はづきさんは部屋を汚してしまう

 いまでこそ、はづきさんの部屋は普段から料理に使ったりするため綺麗な部屋になってはいるが、少し前までは目も当てられない状態だった時期があるのもまた事実。


 少し時間が遡って、雨宮 隣としてVTuberデビューをする上で俺が忙しくなった時。その間はキッチンなどの主要なところだけを掃除していた。

 その結果、はづきさんの私室の片付けの面倒までは見ることは出来なかったのだけど……


 今目の前で拡がっている惨状がまさにはづきさんの片付け能力を物語っていた。


「……違うんです」


 申し訳なさそうに目を逸らして言い訳をするはづきさん。

 俺は彼女に呆れながらも弁明の機会を与える。


「一見乱雑に積んでいるように見える書類や、衣類ですけど、私が使いやすいように配置しているんです……」

「うんうん、それで?」

「だから……そのぉ……申し訳ございませんでした」


 言い訳をするよりも申し訳なさの方が勝ったのか、すぐに頭を下げて謝罪をするはづきさん。

 うんうん、素直に謝ることが出来て偉い。


「まったく……こんなになる前に俺に声をかけてくれたら良かったのに」

「すみません……葵さんは最近、忙しそうにしていましたから手を煩わせてしまってはいけないと思って。私なりに努力はしてみたのですけど、見ての通りと言うか……」


 指をモジモジとつつきあうようにしながら恥ずかしそうに言うはづきさん。

 言われた通り、確かに前の惨状と比べると、今の状態はまだ汚くなり始めたくらいには収まっていてくれている。


「まあ、確かに以前よりかは汚くないね。このくらいなら今日中に片付けられると思うよ」

「本当に頼りになります……」

「まあ、書類とかは自分でまとめてもらうからね」

「分かりました。お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします」

「任されました」


 久しぶりの掃除に気合を入れるために袖をめくってから両頬を張る。

 まずは床に落ちている衣類から拾って行くことにするか。

 洗濯カゴを持ってきて、服を次々とカゴに入れる。

 その際になんか淡いピンク色の薄い生地が目に入った様な気がするけれど、意識しないように目を全力で逸らした。


「はづきさん、これっ……と、とりあえず服を全部拾ったから、自分で分けてもらってもいいかな。分け終わったら後でまとめて洗濯するから」


 服をまとめ終わったので、後ろで書類をまとめていたはづきさんに、洗濯カゴにまとめた服を突き出すように渡す。


「分かりました、じゃあちょっと分けてきますねー」

「うん、よろしく」


 俺が何を見つけてしまって恥ずかしがっているのかよく分かっていないのか、軽く首を傾げたはづきさんはカゴを持って脱衣所の方に向かっていった。


「まったく……無頓着にも程があるというか……」


 これからもそんな風に乙女の見せちゃいけないようなものが出てきた場合、俺の羞恥心が持たないなと思ってため息が漏れ出た。


「さてと、いちいち気にしてたら片付け出来ないし。気合を入れていきますか」


 床のものは大体どかすことは出来たから、次は上の方だ。

 掃除の手順は上からするのが鉄則だ。今回は床が凄かったから下から行ったけどね。

 ハタキやホウキを活用して、上の方からホコリを落としていき、荷物がどいたことで開いた床で掃除機をかけてホコリを吸い取る。

 ほかにも、通販のダンボールがうず高く積まれていたので、これも片っ端から潰していく。

 窓も少し汚いのが気になったので濡れ新聞とかで拭いたりもした。

 そんな風に部屋の掃除を進めていたら、そういえば、はづきさんが戻って来ていないなと気づいたので脱衣所の方に向かう。


 脱衣所の扉をノックしてはづきさんが中にいるのかを確認してみたところ。


「……っー……!」

「え、はづきさん!?何かあったの?入るよ!」


 中から呻き声のような声が聞こえたので慌てて扉を開けたら、片手で顔を抑えて耳まで真っ赤にしたはづきさんがしゃがみこんでいた。

 その手にはあの淡いピンク色の……


「あー……ごめん。部屋掃除戻ってるよ……」

「えっ……葵さん!?これはそのぉ……違うんです!」

「うん、大丈夫。何も見ていないから」


 俺は静かに扉を閉めた。

 扉の向こう側からは何やら弁明する声が聞こえてきたけど、俺もさっきの服回収時の羞恥心を思い出してしまったので、正直この話題は触れない方が良さそうだ。

 はづきさん、床に転がっていたもので何があるのか把握していなかったのか……そう思いながら扉にもたれ掛かるようにしゃがみこんで俺も少しの間、悶えることにした。



 はづきさんが部屋に戻ってくるなり、頭を下げて謝罪をしてくる。


「大変お見苦しいものをお見せしました……さすがに気が抜けすぎていたというか……」


 まだ耳まで真っ赤なはづきさんを見て、俺もこの件はこれ以上掘り下げてもお互いに良い事はないだろうと思ったので、彼女の肩に手を置いて頭を上げてもらう。


「はづきさん、ご飯にしよう」

「はい?」


 だったら、お互いもう忘れよう。そんな気持ちを込めて別の提案を出す。


「掃除で体を動かしてお腹も減ったからね、お腹いつぱい食べよう」


 そして、さっきの事については忘れよう。不幸な事故だったんだ。

 そんな思いを言外に込めて見つめていると、意図を組んでくれたのか。


「ですね、お腹いっぱい食べましょう……!何かお手伝いできることあったら言ってください」


 ことさら明るい返事で言葉を返してくれるはづきさん、意図が伝わってよかった……


「うん、色々と手伝ってもらうからね。それじゃあ……」


 そうして、俺たちはご飯を一緒に食べて穏やかな時間を過ごしましたとさ……


 掃除はやっぱり定期的にするべき、そんな気持ちをお互いに抱いたのは間違いない。



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 閑話ならはづきのポンコツをもっと前面に出しても良いのではと思った作者です


 はづきの家事力皆無具合は料理くらいしか本編で書いてなかったと思ったので、掃除面も描きました丸

 本編だと精一杯良いところを見せているイメージで

 

 部屋掃除に関しては自分も正直苦手……

 本が……増えるんですよ……


あと、前話の文をほんの少しだけ修正しました


成人→18歳


という感じで

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