お隣さんのママに悪巧みを提案したりする

「あっ、そういえば明野空さんに相談したい事があったんですよ」

「ふふっ、七海さん。明野空と毎回呼ぶのは大変でしょうし、私のことは空と呼んで頂けたらと」


 スタジオから会議室へと戻る道すがら、明野空さんに声をかけると、お嬢様ぜんとした微笑みを漏らしてから、逆に俺にひとつの提案を出してくれた。

 確かに、いつも明野空さんと呼ぶのは少し違和感あるかもしれない。


「それでは、これからは空さんと。それとも、月城さん……るなと同じようにママもしくは、と呼んだ方がいいでしょうか?」


 少し彼女をからかいたいと悪戯心がもたげて来たので、冗談交じり提案してみたところ、彼女はそういった事に慣れているのか少し思案したかと思えば、コロコロと鈴が鳴るように可愛らしく笑い、簡単に了承の答えを出してくれる。


「わかりました。これからは空ママと呼んでくださいな。かわりに私も、これから七海さんの事をと呼ばせてもらいますね」


 俺の方から仕掛けたこととは言え、すぐにからかいかえして来るところが、なんと言うかしてやられた感がある。まあ、それが嫌ではなく、お互いの事をさらに知ることが出来た感じがして嬉しさもあるのも確かだ。


「では、これからは空ママと呼ばせてもらいますね。でも、いきなりとは言え。まさか、すぐに受け入れてもらえるとは思いませんでしたよ」

「ふふふ、伊達にるなちゃんのママをしていませんよ」

「それは確かに」


 明野空さんあらため、空ママと一緒に笑いあった後に、彼女が歩みを止めて振り返り、少し上目遣い気味に俺の方に顔を向ける。


 俺もあまり身長があまり高い方では無いけれど、空ママも結構身長が小さいので自然と上目遣いになってしまうようだ。その仕草に少しドキっとしてしまったのは思春期男子としてはしょうがない気がする……誰に言い訳しているのだろう……


「それで、相談とはどう言った相談でしょうか?」

「んんっ……相談は雨宮 隣のことに関してですね」


 ボーっと見蕩れていたところに空ママに声をかけられたので咳払いを軽くする。

 そして一応、今日になるまでに参考資料としてまとめていた画像や、そこに、こうして欲しいと言う自分で軽く説明文を書いた物をスマホに表示する。


 スマホを見せようとしてから気づいたのだが、その場で立ったままと言うのも邪魔になりそうだったので、自販機近くの休憩スペースに腰を下ろしてから説明を開始する。


 ちなみに月城さんはこわちゃんに引っ張られて気づいたら見えなくなってしまっていた。


「雨宮 隣にこんな感じの表情差分の実装をしてもらいたいのですが、お願いしても大丈夫でしょうか?」

「こっ、これは!?」


 俺が見せた画像を見ると驚いたようなセリフと共に空ママは言葉を失った。けれどしっかりジッ……と画面を見つめているから興味を引けたのは間違いない。

 正直言うと、いま空ママに頼んでいるのはいわゆるではある。俺が文化祭で女装を披露した時みたいな。

 でも、その時と同じような、それこそ男の娘をやるんだ、なら全力でやってやろうと言う意思表示でもある。


「隣ちゃん、本当にこれをやるのですか……いいえ、のですか?」

「ええ……男の娘と言ったらこんな感じの表情でしょう?」

「……前も思いましたけど、隣ちゃんは可愛らしい容姿をしていますけど、思わない所でいきなり男らしい所を見せますね」

「表情差分としては正反対なものを提案してますけどね……けど、面白い事をやるなら全力でやってやりたい。それが俺のモットーですよ」


 自信満々にそう言うと、空ママは楽しいこと見つけたと言わんばかりにワクワクした表情になってから、俺の手を取ってふんす!と可愛らしく鼻を鳴らす。


「ええ、やりましょう!これはもうとことんまでやっちゃいましょう!男の娘の性癖をリスナーさん達にぶち込んで行くために!滾ってきましたよぉ!」


 ブンブンとテンション高めに、両手で掴んだ俺の手を振り回す空ママに苦笑を漏らしながら、されるがままにしていると、頬に何やら暖かいものが触れてビクッとしてしまう。


「うおっ」

「ひゃうっ」


 それは空ママも同じだったみたいで、一拍子置いてから同じような反応をしていた。


 それをした犯人は誰だろうかと思い、前の方を見てみると何やら嬉しそうでありながら不満みたいな複雑な表情をしている月城さんが両手に缶コーヒーを待って立っていた。片方はハンカチに包まれていたので多分そっちが頬に触れたのだろう。


