夜空 るなはホラゲー配信する

七海さんとの穏やかな時間を過ごしたあと、私は自分の部屋に戻り、配信の準備を開始する。

昨日の今日でと言われるかもしれないけど、後ろめたいことなんて何もしていないと自信を持って言えることから、堂々としていこうと決めました。


……何より、配信をしたいというのが本音なのですけど。


パソコンを起動して、フェアリップ配信用アプリをスマホで起動する。そこに写されるのは月城 はづきの分身たる夜空 るな。


彼女の容姿はかぐや姫がモチーフにされているから、夜空、名前の通りの煌めきを称えた艶やかな黒い髪で、月の形を象った髪飾りが私のお気に入り。

衣装は昔の女性が着ていそうなものを現代風にアレンジしたもので、これは初期衣装ですね。


元々立てていた配信枠を使って開始。

三日月のオブジェに身を預けて口を動かして歌っている夜空 るなが映る。この待機画面は依頼を出して作ってもらったものだけど、イメージ通りのものを作って貰えたから、これもお気に入りです。

配信が始まったことから、待機画面にも関係なくいつも以上に早かったコメント欄もさらに加速していく。


「大丈夫、いつも通りに……」


感じたことの無い緊張感。

けど、最初の頃の何をしたらいいのか分からない中、もがいていた感覚よりかは心地いいと思える緊張感です。

配信開始のために画面を切替える。すると、月の明かりに照らされたように画面が明るくなり、夜空 るなが見え、コメント欄が見える。いつもの配信画面が見えたことによって、自分の中で感覚が配信用へと切り替わる。


