雨宮 隣はお嫁さん!
るなの爆弾発言に、一瞬コメントが時が止まったかのように、誰も呟くことがなかった。しかし、次の瞬間には爆速でみんなして呟き始める。
:なんか変なこと言ってるんですけどw
:いや、待てよ。お嫁さんということはつまり
:男の娘ではない?
:いや、男の娘でもお嫁さんになれるに決まっているだろ
もはや迷走とも言えるほどに、コメント欄は大混乱。
この混乱をもたらした張本人は言ってやったぜとばかりに満足そうな笑みを浮かべて胸を張っている。
そして、言葉を続けるはづきさん。
「みなさん、考えても見てください」
:なんだ?
:考える?
:どゆこと?
「お料理が上手で、普段から色んなお世話をしてくれて可愛いものが好き。そして怖いものが嫌いで、リアルの姿が可愛らしい」
:うんうん
:つまり?
「こんなのお嫁さんにする以外に何があると言うんでしょうか?」
「飛躍しすぎでは?」
何言っているんだい、はづきさん。
俺はそんな思いを彼女に伝えるように、思わずツッコミを入れてしまう。さっきまでのしんみりとした雰囲気はどこに行ったのだろうか。
:確かに
:隣ちゃんはお嫁さんだった……?
:反論できねぇ
「いや待って、となリスナーさん達。少しは頑張ってみよう?ね?」
「隣ちゃん、るなちゃんがこうなったらもう誰にも止められません」
「諦めた方が賢明だよ、お隣さん!」
「ああ、ダメだ。味方が誰もいない」
収拾つかない事になってしまった。
となリスナーさんたちもるなに同調し始めたみたいで、なんか変なコールを始める。
そしてそれに張り合うように、はづきさんも同じように掛け声をあげた。
:『『『隣ちゃんは俺たちの嫁ー!』』』
「隣ちゃんは私の嫁です!」
「どうしてこうなった!」
収拾つかなくなっちゃったよ。
それから何があったかと言うと、となリスナーさん達とプロレスを繰り広げるはづきさんをこわちゃんが何とか落ち着けてくれた。
普段は結構元気っ娘で振り回すがわだったりするのに、こう言う時に割と冷静で頼りになるなこわちゃん。
それから、さすがに長くなってしまった配信を終わらせるために挨拶をして配信終了させた。
配信が終わってから、さすがにやらかしたという事を理解したのか、はづきさんが申し訳なさそうに顔を伏せている。
「すみません葵さん……また私が変な事をしでかしてしまって……」
はづきさんが言う通り、今回も色々とぶち込んでくれた、それは確かだったりする。
けどまあ、この流れがあって俺が男か女なんてとなリスナーさん達も割とどうでも良くなったのは確かだったりするわけで。
それに、深刻な問題だったらさすがに玲さん辺りからストップがかかっていただろうしな。それが無かったということは配信事故になってないって訳だ。
そうは言っても、はづきさんからしたらまたやらかしたと言う認識があるのだ。
申し訳なさそうに体を縮こまってしまっているはづきさん。
「はづきさん」
確かにカオスな展開になったのは間違いないけど、正直俺は気にしていなかったりする。
男の娘VTuberとしてデビューしている時点で今更だしな。お嫁さんって肩書き増えること自体、どうって事ない。
だから俺は彼女の罪悪感がこれ以上増える前に、それ以上に印象的になる事をするしかないなと、ポケットからあるものを取り出して、はづきさんの手を取る。
「えっ?」
「そういえば、これ渡していなかったと思ってね」
手渡されたものを手を開いてから見たはづきさんは、目も見開いてパッと俺の方に顔を向ける。
彼女に渡したのは俺の部屋の合鍵。
「お互いの家に入る事が増えたからね、だから渡しておこうかなって」
「えっ……でも良いのですか?」
「今更でしょ。それに俺ははづきさんにこれを渡したかったし。その……これがさっきの返事って事かなって」
さっきの返事。
つまりは、はづきさんの公開大告白に対する事への返事ということ。
それを理解できたはづきさんは花が開いたような笑みを浮かべて、ガバッと俺に抱きついて嬉しそうに声を上げる。
「はい、大事にします!」
子供のようにはしゃいだ声を上げるはづきさんに苦笑しながら俺はひとつ提案する。そうしたら、彼女も嬉しそうにでしたらと提案を返してくれた。