 何も悪いことはしていないはずだけれど、いまの彼女の表情を見ているといたたまれない気分になるのはなんなんだろうな……


「ママと仲良くなれたようですけど。何やら、いい雰囲気ですね」

「あー……空ママにちょっと相談があってね……」

「ふーん、相談ですかそうですか……いつの間にか呼び方も変わっているみたいですね」


 俺は悟った。多分、これは何を言っても墓穴を掘るということを。ちょうどいいくらいの暖房が効いていたはずなのに、謎のプレッシャーによって肌寒さを感じた上に頬に汗が伝った……

 緊張でかわいてきた喉を潤すために喉を動かすと、唾を飲み込んだ音すらも大きく聞こえた。


「るなちゃん、見てくださいよこれ。隣ちゃんからさっき提案されたのですけど、この表情を実装したら最高じゃないですか!」


 とはいえ、空ママにとってはあまり気にならなかったみたいで。俺がプレッシャーによって言葉を発せないでいる間に、我関せずとばかりにいつの間にか取り出したスケッチブックを取り出して描いたものを月城さんに見せる。


 テンションが高い空ママを見た月城さんが、毒気が抜けたようで複雑そうな表情を和らげた。

 命拾いしたよ……


「これはまた……この表情差分あると路線が固まってしまいそうですね」

「インパクトは強い方が良いからね」

「おかげで私のやる気はMAXですよ」


 ふんすと張り切っている空ママを見た俺と月城さんは、顔を向き合わせて笑いあった。


「あっー!見っけたー!」


 その後、他にも相談したい内容。例えばマスコットキャラとか可愛いのを実装出来たりするのか?などをその場で話し合っていると、こわちゃんが休憩室の入口からテンション高めに声をかけてきた。


「ほらみんな、朝日奈さんたちが待ってるよ!」

「おわっ、ちよっ……俺を引っ張っていくんですか?!歩けますよ!」

「さきに遅れていた人の言い訳は聞きませーん」


 こわちゃんは休憩室の入口近くにいた俺に目をつけたようで、両手で抱えるように腕を引っ張って会議室まで連行するつもりみたいだ。

 俺はバランスを崩さないようにしながらこわちゃんについて行くことしか出来なかったので、その時に後ろで月城さんと空ママがしていた会話を聞くことが出来なかった。




《はづき視点》


「心配しなくても、隣ちゃんのことを取ろうとは思わないので安心してくださいな」

「っ……な、何のことでしょうか」

「るなちゃんは分かりやすくて可愛いですねぇ……安心してください、お似合いカップルの間に入ったら馬に蹴られちゃいますからね、そんな事しませんよ」


 ママが精一杯に背伸びして、私の頭を撫でて諭すように声をかけてくる。

 いろいろとお見通しなことに恥ずかしい気持ちを抱いたことを見抜かれるたくなくて、わたしはそっぽを向くことしか出来なかった。

 ママは見た目から年下のように見えてしまいそうだけど、これでも年上なので、時たまにこの様に可愛がられるのですけど、悪い気がしないのも確かです。これが年の功という物なのですかね?


「可愛い子供たちの恋路をわたしは応援してあげますからねぇ」

「……ありがとうございます、ママ」


 穏やかな声でそう言うママに暖かい気持ちになって、それから少しの間、頭を優しく撫でられるままにしました。


「2人ともおそーい!」


 そうやってホンワカとしていると、通路の奥からこわちゃんさんが顔を出して声をかけてきたので、ママと一緒に笑いをこぼしてから歩き始めた。


「そういえば、るなちゃんと隣ちゃんのカップリングでファンアート上げている人をこの前見かけたましたよ」

「その話を詳しくお願いします」


 その後、ママからの衝撃的な言葉にわたしは思わず食いついてしまいました。

 これは葵さんにさらに意識してもらえるチャンスです。


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 今回の話をあげる上で軽く修正


 武勇伝の回で葵が空ママのことを明野さんと呼んでいたので明野空に修正

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