お隣さんと朝チュン再び(健全)
少し時間が遡って、はづきさんと月の下で語り合いをしたあとの次の日の朝。
いつもだったら窓から差し込んでくる日差しで自然と目が覚める。けど、今日は別の要因で起きることになった。
ふにふにと頬をつつく感覚。
「んぅ……」
それに思わず声を漏らしながら、瞳をゆっくりと開くと、それを行っていた張本人と視線がバッチリと合った。
「あっ……」
やべっと言わんばかりの表情をした彼女は、それでも俺の頬から指を離すことはなく、俺の頬の柔らかさを堪能し続ける。ジトットした目線を送りながら、声をかけるとさすがにちょっと申し訳なさそうな表情になって、名残惜しそうに指をゆっくり離していった。
「………おはよう、はづきさん」
「おはようございます……葵さん」
「いつからいた?」
「10分ほど前からです……」
「そっかぁ……楽しかったかい?」
「とても」
「………」
「…………ごめんなさい」
「うん、正直に謝れて偉いね」
感想を聞いてからもジトっと見つめていたら、観念したのか頭を下げて謝るはづきさん。
俺はそんな彼女を見ながら、ヨダレとか垂れてなかったかなと口の端を拭ってから体を起こす。幸いなことに口からは何も垂れてきていなかったようだ。
「可愛らしい寝顔でしたよ」
俺がしなくてもいい心配をしていたら、はづきさんから揶揄うよな声をかけられる。それに恥ずかしくなったけど、このまま彼女のペースに乗るのも癪だったので、柔らかそうな彼女の頬を軽くつついて、髪を梳くように頭を撫でてからニヤッと笑う。
「おかえし」
「へっ……」
「さて、とりあえず着替えてくるから。リビングで待っていて欲しいかな」
普段の俺ならあまりやらない事をしてみると、面白いくらいに顔を赤面させてその場に固まってしまうはづきさん。
してやったりと思いながら、着替えるために固まったままのはづきさんをリビングに促す。
どうやらフリーズしてしまったようなので、なんとか抱え上げてリビングのソファにゆっくりと降ろす。はづきさんの方が身長が高いからこんな時に少し苦労するな……もう少し身長欲しいな。
はづきさんをソファへ運んだ後、恥ずかしい事をした自覚が湧いてきたので自室に入ってから、扉に背を預けて、熱くなった頬を押えこんでしゃがみこみしばらくの間、悶えた。
着替えてからリビングに戻るとはづきさんも赤くなった頬を抑えてソファで悶えていた。
親父を見送った後にはづきさんのご家族を起こしに行ったら、どこかよそよそしい雰囲気をしている俺たちを見て、生暖かい視線を送ってきたのがさらに恥ずかしかった。
その後、お祝いのためにレストランを予約しようとか言い始めたゆたかさんの誤解を解いて宥めるのに苦労したのは言うまでもない。
はづきさんの家族との食事会も無事に終え、そこからは俺の雨宮 隣デビューまでやる事をこなしていく日々になった。
例えば、ツウィッターに作った料理などの写真を投稿したりして、雨宮 隣がどんなキャラ付けなのかを確立させてみたりした。
実際その投稿についたコメントは料理を褒める内容や、お菓子を作れることに驚かれたりなど様々だ。
あとは、はづきさんにこれも投稿してみたらどうだろうと提案してもらった、可愛い小物や自分で編んだあみぐるみの写真。これもかなり好評だ、と言うか男の娘要素としてかなりウケがいい。
:編み物可愛いー
:これは紛うことなき男の娘
:どこで買ったんだろ
「ここまでウケるもんかねぇ……」
自分ではあまり自覚がないけど、結構好意的に受けとってもらえることに困惑とともに嬉しさも少し覚える。
「葵さんは男の娘VTuberでデビューする訳ですからね。それが演技という訳ではなく、ちゃんと可愛らしいところを兼ね合わせていると認識して貰えたのが良いところなんですよ」
「そんなもんか」
「そんなもんです」
そんな風にあの日からすっかり、一緒に過ごす時間が当たり前になったはづきさんと、同じソファで並びあって、同じスマホを覗き込みながら話し合ったりもした。
