雨宮 隣のほくほく肉じゃがで心も暖かく
4人で食卓に座っていただきますをしたら、それぞれ器によそった肉じゃがに箸をつけて口に運んで頬をほころばせる。
「あぁ……美味しいです」
はづきさんはオーソドックスな肉じゃがを口にほおばってからご飯を食べて、内側から染み出すような感じで幸せそうに感想をつぶやく。
「いつも動画で見ていた隣ちゃんの料理……凄く美味しい。生きててよかった……」
空ママはなにやら感動したように、ひと口ひと口大事そうに噛み締めている。
「素揚げしたおかげでじゃがいもがねっとりとしている上に、野菜の旨味とお肉の美味しさが染み込んでいて……うん、この肉じゃがはご飯が進むね!」
3人それぞれ違う反応を返しているけど、こわちゃん結構語彙力豊富だな。
スタジオの外側を見てみると、美味しそうに肉じゃがを食べてくれているスタッフさんがいて、それを見ていると温かい気持ちが湧いてきて、自然と言葉が出てくる。
「みんな美味しそうに食べてくれて、俺もすごく嬉しいよ」
さて、俺も彼女たちと同じように肉じゃがを食べることにしますか。
まずはオーソドックスな肉じゃがから。箸を運び、少し大きめなじゃがいもを割ってから肉と一緒に頬張る。
口の中に広がるじゃがいもの素朴な甘さと、肉の旨みが口に広がって、はづきさん達と同じように頬がほころぶ。
よく噛んで飲み込んだら、次はご飯を口に運び、味噌汁と合わせていただく。米もよく粒だっていてお味噌汁とよく合うな。
次に、素揚げしたじゃがいもを使った肉じゃが。
こわちゃんが言った通り、じゃがいもが独特の食感をしていて、牛肉とよくあう。これもご飯がよく進む。
「うん、肉じゃがいい感じに出来たなぁ……ご飯も粒だっていて美味しい」
:アバターの動きと声から美味しんだろうなってことがよく分かる
:食べたい……
:お腹減った
:女の子組にお礼を言った時の声の温かさよ
:ママ……?
:しみじみとした感じの感想がなんかいい……
「ふふふ……隣ちゃんのご飯を食べられるのは同じグループに所属している私達の特権ですね」
はいそこ、はづきさん。あまりコメント欄を挑発しないの。コメント欄がなんか阿鼻叫喚し始めちゃってるじゃないか。
「なんか私もVTuber扱いされていませんか……?」
「こわちゃん的に、空ママはほぼフェアリップのメンバーみたいなところある気がするなぁ〜」
「えっ?!」
「それにもう手遅れだと思うよ?」
いつの間にそんなことになっていたのかと、こわちゃんにそう言われて衝撃を受けている空ママがちょっと面白い。まあ、VTuberとしての肉体まで出来ちゃったし、こわちゃんの言う通り時間の問題なのは間違いない。
そんな感じに雑談をしながら箸を進めていると、はづきさんがなにかに気づいたのか小さく声を上げてから、向かい側に座っているこわちゃんの方に体を乗り出す。
「こわちゃんさん、頬についてますよ」
「んふふ〜。拭いてくれてありがとね、るなちゃん」
「ふふふ、どういたしまして」
頬を拭って貰って嬉しそうに微笑んでお礼を言うこわちゃんにはづきさんも嬉しそうに微笑んでお礼を返す。
女の子同士の可愛らしいやり取り。普通だったらそんなふうに微笑ましい気持ちで見る事になるのだろうと思う。となリスナーさん達も。
:てぇてぇなぁ
:てぇてぇねぇ
そんな事を呟いてほんわかとしている。
けど、なんでか俺はこの前の食事会で同じことをはづきさんにやった事を思い出してしまっていた。
少し恥ずかしい気持ちが湧いてきて、思わず赤く染った頬を隠すように片手で覆い隠すようにして俯く。
いきなり黙った俺にはづきさん達とコメント欄が不思議そうな反応を返している中、玲さんから送られてくる生暖かい視線にいたたまれない気持ちになってしまう。
「……ごほん。さて、食事もひと段落したし、あとは軽く質問コーナーをやって行こうと思います」
:質問来たぜ
:聞きたいことしかない
:どんなゲームやったりするの?
:歌枠とかやる?
