上げるという動静である。


 ヘイトの場合は、数十人の兵士の士気を上げただけであるが、少将が行ったことは、数万の兵士の士気を上げるというものだ。それも、兵士達は、後先の不安など感じさせない闘志溢れる様相であった。


 指揮統制能力、ハウスヴェルト中佐に渡した手紙。それら全てがヘイト達には不気味に感じた。

 

 そして、これらはたった一人の軍人によって成されたことだということがより一層、不気味さが増していく。





 ところ変わって、会議にて、その会議は、紛糾することになる、方々から「自国から、救援を呼ぶべきだ」、「退却すべきだ」、「継戦すべき」だとなど、甲論乙駁こうろんおつばくといった様相を呈する。


 ノックス少将は、目を瞑り、その議論を時々、相槌を打ちながら聞いていた。すると、目を開け、微笑を浮かべる。だが、その目は笑ってはいなく、少し圧のある声で言葉を発す。

 

 「ちゅうもーく!頭を冷やす為に.....少し...休憩しようか。」


 その文言一つで、場が震え上がる。彼の一言一言には、鋭く尖った針が、音速で人に刺さる様な、それ程の強烈なインパクトであった。


 「四半刻後に、また会議を始めようか。」


 この言葉を持って会議は一時中断となる。各幹部達は席を立ち上がり、退出していく。最後はハウスヴェルト中佐が出ていく。それを見ていたノックス少将は、笑みを浮かべていた。





 ハウスヴェルト中佐は、会議室を退出して、少し歩いていると、


 「ハウスヴェルト中佐殿!」


 と声を掛けられる。振り返ると、そこには見知った顔があった。


 「どうした、ヘイト少尉。」


 と答えると、ヘイト少尉は敬礼をし、ハウスヴェルト中佐は答礼した。ヘイト少尉は、真っ直ぐな目つきで、嘘を許さないといった面持ちで言葉を発す。


 「会議は...どうなりましたか?」

 

 その問いに対して。


 「議論がまとまらなかったから、休憩だ。」


 と答える。その言葉の節々に、苛立ちがありありと分かる様な言い方であった。その言葉にヘイト少尉は、少し驚いた表情を浮かべたが、一瞬で表情を切りかえ、少し躊躇しつつも丁寧な言葉で問わず語る。


 「その会議の件で、申したいことが...」


 それを聞いた、ハウスヴェルト中佐は先程の会議による鬱憤もあったであろうが周囲を見渡し。


 「分かった。ついてこい。」


 と言い放ち、この場を去り、ヘイト少尉もハウスヴェルト中佐についていく形であとを去り、ハウスヴェルト中佐の陣幕に向かう。





 ハウスヴェルト中佐の陣幕に着くと、二人は、陣幕の中に入る。


 ハウスヴェルト中佐が、椅子に腰を掛け、一呼吸を置き、話しが始まる。


 「私を...会議に出席させて下さい。」

 

 と頭を下げる。ハウスヴェルト中佐は、その行為、その意見に対して、何を言っているんだという気持ちになる。


 その機微を感じとったのか、芯のある声音でそして何処か悔しい思いで語る。


 「私は...この戦が初陣であり、初めての敗北でした。戦場に立ってみれば何もすることが出来ず、ただ茫然自失としているだけでした。私が憧れた戦場に立ち凡百の敵を打ち倒す軍人とはかけ離れた行為でした。」


 ハウスヴェルト中佐は、ただ静かに頷きながら話しを聞いていた。


 「私にはその乖離が、とても悔しかった。だから私は、貪欲に食らいつくことにしました。」


 「その一環が、会議に出席することだと?」


 「はい。」


 「俺は、会議に出席したからといって君自身の糧になるなんてことはないと思うが」


 「いえ、糧になるならないではなく、私は一目でも、ノックス少将閣下を見てみたいのです。」


 ノックス少将閣下を見てみたいという一言に、ハウスヴェルト中佐は、目を見開く。だが、直ぐに表情を元に戻し、睨みつけるように言葉を発す。


 「辞めておけ、君にはあわない。少将閣下のやり方は閣下独自のやり方だ。閣下のやり方を模倣することも学習することもできない。」


 ハウスヴェルト中佐が放った声色には、何処か悔しさや、哀れみが含まれていた。


 たが、ヘイト自身の中にある柱は動ずることはなく、

 

 「それが理由で辞めろと仰るならば、私は辞めません。私の所為で戦場に散っていった兵士の分まで頑張らなければいけません。わたしには立ち止まることは許されない。」


 その言葉を聞き、ハウスヴェルト中佐は溜息を吐き、


 「はぁー...分かった」


 と了承する。それを聞いたヘイトは喜色を浮かべ、


 「ありがとうございます。」


 と言う。ヘイトはお礼をし、陣幕を出ていく、それを見ていたハウスヴェルト中佐は、自分一人になった部屋で独白する。


 (危うい。彼の言動は危うい。いつの日か彼に、悲歎ひたんや...危難が彼に降りかかる、それを私は警告することも、手助けすることも出来ないだろう。彼にとってはそれが逆効果になってしまう。.....友よ...すまない。)


 その言葉には、今すぐにでも壁に拳をぶつけたくなる様な悔しさがあった。もし.....もし、その時が来たら友のようにと、ハウスヴェルト中佐は決意する。

 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━後書き


第二話を読んで頂きありがとうございます。


面白いと思っていただければ幸いです。


それでは第三話もお楽しみにしてください。

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