それ以外にも、空ママと通話をしながらLive2Dで雨宮 隣がどんな風に動くのかの確認作業を行ったりもした。
「おお、こんなに動くんですね。表情も可愛い」
『私の渾身の出来です。Live2Dを担当してくれた人もるなちゃんと一緒の方で、張り切ってくれたみたいです』
「いわゆるパパってやつですね。というか、るなと色々と一緒という事はいわゆる姉妹みたいなもんてことか」
『そこで迷わず姉妹を選ぶところが凄いですね』
「見た目が女の子だし、リスナーの人にはそっちの方が受けよさそうですからね」
そう言いながらも、他の表情差分を確認してみると、この前お願いしたやつもしっかりと仕上げられていて満足のいく出来だということがしっかりと確認出来た。
それとマスコットも準備して貰えたのでこれで雨宮 隣はいつでもデビュー出来る状態まで漕ぎ着けることが出来たという訳だ。
後日、はづきさんにその表情差分をお披露目してみたらテンションがぶち上がって、最高ですbotみたいになってしまったのが面白かったな。
佐々木さんとも配信の方向性を話し合った。
料理配信をどのくらいの頻度で行うかや、歌枠や雑談枠、ゲーム配信など。VTuberは行うことが結構多岐にわたるから、その辺のすり合わせもしっかりして行かないとな。
そのうえで、俺のゲームの腕前を報告というか見てもらったら。
「これならまあ……むしろその方向でやって行った方がウケますね!」
「オブラートに包んでもらってありがとうございます……」
佐々木さんも予想外な腕前を披露してしまい、匙を投げられてしまった。その結果はまた今度という事で、とりあえず今は考えたくない。
もちろん、高校生活も疎かにすることはない。
海斗や恵がこの前のことがきっかけで、はづきさんと仲良くなってくれたことにより、クラス内ではづきさんも接しやすい人と言う認識が出来てくれたみたいで、楽しそうなはづきさんを見る事が増えたのが嬉しい。
「とりあえず、2人はもうちょっと自重を覚えろよー」
「自重ってなんだよ」
「あ〜〜……こりゃダメだ。自覚がない」
海斗に何かを忠告されたけれど、その内容がよく分からなくて首を傾げたら、肩をすくめて呆れられてしまった。
自覚がないって、どういう事だろうか?
そんなこんなで、慌ただしい日々は過ぎて行ってあっという間にデビュー前日。スタジオで料理練習も行ったし、準備は万端と言うことが出来るだろう。
とはいえ、日常が劇的にガラッと変わるという訳では無い。はづきさんと同じ時間を過ごして、一緒のご飯を食べて語り合う。
それが変わることはない。ただひとつ言える事は、彼女と同じ場所に立つことが出来るということかな。
「なんというか、色々とあっという間だな……」
「ですね。私の不注意で葵さんがお隣バレしてしまって」
「はづきさんの提案で俺のVTuberデビューが決定してさ」
「それがきっかけで葵さんの事をもっと知ることが出来ました」
「俺もはづきさんの事を知る事が出来たよ」
食事会の日から寝る前に一緒に何かしらの飲み物を飲む時間を作る、これも日課になった。今はまだ別々のマグカップだけど、近いうちに一緒のものを買いに行こうって約束もした。
「さてと……なんかしんみりとした空気出しているけど、これからが始まりだからな。これからVTuberの先輩としてよろしくお願いしますよ、るなちゃん」
「ふふふ。こちらこそよろしくお願いしますね、可愛い後輩の隣ちゃん」
互いにVTuber名を呼び合いながら、マグカップの縁を合わせて気持ちいい音を鳴らす。
そんな風に2人で穏やか時間を過ごして、しっかりと睡眠をとった上で次の日を迎えた。
とうとうVTuberデビューだ。
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最近、気配で身長が大きく見える、パワフルガールでキューティーガールなVTuberで充電している作者です。
朝チュンの下りはやりたくてやりました丸
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