雨宮 隣の料理を食べよう

「リスナー名は『となリスナー』配信タグは『#お隣配信』ファンイラストタグは『となりアート』で決定!」

 :わぁー!

 :ぱちぱち!

 :俺たちはとなリスナー!

 :早速イラストあげていくかな


 男の娘インパクトからほどなく、俺はなんとか脱線してしまった配信の流れを軌道修正をして進めることが出来た。


 その間にも、次の調理過程に進むことは忘れずに、テキパキと動き続ける。

 水に晒していたじゃがいもの水気をしっかりと取り、人参、玉ねぎと処理を済ませたさやいんげん、牛肉と豚肉を並べてからどんな肉じゃがを作っていくのかをとなリスナーさん達に教える。


「さてと、今日の肉じゃがはオーソドックスに具材を一緒に煮込んで行くタイプ。そして、じゃがいもを素揚げしたタイプの2つを作っていこうと思います。オーソドックスなやつは豚肉で、素揚げは牛肉を使うかな」

 :揚げるとじゃがいもがいい感じにねっとりして美味しいよね

 :オーソドックスなやつも美味しい


 どんな肉じゃがを作るのかをとなリスナーさん達に教えたので、すぐに次の工程に取り掛かるとするかな。


 量が多くなるので大きめの鍋を使ってまずは油をひいて、肉に火が通るまで炒める。その隣でじゃがいもを軽く素揚げするのも忘れない。


「フライヤーを使ってじゃがいもを素揚げしたけど、揚げ物をする時に便利だから、そのうち家にも欲しいですね、これ」

 :確かに便利だね

 :けど、油多く使ったりするから大変なところもある

 :掃除とかも大変


 何となく呟いた言葉をとなリスナーさん達が拾ってくれて、助言を言ってくれたりする。こういったやり取りが配信の楽しいところかもなと、なんとなくそう思いながらとなリスナーさんに言葉を返す。


「確かに。しばらくの間はここでたまに使わせてもらうくらいが丁度良さそうかも」

 :そのくらいがちょうどいい

 :だね

 夜空 るな:欲しかったら言ってください、買います

 :なんか今いたなぁ……


 見覚えのある名前が流れたなぁと思いながら、ジトっとはづきさんの方を見つめると、テヘッと舌ペロをしていた。普段はクールな感じなのにお茶目な所を度々見せるようになってきてキャップを感じる。

 というか、何やってんだよはづきさん……


 夜空 るな:私の食生活が潤う為なら調理器具なんでも買います

 :食欲に正直すぎる

 :ここに来ての食いしん坊キャラで草


 すぐそこにいるのにコメント欄に発生していることにツッコミを入れたいし、食いしん坊キャラが定着してきていることも気にはなるけど、とりあえず俺はひとつの結論を出す事にした。


「まあ……うん。とりあえず見なかったことにしよう」

 :それがいい

 :同意


 俺の事言葉にはづきさんがショックを受けたみたいな表情をしているけど、すぐに呼ぶ事になるんだからそこでちょっとまっててくださいねー。


「さて、肉にも火が通ってきたし。あとは他の具材を投入してから調味料を入れて煮込んで煮詰めていくだけです」

 :ラストスパート!

 :もう美味しそう


 素揚げしたじゃがいもの方は、あまり早くに投入したら煮崩れてしまうのでタイミングを計って入れる。


「具材を煮立てたところに、砂糖とみりん。醤油とお酒を入れて、本だしで味を整える。旨み調味料も入れておきますかねー」

 :旨み投入

 :おいしくなーれしてー

 :萌え萌えきゅん!(低音)

 :野太い声聞こえたわ


 調味料を入れ終わって煮汁が少なくなるまで煮つめて、落し蓋をして火を止めて少しの間落ち着かせる。その間に雑談タイム。

 となリスナーの人達も良い人が多いみたいで、コメントとのやり取りをしているだけで結構楽しい。

 まあ、夜空 るなの配信に現れた上に、いきなりVTuberデビューした俺を受け入れてくれてる時点で優しい人ばっかりか。そんな事を今実感した。


 それから少しして、肉じゃがもそろそろ出来ていそうだったので味見。いい感じに味も整っていて、じゃがいももホクホクとしていたので、皿に盛り付けてさやいんげんを散らして緑を添えて彩る。


 ここにご飯もあったら良かったなと思っところ、どうやらスタッフさんが先に炊いておいてくれたみたいで、ご飯もちょうどいいタイミングで炊き上がった音を鳴らす。

 スタッフさんに目線でお礼をすると無言でサムズアップを返してくれた。


 炊き上がったご飯をありがたくお茶碗によそって、肉じゃがを作る傍らで進めていた味噌汁も一緒に並べる。そして、多分付け合せで使ってねって感じで置かれていたほうれん草もおひたしにしておく。


 いい感じに料理を盛り付けができたのでカメラに写して、完成を宣言。


「ということで完成です。召し上がれ」

 :いたたきまーす!

 :画面が邪魔で食べること出来ないや……

 :今の召し上がれの優しいボイス、耳が蕩けるんですが?