配信開始です。




「従者のみなさま、今宵も綺麗な月が昇っていますね……フェアリップ所属 夜空 るなです」

:綺麗な月

:曇りの日でも変わらぬ挨拶定期

:朝でも月

:昼でも綺麗月

「私が綺麗な月と言ったら綺麗な月なのですよ」


ここまでリスナーの方達の定番の流れ。

いつもと変わらないそのノリにどこか安心します。


「はい、本日は予定通りホラーゲームをして行こうかと思います。昨日のことなど、色々と気になるかもしれないですけど、ゲームをやりながら話していこうと思います」

:了解

:続報ktkr

:ホラゲーやりながらとかシュールだな


今日やることを説明したらSNSに開始の文章を打ち込み投稿、そして早速画面操作して、ホラーゲームを起動して切り替える。

すると、夕暮れに包まれた公園が写り何やら寂しげな木枯らしの音や、その中に混ざる夕方になると鳴る音楽が掠れたような音で流れていて雰囲気があるなと思いました。


「やるゲームはこちらですね。最近発売されたばかりのタイトルで……『昭和の子供の遊び』です。意外とシンプルなタイトルですよねこれ」

:シンプルなくらいが逆に怖い

:まだ内容知らないから楽しみ


あらすじを軽く見てみると


青年が記憶にある懐かしい公園に寄ってみたところ

辺りが唐突に夕暮れに包まれ、不思議な事象に驚いていると、そこにいた小さな子供に遊びに誘われ、付き合ってあげたところ、何やら不思議で恐ろしい出来事が起こり始める。


「という事ですね」

:ホラゲー定番とも言える感じ

:どんな展開あるんだろ

:魂抜ける準備出来てる

:成仏してクレメンス


「早速始めますね」

:躊躇い無さすぎて草

:るなちゃんホラゲー得意だしな

:怖がるところが想像できない


従者の人たちのやり取りを視界の端で捉えながら、ゲーム開始ボタンをマウスカーソルで合わせてクリック。

すると、視点が一人称で開始。

画面の明るさは、開始時点ではまだ昼のようで、明るすぎないか心配になりましたけど、大丈夫そうです。


青年の独白のような独り言が始まった。

彼は昔にこの近くに住んでいたようで、懐かしむように歩みを進め、どこか退廃的な雰囲気を感じる公園にたどり着く。

誘われるように歩く、そして公園に足を踏み入れた途端に、日常の音は消え去り、カラスの鳴く音、木枯らしの音、そして永遠と夕暮れを告げる音楽だけが聞こえてきた。

先程まで目を焼くほどに眩しかった太陽は、フィルターをかけたかのように輝きを減らし、どこか不気味さを感じる色へと変わりました。

突然変わったそれに、戸惑いを隠せない彼が視線を前に向けると、そこには先程までいなかった1人の少年が立っていた。


『ねぇ、遊ぼう?』


「良い感じの雰囲気ですね」

:ちょっとは怖がらない?

:音が不気味すぎる

:太陽の色が夕暮れなのになんか怖い


従者の皆様とやり取りを少し行っていると、遊びに誘ってきた少年に青年は訝しみながらも、それに乗ってあげるようにしたみたいです。

初めのうちは本当にただ遊ぶだけのようでした。おもちゃを使う遊びをして、懐かしいその遊びに青年も楽しいと思い始めた時に、決定的におかしくなり始めた。

いつの間にか、少年の見た目が変わっていました。ノイズがかかったように存在自体があやふやで、何故さっきの少年だと思ったのか青年自信も分かっていないようです。

その彼が新しい遊びを提案してきました。


「最初の遊びが出てきましたね」

:だるまさんがころんだ?

:今のところホラー要素少ないな

:油断しているといきなり来るんだ……


簡単なルール説明が行われ、配置に着きます。

ノイズの少年はだるまさんがころんだを言う役を行うようで、ゲーム開始です。


「それでは……まずは失敗パターンを見て見ますか」

:るなちゃんの洗礼来ました

:肝が座りすぎている

:初見さんに謝っておこう


ザワつく従者さん達を放って置いて私は、雰囲気に合わないほどに明るい声で行われる合図を無視するように歩みを続け、止まったところでも歩みを続けを続けます。


すると、ノイズの少年の顔がザザッと音を立てたかと思えばおぞましい表情に変わり、それと合わせるように上の方から何かが落ちる音がした後肉を潰したような音と共に視界がブラックアウトします。

視点が変ると、名前の通り、ころんだダルマに何かが潰されたような場面に変わり、残念そうな少年の声に合わせてゲームオーバーの文字が移りました。


「結構理不尽」

:ホラゲーあるある

:失敗したな!ならばタヒね!


「気を取り直して、今度はクリアするまで頑張りましょう!」

:頑張って!

:サクサク行こう!

:果たして何度リトライするか……


従者の皆さんの応援を受け、今度はクリアするまでやってみますけど、これが意外と難しい。

近づくにつれて、合図が小さくなったり大きくなったり、画面が唐突に暗転したりと真っ直ぐ進めなくなったりするのです。


それでも何度目かのリトライで何とかクリアしました。


「やりました!」

:ナイス!

:クリア!


従者の皆さんと喜びを分かちあっていると、ノイズの少年が嬉しそうだけど、どこか悲しみを孕んだ声を出しました。


『じゃあ次の遊びやろ』

「……ですよね」

:分かってました

:予定調和

:るなちゃんなら行ける


それからも色々と四苦八苦しました。

かくれんぼだと、見つけられなかったら次は私が隠れてねと言われるのですけれど、地面にいきなり吸い込まれて真っ暗な空間に閉じ込められてしまい、二度と誰にも見つからないエンド。


色鬼では指定された色を見つけられなかったら真っ赤になってねと言われて、体中から血を吹き出しそれによって出来た血溜まりに倒れて終了。


「理不尽が凄いです……」


失敗したら即バットエンド。

体力ゲージがある訳では無いから、そうなるのは当たり前ですけど、そろそろクリアしたくはありますね。


「そのうちこう言ったホラゲーをお隣さんとやってみたいですね」


何となく呟いた言葉を従者の皆さんは、今回のもうひとつの目的を思い出したのか、コメント欄で質問開始が始まった。


:そういえば、結局お隣さんはデビューするの?


