お隣さんと朝チュン(健全)
窓から差し込んでくる日差しが顔にかかったことにより、目が覚める。
「んぅ……なんでこんなところで寝てるんだ俺……」
体を起こして辺りを見回すと、机の上には食べ物が並べられていて、大きなテレビには流れたままの配信画面。
確か、
花咲かじいさんの犬がモデルのVTuber。
ここ掘れワンワンからこわ。ちゃんまでがフルネームらしい。
元気いっぱいの娘で独特な喋り方をする、見ているだけでこっちも元気が貰えそうな配信をしていたな。
「あぁ、そういえば昨日は配信の勉強会とかでVTuber視聴オールさせられたんだっけ……」
月城さんの無茶ぶりで、こんなことさせられたけど、今冷静になってくると結構大胆なことしてたんじゃないかと心配になってくる。
いや、だってさ。付き合ってもいない男女が同じ部屋で一夜過ごすとか普通しないでしょうに。
冷静になれ、別に月城さんとはお隣さんってだけだ。やましい事は無い。俺はクールな男。
思考が堂々巡りを始めた頃に廊下からリビングに続く扉が開かれた。俺はその音に顔をはね上げてそちらを見て更なる思考停止を余儀なくされることになった。
なんと、月城さんがダボダボのTシャツ姿で登場したでは無いか。裾が大きすぎるせいでスボンが見えなくて、あまりにも無防備な姿である。
それに髪の端が少し濡れていることから、おそらく今しがたシャワーを浴びてきていたようなのである。
「あっ、七海さん起きたんですね。すみません、あまりにも気持ちよさそうに眠っていたものなので起こすのも申し訳なくて……」
「んっ……ああ、それは大丈夫。とりあえず、おはよう月城さん」
「おはようございます。そういえば、コーヒー入れようと思うのですが、七海さんもいただきますか?」
コーヒーと言っても、スティックのタイプですが……と苦笑しながらそう言う月城さんを見て、俺も気が抜けたのか、思わず微笑がこぼれる。
ラフな格好をした彼女を見て冷静を失いかけていたけれど、彼女のその気が抜けた感じを見て、今のこの距離が心地良いと思うのも確かだなと改めて理解した。
「それじゃあ、宜しくしようかな」
「了解です。ブラックとカフェオレ、どっちが良いですか?」
「カフェオレでよろしく。甘いヤツで」
「分かりました。それにしても、七海さんって意外と甘いもの好きですよね」
「言われてみればそうかも、あまり意識した事ないけど」
月城さんの言葉に同意していると。
これは男の娘としてのいい材料とか何やら不穏なことを呟いているが、あえて気にしないことにする。
というより、気にしたら負けだろうな……
「お昼過ぎくらいに本社に向かうと、向こうにこれから伝えておこうと思うのですが七海さんもそれで大丈夫ですか?」
カフェオレの香りを楽しみながら、少しまったりした時間を過ごしていると、月城さんがそう切り出した。
そう言えばそんな話もあったな、昨日の月城さんとのVTuber試聴会が結構楽しくて少し忘れていた。
「大丈夫、そっちに合わせるよ」
「そう言って貰えてありがたいです。それでは、連絡を取ってくるので、少し待っていてください」
月城さんはこっちに頭を下げて、リビングからまた出ていった。多分スマホで直接連絡を取りに行ったのかな。
それはそうとして、1人になると少し手持ち無沙汰になると思ってしまう。
壁にかかっている時計を見上げてみると、時刻は9時ちょうどくらい。朝食取るにはまあ、いい時間だろ。
朝食でも簡単に作るか。暇だし。
冷蔵庫の中身をみて、必要な材料を取り出す。
勝手に触っていいものかとか思われそうだろうけど、中にあるものは大抵、俺が買ってきて、勝手に詰めてきたりしているからあまり気にしなくてもいい。前に大容量の冷蔵庫を羨ましそうに見つめていたら、使っても大丈夫だとお許しが出たから有難く使わせてもらっているのだ。
さて、取り出したのはハムとチーズ、あとはレタスとトマト。それと食パン。
ホットサンドメーカーに軽く油を塗ったら、ハムとチーズを食パンで挟み込んでこんがりと焼き色がつくまで焼く。
折を見ながらひっくり返したりする合間にレタスをちぎって、50℃くらいのお湯で浸し少し置いてから取りだし、冷水に晒して水を切る。
皿に乗せたらトマトを切って並べる。
あとは、きつね色に色づいたホットサンドを半分に切って乗せれば簡単な朝食の完成。
シンプルだけど、こういったのが朝食には1番美味しいと思うんだよな。
出来上がったそれを机に並べていると月城さんが戻ってきた。
「連絡取れたので、先程伝えた通りの予定でお願いします……何やら美味しそうな香りが」
「おかえり、とりあえず朝食作ったから食べようか」
「これは……本当、七海さまさまです……」
「なんか昨日から月城さんのことをさらによくわかってきた気がする」
月城さんはご飯のことになると目の色を変えるのだなと改めて今日理解したよ。
朝食に関しては、登校の時間を合わせていないから、休みの日以外は別々に取っていて、夕飯に関してはお互いに配信関連のことをしているから時間が合わなかったのだ。
「まあ、それは別にいいか。とりあえず朝食にしよっか」
「そうですね」
この後のことは朝食の後に話せば良いだろ。
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