 :食べることができる人達が恨めしい……

 :今日のおかずが肉じゃがの俺勝ち組


 肉じゃが2種類も盛り付けてひと段落着くことが出来たので、となリスナーさん達にゲストさんをこれから呼ぶと伝える。


「それじゃあ、ゲストさんたちの登場です。まずはみんなだいたい予想出来ていたでしょうけど……」


 俺はそこで言葉を一旦区切って、はづきさん達を手招きする。意図を組んでくれたようで、すぐに近づいてきて自己紹介を開始する。


「となリスナーのみなさま、今宵も綺麗な月が昇っていますね……フェアリップ所属 夜空 るなです。今日は隣ちゃんにお呼ばれして来ました」

 :綺麗な月

 :曇りの日でも変わらぬ挨拶定期

 :朝でも月

 :昼でも綺麗月

「私が綺麗な月と言ったら綺麗な月なのですよ」

 :るなちゃんいらっしゃい

 :予想通りだぜ

 :本人登場


 まずは、はづきさんが夜空 るなの自己紹介を行う。それに合わせて夜空 るなの立ち絵を画面に表示するのも忘れない。

 次にこわちゃんの方を向くと、すぐに挨拶をしてくれる。


「はいはーい!みんなこんばんは。フェアリップ所属の犬咲 こわちゃんです!」

 :こわちゃん!

 :予想外や


 予想外な人物が呼ばれたことに案の定と言うか、となリスナーさん達も少しびっくりしている。その間にこわちゃんの立ち絵も表示。

 その事に対して簡単にだけど説明もとなリスナーさん達に行っておくかな。


「本社に来る度に遭遇するんですよね、こわちゃん。その縁からご飯食べませんかって誘ったら尻尾振って着いてきました」

「食べ物に釣られてきました!」

 :食いしん坊娘が増えたという事ね

 :こわちゃんらしい


 最後に空ママを呼ぶ。その際に渡されていた立ち絵を画面に表示すると、誰だろう?と言う反応を返されたので疑問に思っている間に空ママが自己紹介を行った。


「みなさんこんばんわ。るなと隣ちゃんのママの明野 空です」

 :え?空ママ!?

 :声は知っていたけど、このイラストってもしかして?


 ザワつく、となリスナーさん達のコメントを見て俺も空ママの方に顔を向けると、イタズラが成功したとばかりに笑っていた。


「子供たちにお呼ばれしたので、今日のために新しい体を描いてきました」


 まだ完成には程遠いですけどね。そう言って苦笑いしている割にはその体の完成度は高い。

 見た目としては、隣の方に近く。恐らくシンデレラの母親みたいな設定なんだろう。けど、装飾などで月要素も散りばめられているところにこだわりを感じる。


 :行動力の化身で草

 :さすが、衝動的に隣ちゃんの体を描いた人

「ママ、隣ちゃんと同じようなデザインにするなんて……」


 けど、はづきさん的には納得いかないところがあるのか、わなわなと体を震わせて顔を俯かせながら空ママに声をかけている。

 どうしたらいいのかとこわちゃんと一緒にワタワタしていると、はづきさんがカッ!と顔を上げて予想外のことを言い放った。


「その手がありましたか!」

「ん?」

「ふふ、羨ましいでしょう」

「ええ、羨ましいです。合法的に隣ちゃんの家族になるなんて!」

 :何言ってるんだろこの人たち

 :何言ってるんだこの人たち


「何言ってるんだろうこの人たち」


 その瞬間、となリスナー達と俺の気持ちは一緒になった。


 なにやら通じあったように、変な会話を繰り広げるはづきさん達にどうしたもんかと思っているうちに、2人してヒートアップし始める。また、収拾つかなくなったなぁ……

 そう思って遠い目をしていると、こわちゃんが2人の間に割り込んでから、両手を上げてここにいるぞと言わんばかりの主張をして声を出す。


「はい、2人ともそのくらいにしてね!収拾つかなくなちゃうでしょぉ!はい、おしまい!」


 こわちゃんのその言葉に2人はクールダウンしてくれたのか、申し訳なさそうにしゅんと体をすぼめた。


「すみません、熱くなりすぎした……」

「隣ちゃんの配信枠なのに……申し訳ございません……」

「いや、全然大丈夫だから。なんだかんだ配信も盛り上がっていたみたいだしね」

 :これは切り抜きですわ

 :るなちゃんの知らないところがどんどん出てくるなぁ


 これもある意味、面白い展開だったしね。

 しゅんと落ち込むはづきさん達に励ます言葉をかけてから、脱線した流れを修正するために俺は本来の目的を話す。


「それじゃぁ……肉じゃが食べましょうか」

「はい!」

「隣ちゃんのご飯、待ち遠しかったです!」

「美味しそうでさっきからヨダレが出っぱなし!」


 3人を席の方へと座ってもらうように促してから、俺も一緒に着席。


「それじゃあ、みなさん手を合わせて……」

 :はーい

 :両手を合わせてー


 俺の掛け声に3人とも体を軽く揺らしながら両手を合わせる。そんな風に楽しみに待っていてもらえるのが凄く嬉しいなと胸の中が暖かくなった。

 コメント欄の方は顔文字で、そしてさっき料理を渡したスタッフさん達も両手を合わせている。

タイミングを図るためにせーのと掛け声を出してからご飯をいただく挨拶をする。


「「「「いただきます!」」」」



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どうも、毎日の充電が長時間配信で満タンすぎる作者です。


今回の肉じゃがで2タイプ用意することにしたので、前々回の話に牛肉の文面を追加しました。


出来たら明日も更新します

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