「その事についてなのですが、明日フェアリップ公式から告知あると思いますので、そちらを待って欲しいです」

:了解!

:明日が待ち遠しい!


:お隣さんってホラゲー得意?


「大の苦手ですね。怖いの嫌いみたいなので、一緒にホラゲーをして怖がっているところを見て後方腕組愉悦部したいですね」

:るなちゃんが鬼畜なことを言っている

:るなちゃんはSだった……?

:ゾクゾクする


「あっ、なんか次終わりみたいですね」


質問タイムを楽しみながらも、操作する手はとめないでいたら、どうやら最後の遊びになったらしいです。

ノイズがかかっていた少年は、遊びをクリアする度に表情が見えるようになってきて、聞こえてきた声からして笑顔をしていたのかと思えば、感情が抜け落ちたような能面をしていて結構怖いです。


『最後は鬼ごっこしようか』


少年のその言葉と共に、1匹の鬼が出現する。

地獄からそのまま這い上がってきたようなおぞましいその見た目に従者の人達が怖いと震えるくらいにはとんでもないです。

ルール説明を聞くと、どうやらこの鬼から一定時間逃げて公園の出口に向かえばこちらの勝利みたいです。

そして始まる命をかけた鬼ごっこ。

もちろん、最初は捕まったらどうなるか見ました。

ほぼ、私の配信の様式美ですね。

従者さんも分かりきっているのか、これからどうなるのかワクワクしているのが面白いです。


今度はなんと、その場で即死する訳ではなく。

首を引っ掴まれて地獄に続くような穴に引きずられていき、そのまま音が消えてゲームオーバー。


「明確に終わり見せないのが逆に怖いですね……」

:もっとド派手にバットエンド見せてくれよ……

:というか、鬼早くね?

:逃げられるのかこれ

「……パターンを絞れば行けるはずです」

:頑張れ!

:ホラゲーは根気も大事

:果たして、どれだけの青年の命が消えるか


従者の応援を受け、クリアするために頑張ります。

一体の鬼から何とか逃げて、途中で見つけた投げれるものを投擲したりと頑張っていると、もう一体の鬼が投入されたりとアクシデントもありましたが、出口がとうとう見えました。


「あとはあそこに飛び込めば!」

:行けー!!

:ラストスパート!


応援の声が背中を押してくれだので、迷わずに出口に向い、そこに飛び込みます。

すると、世界から音が無くなり、背後にいたおぞましい鬼達が蜃気楼のように消え去りました。

少年は真顔から表情を変えて、どこか寂しそうな表情へと変えていて、それを見た青年は少年に近づき、目線を合わせました。

すると、そこで初めて選択肢が出てきました。


▼じゃあね

▼また遊ぼっか


「……多分、じゃあねが正解の選択肢ですよねこれ」

:多分そう

:恐らくそう

:迷うことは無い……

「また遊ぼっか選びますね」

:知ってた

:知ってる

:鬼ごっこ再び確定


また遊ぼっかを選ぶと

『それじゃ指切りしよう』


指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます!


そんな元気な掛け声と共に少年が指切りをして、青年は夕暮れに染った帰り道を歩み始める、次の瞬間に画面が切り替わり自宅に着きました。

そして、就寝後、朝になってあの公園近くに散歩ついでに寄りました。『また遊ぼっか』の選択肢を取っていたとはいえ、すぐに行くのも違うなと別の方向に足を向けると、喉の辺りに違和感を感じたようで手をそこに持っていくと赤い色がついています。

次の瞬間、何かを突き破った音と共に画面が暗転、そしてスタッフロールが流れ、エンドを迎えました。


「……すぅ〜〜……果てしなく理不尽ですね」

:まったくだ

:バットエンド直行のるなちゃんも理不尽

:まったくだ


従者の皆さんと意見がほぼ一緒になりました。


なお、この後に通常エンドもしっかりとクリアしました。

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