お隣さんと1日の始まり
いつもの時間に目が覚め、朝の行動を始める。
顔を洗って歯を磨いたら、洗濯機に服を突っ込んでスイッチを入れる。リビングに戻ってから掃除機で軽く床のホコリを吸っていったん一通りの朝の作業が終わる。
「とりあえず、朝食作るか……ん?」
一息ついたので何を作ろうかなと考えながら台所に向かうと来客を告げるチャイムが鳴った。
こんな朝に誰だろうと一瞬思ったけど、モニターを確認して予想通りの人がいたので、そのまま玄関に向かい扉を開く。
すると、そこに居たのは。
「おはよう、月城さん」
「おはようこざいます、七海さん」
俺の挨拶に嬉しそうな声で挨拶を返してきたのは案の定というか、月城さんだった。
すぐお隣さんとはいえ、ふわもことした服装をしている彼女に少し驚いた。どうやら部屋着のままこちらに向かってきた見たいだ。
「朝早くにすみません。昨晩、果物が届いたのですが、朝食に丁度いいかと思い、七海さんにお裾分けに伺いました」
そう言って彼女が差し出してきたのは、桃やパイナップルにリンゴが入った果物の籠。
「この中に好きな果物あると良いのですが」
「わざわざありがとう。果物って買おうと思うと高いから、助かるよ」
「そう言って貰えると、こちらもお裾分けに来た甲斐があります」
お礼を言うと嬉しそうに微笑む月城さん。
ふとした時のそう言った表情に少しドキッとする。
それはそうと、どれを選ぶか悩むなと思案するけれど、どれを選ぶか決める前に別の案が思い浮かんできた。
「そういえば、月城さんは朝食取った?」
「いえ、まだですね」
俺の質問にキョトンとする月城さん。
果物を選ぶのもいいけど、昨日から彼女との関係も少し変わったことだし、いい機会かも。
「良かったらなんだけど、これから俺も朝食だから一緒に食べない?果物も剥くから」
「……よろしいのですか?」
「こっちから誘ってるんだから全然大丈夫だよ。それに……1人で食べるより誰かと食べた方が楽しいからね」
「……」
昨日月城さんと一緒に食事を取った後に1人になった時、寂しさを感じたのもあって誘ってみたけれど、月城さんが沈黙してしまい、少し軽率だったかなと頬に熱がこもってきた。
沈黙に耐えかねて言葉をかけようとしたところ、月城さんから反応が帰ってくる。
「それでは、御相伴に預からせてもらってもよろしいでしょうか?」
「!……ああ、もちろん!」
「……ッ!(笑顔が可愛すぎますっ……)」
月城さんからいい反応が貰えたのが嬉しかったので、笑いながらそう返すといきなり瞳をカッ!と開き、なりやら小声で呟いていた。
テンションが上がっていたので、特に気にすることなく、俺は彼女を部屋に招き入れた。
玄関で靴を脱いでリビングに入ると、すぐそこにあった猫の置物に視線を向けて嬉しそうな表情を向ける月城さんに少し恥ずかしい気持ちになった。
椅子に大人しくちょこんと座った月城さんを確認して、その間に冷蔵庫を軽く見て目玉焼きとベーコンとサラダ、トーストに粉末タイプのコンポタにしようかと決定する。
ちょっとした遊び心でも入れるかと思い立ち、取りだしたベーコンの塊を分厚めに切った。みんな1度はやってみたいあの映画のスタイルだな。
両面こんがりと焼いて、そこに卵を豪快に3つ投下。ベーコンから出てきた油で端をこがねいろに染めあげていく目玉焼きに食欲がそそられる。
少し火を弱めてじっくりと焼くスタイルに変えたら、パンをトースターに入れてつまみを回そうと思ったけど、そこで一旦手を止めて、月城さんに声をかける。
「月城さん、パン何枚食べる?それとバターとか乗せる?」
「パンは2枚で、バターは片方にお願いします」
「了解」
パンを2枚トースターに入れて、片方にバターを乗せてつまみを回す。
次はサラダだな。
と言ってもいつも通りの作るだけなので、そんなこだわらないで済むのが楽だなと思う。
そうこうしているうちに、朝食が出来上がったので食卓に並べる。飲み物も好きに選べるように牛乳とオレンジを置いておく。
「これは……あの映画のスタイルですね!」
目玉焼きとベーコンを見てから、俺の遊び心を分かってくれたのか、テンションが上がった月城さんにこっちも嬉しくなる。
「分厚いベーコンに齧り付くのが最高なんだよな!」
「ですね!」
行儀が悪いなとは思うけど、そうするのが作法だろう。フォークに感じる重さが肉を齧ることを如実に伝えてくる。それだけで食べ盛りの胃袋が喜んでいる気がする。
ベーコンを食べるため、いざゆかん。
いただきますをしてから口を開けて齧り付き、肉の旨みを楽しんでいると、小さな口を精一杯に開けてベーコンに齧り付き、美味しそうに頬をおさえている月城さんが視界に入る。
美味しそうに食べている彼女を見ていると、料理したかいがあるなとこっちも嬉しくなる。
しばらく見ていると、その視線に気づいたのか頬がリンゴのように赤く染まり始めてしまう。
「み……見すぎですよ七海さん」
「あっ……ごめん、美味しそうに食べてくれるから嬉しくなって」
「んんっ……それなら、まあ仕方が無いですね」
素直な感想を告げると、咳払いしながら顔を背ける月城さん。声に怒ったような感じは無いし、どうやら許されたようだ。
その後、パンに目玉焼きを乗せたりして頂いたりと和気あいあいとした朝食の時間を過ごし、食べ終わったので、月城さんが持ってきたパイナップルを食べやすくカットする。
「正直言うと、私ひとりだと果物を剥けないだろうなと思っていたのです。だから、朝食に誘って貰えてこちらも助かりました」
「あー……まあ確かに、パイナップルとかどうしろとって感じだよね」
最もだなと頷いて机に置くとお礼の言葉を貰い、カットしたパイナップルを楊枝に刺して口に運ぶ。
その瞬間口に広がる酸っぱさと甘さの絶妙な味を堪能する。
「このパイナップル美味しいな」
「実家から昨日の夕方に届いたものなのですけど、喜んでもらえて嬉しいです」
何気ないように月城さんがそう言ったので、前から少し気になっていたことを思い切って聞いてみる。
「そういえば、月城さんも俺と同じように親御さんから離れて暮らしているけど、一人暮らしを始めた理由ってどんな感じなのかな」
「ああぁ……それはですねぇ……両親の仲良すぎるからって感じですかねぇ」
いつものハキハキとした喋り方はなりを潜め、全力で歯切れ悪くなった事に驚いたけど、理由が仲が良すぎる?どういう事だろうと疑問に思っているとそのまま説明が続く。
「見ているだけで砂糖吐きそうな程にイチャつくんですよ、私の両親。お姉ちゃんも早いうちに家を出ていたのでそれにならった感じですね」
もちろん、仲が悪い訳では無いのですよと苦笑いした彼女の表情には、まるでしょうがない人たちを話すような雰囲気を感じて、こっちも少し笑えてくる。
「つまり、ご両親が2人きりになれるように気遣ったってことか」
「他の方にそのように言って頂くと恥ずかしいですね」
そう言って頬を染める月城さんが可愛らしいなと思った。
ちなみに、月末などに一緒に買い物をしたり同じ時間を過ごしたりしているみたいだ。
家族仲が良いのはいいことだ。
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