お隣さんの予想しなかった遭遇で突撃される
話し合いも一区切りつき、会議室の近くにあった自販機で購入した缶コーヒーを手渡してきた月城さんが隣に立ちながら声をかけてくる。
「上手く話が纏まって良かったです」
確かに話は纏まった、雨宮 隣 爆誕と言っても、今のところ名前が決まっただけで、それでもデビュー日や、どう言った配信をしたいのかを大凡の流れは話し合うことが出来た、あとは。
「七海さんのお父様の許可を貰うだけですね」
彼女の言うとおり、俺はまだ未成年だから親父の許可待ちなのだ。
これがまた難しく、海外を飛び回っているような人だから、次いつ会えるのかが結構不透明な部分がある。
けど、今回は運が良かったのか向こうも何か用があるらしく、近いうちに日本に帰ってくるらしい。
「七海さんも私と同じで1人暮らしでしたけど、そう言った理由があったのですね」
「うちの親父は仕事柄どうしても海外を飛び回らなきゃだからなぁ、俺が高校に上がって自立出来てきたからって、遠慮が無くなったのはどうかと思うけど」
苦笑しながらそう言うと。
「けど、仲が良さそうです」
「それは確かに」
たまにしか顔を合わせないと言っても仲が悪い訳ではない。俺の親父のことを話す雰囲気からどんな関係なのか感じ取った月城さんにそう言われて少し気恥ずかしくなって頭をかく。
「さてと……とりあえず今日話し合うことは大体は終わりましたし、この後どうしますか?」
「夕飯にするにしても時間少し早いよなぁ」
「都心に出たことですし、少し観光していきますか?」
「る 〜な 〜ちゃーん!」
「ぐえっ」
この後どうしようかと軽く話あってると、月城さんが横の方から何者かに突撃されて美少女が出しちゃいけないような呻き声を出して軽く吹き飛ぶ。
「月城さん!?」
その事態を起こした張本人は驚いている俺の事を気にすることなく、まるで大好きな人を見つけた犬のようにテンションがぶち上がった状態で、ふわふわの髪をしっぽのように振り回しながら頭を月城さんのお腹に擦り付ける。
「いてて……こわちゃんさん、いきなり突撃してくるのは控えてくださいませんかね……」
「ふふふ……それは無理なお願いだね、こわちゃんは衝動のままに生きているのだから」
「つまり、私はこれからも突撃されると」
「先に謝っておきます、ごめんなさい」
悪気のない笑顔でそう言う謎の少女に月城さんは諦めたのか、腰の辺りにある頭を撫でる。その感触が気持ちいいのか目を細めてそれを受け入れる様子は本当に犬のようだ。
いきなりの状況に置いてけぼりを食らった俺が彼女は誰なのだろうかと思ったが、そういえば先程月城さんが名前を呼んでいたな。
「七海さん、こちら犬咲こわちゃんの中の人をやっている方です」
「犬咲こわちゃんの中の人です!こわちゃんって呼んでね!ん〜?そういえばどちらさまでしょうか!?」
そうだ、昨日見てた犬咲 こわちゃん。その中の人なのか。それはそうと、今更誰なのかを聞いてくるマイペースさや、少女の元気な挨拶に少しほっこりする。
けど、ここで本名を言わないところから、意外と警戒心もあるのかも?
「はじめまして、俺は月城さんのお隣に住んでいる、七海と言います」
「あっ、知ってるよ。るなちゃんがよく話している人!お隣さん!」
「ほう、それは詳しく知りたいかな」
「ちょっと、こわちゃんさん、それに七海さんまでっ」
こわちゃんが朗らかな笑みでそんなことを言ったので、それに興味深げな反応を返したところ、月城さんが慌てた様子を見せたのが可愛らしい。
「今日お隣さんがここにいるってことは、フェアリップに入るってことなの?」
「そうかな……うん、今日からこわちゃんの同僚」
「そうなんだぁ!よろしくね!」
人懐っこい笑みで俺の両手に握手してきたかと思えば、ブンブンと振り回し始めるこわちゃん。すごく元気いっぱいだ。
「そういえば、こわちゃんさんはどうしてこちらに?」
「あっ!そうだった。今日はレコーディングに来てたんだった!それじゃあ、またねー!」
月城さんにここに来た理由を聞かれると、今思い出したとばかりにハッとした表情をして、そのまま両手を振りながら元気な声を出して去っていく。
なんと言うか
「嵐みたいな人だな」
「その元気さに、こちらも元気を貰いますけどね」
あの元気なキャラがファンの人たちにも受けているのだろうなと何となく思った。
「とりあえず、帰りますか」
「そうだな……帰って買い物をして、ご飯にでもするか」
月城さんと顔を合わせて、お互いに苦笑し合う。
ちょっと今日だけで色々なことがあった気がするよ……
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