羞恥心を誤魔化すように咳払いをして強引に話題を進めると、となリスナー達は特に疑問に思うことがなかったのか、それぞれ気になったことを質問してくる。
はづきさん達も締めに入ったのを理解してくれたのか、変な動きをしていた俺のことは一旦気にしないことにしてくれた。
「まずは、どんなゲームをやるかですね。うーん……俺ってあまりゲームをやらないんで、この機会にRPGとかやってみたいですね。ちなみにアクション系のゲームはマネージャーさんに苦笑いされました」
:苦笑いw
:つまり下手ということ
質問に答える上で冗談を挟みながら話すと、意外とウケたのか楽しそうにコメントを返してくれるとなリスナーさん達。
「ちなみに、ホラゲーはさらに壊滅的なんで。絶対にやりませんよ、絶対に」
:フラグ来た
:楽しみに待ってるよ
ホラゲーなんてもってのほか。そんな気持ちを込めて念押したところ、どうやら愉悦部の人が大勢いたようで俺のホラゲー配信を待っている人で染まり始める。絶対にやらないぞ。
「隣ちゃんのホラー嫌いは筋金入りですからね」
「絶対にやらないからな」
「ふふふ、果たしてその意地がいつまで持つかですね」
「敵は身近にいた……だと」
続いて歌枠の話。
「これに関しては、素人の域を超えていないので、歌いたいなぁと思ったらするくらいですね」
「こわちゃん的に、お隣さんの歌声気になる!」
「私も気になりますね」
「良かったらボイトレなど、今度付き合いますよ」
「その時はよろしくね、るな」
歌枠の話に関しては特別好きとかは特にないけど、嫌いということも無いので割とすんなり話が終わる。
ちなみに後で聞いた話だけど、るなは歌もメインで配信しているみたいなので歌が得意だとか。
:これからやりたいことあるー?
「やりたい事ですか……うーん。まずは今日やったみたいに料理配信ですね。普段は自分の家で作って、ここを借りる事が出来たら先輩たちにご馳走するとかどうですかね」
「その時は御相伴に預からせていただきます」
「こわちゃんも参加したい!」
「それと、料理下手の人のために教える配信もしてみたいかな」
「「ッッッすぅぅーーー」」
「楽しみに待っていてくださいね!」
「私は普通に出来る方なので、その時は頼りにしてくださいね」
「はい、その時はよろしくお願いしますね空ママ」
配信中は今回みたいにタダでは食わせてやらんと決心を決める。そんな気持ちを込めて手伝ってもらうと伝えたところ、はづきさんとこわちゃんが揃って視線をそらした。
それを見て空ママが苦笑してしまったけど、手伝ってくれると、ありがたいことを申し出てくれたので、次に作る時が楽しみだ。
「時間も遅くなってきましたし、そろそろ最後の質問にしますかね」
:ええー
:もう終わりかぁ
:時間が経つのが早い
「今日はもう終わっちゃいますけど、これからも配信していくので、それで許してくださいね」
俺がそう言うととなリスナーさん達も納得してくれたのか、それじゃあしょうがないなと言う雰囲気になってくれた。
そして、そんなタイミングでひとつの質問が目に入り思わず体が固まってしまった。
:るなちゃんと隣ちゃんどのくらい関係進んでるのー?
どう答えるべきか……正直に言っても、言葉を濁したとしても、問題かもしれない。
はぐらかすというか、質問自体を流すことをした方が良かったのかもしれないけど、となリスナー達も結構気になっていた内容だったのか、みんなして同じことを呟きはじめる。
やましい事がないからここは正直に言うか。そんな決心を決めて話始めようと思ったその瞬間、隣に座っていたはづきさんがゆっくりと話し始める。
「私は隣ちゃんに、いつもお世話になっています」
弾かれるようにはづきさんの方に顔を向けると、彼女は胸の前で手を握り、胸の内から溢れ出る気持ちをぽつりぽつりと呟き始める。
「出会いは雨の日で、ボロボロな私のことを気遣ってくれて、優しくしてくれて。温かいご飯を作ってくれて」
それは、自分の配信でも話していたという事を、この場で改めてこの配信でこの場で、となリスナーさん達にも印象付ける行為だったのだろう。
「そんな彼に何か返していきたい。そんな思いが積もっていくばかりなのに、隣ちゃんはさらにそれ以上のものをくれました。お隣さんバレがあってから、一緒に過ごす時間が増えてきました。一緒に買い物にいって、一緒にご飯を食べてくれて……本当に、いっぱい色んなものをくださいました……そんな普通のことでも隣ちゃんは喜んでくれたましたし、私も嬉しくなりました」
この前の食事会で俺が彼女への思いを告げた事と同じ行為だけど、この場でするというという事はもはや公開告白だと言うことを彼女は理解しているのだろうか。
そんな気持ちを抱きながらも、彼女の言葉を俺は止めることが出来ない。それは、となリスナーさん達や空ママ、こわちゃんすらも同じだ。
そんな状況で、はづきさんが蕩けるような笑みを浮かべ俺の方に顔を向けてから、キリッとした表情に変わり配信画面に向かって躊躇うことなく思いを告げた。
「そんな優しい彼のことが大好きにならないわけがないんです!」
あまりにも真っ直ぐな言葉を受けた俺の全身に衝撃が走ったと同時に、温かい気持ちが湧いてきた。
となリスナーさん達もその真っ直ぐな言葉に感化されたのか、祝福ムードを放ってくれている。
それがすごく嬉しいと同時に恥ずかしくなる……
けど、そこにこの配信最大の爆弾をぶち込んで来るのがある意味、俺をVTuber世界に誘った夜空 るなクオリティだった。
「そして、隣ちゃんは私の嫁です!」
「……ん?」
なんか変な言葉聞こえたな。
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メスガキキャラは即ママキャラになると思う、次の日とか言いながらギリ日を跨いでしまった作者です。
この作品を書き始めた当初の目的というか、タイトル?あらすじ?回収やっと出来ました、やったね。
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