「今度、キーケース買いに行こっか」
「私も合鍵今度作っておきますので、今度お揃いのを揃えましょうね」
「いいね、今度一緒に買いに行こっか」
抱きついてきたはづきさんの髪を撫でながら言葉を交わす。やっぱり彼女とはこういう風なやり取りをしているのがいちばん楽しい、改めてそう思った。
胸の内からポカポカと湧いてくる気持ちで自分の表情がすごく柔らかくなっているのを自覚した。
少しの間そうしていると、周りから拍手の音が聞こえて来たので、ここがどこかを今更になって思い出す。
あたりを見渡してみると、空ママとこわちゃんを始めに、スタッフさん達と玲さん佐々木さんが微笑ましいものを見るような表情で見ながら拍手をしているのが目に入った。
さすがに自分が何をやらかしたのか理解したし、前に海斗に自重しろよと言われた理由を今更になって理解した。ましで。
やってしまったなと思って耳まで真っ赤に染った感覚と共に固まっていると、玲さんが代表して前に出てきて、俺に声をかけてくる。
「私達のことは気にしなくていいから、さあ続けて」
「そこまで神経図太くないですからね?」
玲さんは微笑ましそうにしているけど、同時に面白いものを見たと言わんばかりの表情をしていたので、ジト目になって思わずツッコミを入れたら玲さんが面白そうに笑い始めた。
俺はため息を吐いて、まだ抱きついてきたままだったはづきさんの肩を軽く叩いて離れてもらった。
まだ抱きついていたかったのか、はづきさんが少し不満そうにしていたけど、離れてもらうために耳元で言葉をかける。
「家に帰ったら好きに抱きついていいから。なんなら膝枕してもいいよ、なんてね」
大胆なことを自分でも言ってるなと自覚しながらも、冗談で膝枕を提案したら、それにはづきさんが食い付いてしまう。
「でしたら、膝枕は私にやらせてください」
「ふふ……だったらその時はよろしく」
「ええ、任せてください」
体を離したはづきさんが両手を胸の前でグッとサムズアップ。
やっぱりはづきさんはこうしていてくれた方が彼女らしいとそう思った。
さてと、何時までもこうしているわけには行けないし、椅子から立ち上がって今日俺の事を手伝ってくれた人達の方に体を向ける。
「みなさん、今日は俺の初配信を手伝ってくれてありがとうこざいます。みなさんが手伝ってくださったおかげで配信が成功に収まったと思います」
そう言ってから頭を下げる。
「改めて、ありがとうこざます!」
俺が頭を下げたタイミングで、はづきさんも立ち上がって横に並ぶ。
「私からもお礼を。自分の不注意で起こった事態だったと言うのに、社長やスタッフさん達にも迷惑をかけたはずなのに面白そうだと手伝って下さって……空ママも隣ちゃんの立ち絵を描いてくださって……」
「それだと、私も今回のことのきっかけのひとりだから。謝るとしたら私もですよ」
「確かにそうでしたね……でも、私からも改めてありがとうこざいました」
はづきさんが俺の横で頭を下げる。
「気にしないでいいよー。お隣さんの料理も美味しかったからね!」
「これからもサポートさせて貰いますよ」
「隣さんの女装を目に収められましたからね、眼福です」
今日手伝ってくれた人達から思い思いの返事が返ってくる。
その後に真面目な空気はここで終わり、そう言わんばかりに玲さんが両手を打ち注目を集める。
「さあ、今回の配信は大成功に収まりました。けど、これは始まり。隣ちゃんはこれからフェアリップの大切な家族です。これから一緒にフェアリップ
盛り上げていきましょ、ね」
お茶目な感じでウィンクをして話を締める玲さん。
俺は家族と言って貰えたのが嬉しくて、胸を張って返事を返す。
「はい、これからよろしくお願いします!」
こうして俺の初配信は大成功で終わった。
後で家に帰ってから、ツウィッターのトレンドを見て見ると『俺たちのお嫁さん』や『お嫁さんを俺に下さい』と言うのが入っていたのは解せないと思ってしまったのはまた別の話。
──────────────
最近の推しグループが出す新曲やMVが神すぎて拝み倒したくなっている作者です。
うちの子達のイチャイチャ書くの楽し〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます