お隣さんのホラゲー配信を気になったから見てみる

月城さんと穏やかな時間をしばらく過ごした後、彼女は今日の配信を準備をしてきますと言って部屋に戻って言った。




「とりあえずひと段落っと」


皿洗いを終わらせて、一息つく。

……なんとなく、先程まで月城さんのいたところの近くに腰を下ろして、そこに残った温もりを少し感じてみる。

仄かに残っている気がする、その温もりにさっきまでの楽しい時間を思い出す。

1人で食事をとることに慣れていたと思っていたけれど、久しぶりに誰かと取ると、1人になってからセンチメンタルな気分に浸ってしまう。

少ししてから、温もりを感じるとかちょっと気持ち悪いことをしている自分に気づく。


「何やってるんだ俺……」


頭を振って自己嫌悪に陥りそうな思考をはらってから、暇になった時間をどんな風に潰そうかなと思っているとスマホが目に入る。


「そういえば、配信やるって言ってたよな」


これまでは彼女の正体を知らないでいたけれど、今は知ったわけだし、ちょうどいいからリアタイしてみるかな。

何気なく配信を開いてみて即公開するとは思わなかったけれど。


画面を開いてみると。


『動いたァ』

「へっ?」


画面いっぱいにいきなり写ったおぞましい表情。

次の瞬間に画面がブラックアウトして倒れ込んだだるまによって潰された何か。


「ぴいっ!」


本社で月城さんにカミングアウトされた通り俺は怖いものが苦手なのだが。なんの心構えもなく浴びせられたホラー展開に思わず情けない声が漏れてしまった。


「そうだった……るなの配信はホラゲーも結構あった……」


普段の彼女は休みの日とかはひたすらに長いゲームやってるイメージが先行していたけれど、無類のホラゲー好きと言う事を忘れていた。


「それにしても、速攻で失敗例試す度胸をスゴすぎるよな……」


すごい冷静に起こったことを説明している、るなのことを見つめながら呟く。

(俺がやったら卒倒する自信ある)


配信を閉じなければ、変な鳴き声を上げ続けてしまうことは分かっていたけれど、怖いもの見たさで的な欲求もあり、何となく見続けてしまう。

るなはその後もほかの『遊び』になる度に失敗を試したりするせいで体をびくつかせる羽目になるが、ある意味どんな展開になるかも分かっていたので覚悟を決めることは出来た。

(それでも怖いものは怖いけど……)


配信の合間の雑談タイムで、俺の情報を少し出して宣伝してくれていたりして、少し恥ずかしくなったり、ホラゲーの怖さに戦きながらも何とか最後まで見終わることが出来た。

最後の方は鬼から逃げて出口にたどり着くまでを手に汗を握りながら応援するくらいまではなんとか慣れてきたけれど、案の定のバットエンド選択肢をした彼女にですよねぇとか思いながら、このゲーム内でも1番のとんでも展開に、今日1番の悲鳴をあげた気がする……


リビングの机に項垂れながら、なんとか耐えきったと言わんばかりに一息ついているとスマホが鳴り始めた。

こんな時間に誰だろうと思って画面を見てみると『親父』と簡素な文字が見える。どうやら、俺の父親の七海 蒼一から連絡が来たみたいだ。

(連絡が早いの珍しいな)


「久しぶり親父」

『よっ、久しぶりだな』


通話のボタンを押してから、何となくベランダの方に出る。端に寄せている折りたたみの椅子を開いてそれに腰かけて空を見上げる。


「こうやって連絡するの半年ぶりくらいか?」

『お互いにマメに連絡しないタイプだからなぁ、それでもお父さん寂しいぞぉ』

「はいはい、すみませんでした。でも、Limeでは連絡とってるからいいだろ」


それから特に中身のないけど、久しぶりの親子のコミユニケーションをしばらく取ってから本題に入る。


「俺さ、VTuberなろうと思うんだ」

『お父さん、それ聞いてビックリしたんだぞ。息子か、いきなりVTuberになりますって連絡来るとは思わないだろ』

「ごめんごめん。それで、なってもいいだろ?」

『自分の中でもう決まっている事に水を差すわけないだろ。それに母さんも言ってたろ』

『「好きなことして生きなさい』だろ?分かってるよ」


セリフを重ねるように言うと、嬉しそうな感じも電話口から伝わってきた。


『なら俺から口を挟まないよ。こっちも報告したいことあったからな、今月中には帰るよ』

「うん、よろしく」

『時間的にそっちは夜だろ?しっかり眠りなよ』

「言われなくても、健康優良児としてしっかりと生活送ってますぅ。むしろこっちのセリフだからな?」


俺が家事出来るようになったのも、母さんに教えてもらったと言うのもあるけれど、親父が家事力皆無だったのも理由の大半だったりする。


『それはなんというか、面目ない……』

「まったく……ちゃんと生活出来ているかこっちも気が気じゃないんだからな」

『なんと言うか、母さんに似てきたなぁ……とりあえず、それじゃあ!お父さん帰ってくるのを楽しみに待ってろよ!こっちからも驚くような報告持っていくからな!』

「あっ!ちょっと待って話はこれから……切りやがった……」


これから説教が始まりそうなのを敏感に感じ取ったのか通話口からは無機質な音しか聞こえなくなった。


「まったく……」


どっちが子供なんだかと思うやり取りだったけど、久しぶりの親父とのやり取りのおかげで、月城さんが部屋に帰って1人になった寂しさが無くなったことに気づいて苦笑がこぼれる。


「さてと、風呂はいって明日の準備時たら寝るか」


健康優良児としてのちゃんとした生活を過ごしますか。

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