お隣さんに武勇伝をカミングアウトされる

 みんなで向かい合って座ると、早速、朝日奈さんが話を切り出す。


「そういえば、七海くんにさっきから聞きたかった事があるんだけど」

「?……なんでしょう」

「七海くんって、性別男であってる……?」


 朝日奈さんの探るような視線とその言葉に何を言っているのだろうかと、月城さんと顔を見合わせて首を傾げるけど、すぐに納得いった。


「ああ、はい。俺の性別男であってますよ!」

「そういえば、慣れすぎてましたけど、七海さんって初見だと性別分かんなかったですよね」


 自分でもあまり意識していなかったし、最近言われること無かったから忘れていたけど、俺って意外と見た目で性別分かりにくいんだった。

 普段着もそっちの方が似合うからという理由で、月城さんに選んでもらって、少しゆるふわ系男子みたいなものでまとめていたので尚更だな。


 月城さんと頷きあっていると、朝日奈さんは胸を押さえ安心したように息を吐き、明野さんは何やら、にこやかな笑みで頷いていた。


「良かったぁ……七海くんって声も中性的だから、間違えたらどうしようかと」

「私も、先程は謝罪で頭がいっぱいいっぱいでしたから、改めて思うと……リアルにこんな方がいるとは、滾りますね……」

「いえいえ、俺自身あまり気にしていないので」

「七海さんってむしろそれ自体を武器にしているところありますからねぇ」

「「気になる!」なります!」


 しみじみと月城さんがそう呟いた途端、何それ気になると朝日奈さんと明野さんが食いついてきた。


「この前、私たちの学校で文化祭があったのですが、そこでミスコンとミスターコンやっていたのですよ」

「文化祭あるあるなところね」

「青春ですねぇ」


 2人が昔を懐かしむようにうんうんと頷いていると、そこに投下される爆弾。


「七海さんがドレス姿で女装してミスターコンに出場した上に1位をかっさらって行きました」

「まって、話についていけない」

「最高の話のネタ過ぎます……」


 若気の至りと言うか、青春に酔っていたと言うか、俺がやらかしたことを懐かしむような感じで話す月城さん。俺はそれに赤面して頭をかくしかなかった。


「なんと言うか、友人間で盛り上がって勢いでやってしまった感じです」

「勢いでやって、1位を取れるなら相当ね」


 ちなみに、月城さんはその時は参加していなかった、来年は一緒に参加してみるかと相談していたりはする。


「匿名参加の謎の美少女(男)枠で参加して会場の話題全部かっさらってやりましたよ」

「ちょっと待って、面白すぎる……」


 俺がドヤ顔で武勇伝を語ると、お腹を抱えて痙攣を始める朝日奈さん。以外と笑い上戸なのかな?

 そんな彼女を置いておいて、明野さんは何やら納得が言ったというか、自信満々な雰囲気を醸し出し始めている。


「やはり、私の直感に狂いはありませんでした……今こそ、この男の娘を発表する時です!」


 そう言って会議室のスクリーンを操作し始めたかと思えば、その画面にポートフォリオみたいなものを映し出しはじめた。

 パッと見のデザインとしては、シンデレラが舞踏会に出る前のツギハギの町娘の衣装らしきものを、綺麗に整えた感じ、それを纏っているのは一見美少女にしか見えないけれど、よく見てみると喉仏や、腕の節々や肩幅が男性らしき所を感じる、まさに男の娘と言った感じのキャラだ。


「これが私が衝動で描き上げた、七海さんの為のVTuberの肉体です!」


 さっきから少し感じていたけれど、お嬢様みたいな見た目の割には明野さんってもしかして結構テンション高い人なのでは。


「そして、これがもうひとつの衣装です!」


 ツッターン!そんな綺麗な音が響くほどの動きでタブレットを操作して次のイラストが移る。

 その姿は先程と打って変わって華美になっていて、これから舞踏会に出ても違和感がないほどの美しいドレス姿だ。


「見てもらっての通り、シンデレラをベースに描きました……どうでしょうか!」

「最高です!」


 明野さんの言葉に食い気味で反応を返したのは月城さんだ。


「まさに理想的な男の娘です。しっかりと男性の特徴もありながら可愛らしい衣装、素晴らしいです……」

「特にこの喉仏……ここにこだわるあまり、時間をかなり使いました」


 とうの本人を置いて盛り上がる2人を尻目に、朝日奈さんと苦笑しあった。




「それにしても、昨日今日でよくここまで描けましたね」


 衝動にしたって、素直にすごいと思う。


「正直なことを言いますと、結構前から着手していました」

「え……?」

「七海さんのチャンネルを見つけた時、声から連想して、趣味の範囲で描いてたのですが……」


 それがまさか、このような活用の仕方をすることになるとは……そう呟きながら、さらに経緯を話す明野さん。


「そして、今回の騒動があり、最終仕上げをしたのがこの娘なのです」

「つまり、初めからこのキャラは本当に俺のために仕立てあげられたやつなんですね……」

「初めは制服もいいかなと思っていたのですけど、家事上手、世話焼き、お隣さんなどから連想してお手伝いさん、そしてフェアリップのVTuberは御伽噺がモチーフということで、シンデレラがいいなと」


 俺の言葉に明野さんがデザインの説明を重ねてから、こっちの方を見て言葉を重ねる。


「気に入っていただけましたか?」

「……なんというか、真っ先に男の娘を提案されるほどに俺の普段の声や生活が男の娘っぽいのだなと今実感しましたよ」

「七海さん、可愛いもの好きですし、反対に怖いものも嫌いですものね」


 さらに重ねられる月城さんのカミングアウト。

 俺のあってないような男の威厳は今まさに砕け散った気がする……まあ、普段の装いや、言動からあまり気にしていないのも事実だけど。


「えぇ……気に入りました。俺がこのキャラでVTuberデビューしたら面白いであろうこと間違いなしですよ」

「それは良かった。そう言えば、名前はまだ決めていなのですが、何か候補はありますか?」


 そう言えば、名前決めていなかったな。

 今回は話し合いに来たと言うのもあって、真面目な話になるのかなと思っていたけど、実際は顔合わせが始まってすぐにVTuberのデザインを見せてもらうというスムーズな流れ。

 まあ、ほぼ決定事項みたいなものだったのかもしれないな。


 名前か……


 月城さんとの出会いがきっかけみたいなところあるし、彼女との出会いから文字って見るのもいいかもしれない。

 雨の日に遭遇したお隣さん……


「雨宮 あめみや りんとかどうかな」


 この日が、お隣さん系VTuber 雨宮 隣が爆誕したその日となったのだ。


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