お隣さんへの質問タイム

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまです」



 両手を合わせてごちそうさまを言った月城さんは満足そうにお腹をさする。

 結構量があったご飯をほぼ全部、細い体の彼女が食べたのだが本当に彼女の胃袋はどうなっているのだろうかといつも疑問に思う。



 椅子に体を委ねている月城さんを尻目に俺はタッパーや皿を洗っていた。


 月城さんにも手伝ってもらわないかって?知ってるか、家事皆無系女の子に皿洗いを任せたら何が起こるか。


 辺りに皿だったものと泡が散らばる光景を。


 俺はもう思い出したくないよ。





「それで、さっきはなんで結構強引に話を進めたのか聞いてもいいか?」


 皿洗いもひと段落着いたので、月城さんの向かい側の椅子に座って、さっき疑問に思ったことを問いかける。


 VTuberにしたいと言っても如何せん話が急すぎた。これは何か理由があるなと思った俺は配信中は深く質問することはあえて避けた形だ。


「そうですね……まず七海さんのチャンネルが発掘されたことは話しましたよね」

「ああ、そうだな。どうやって見つかったのかは正直わからんが」

「私の視聴者、というよりママが視聴者だったという事が理由でしょうね」

「そういえばそんなこと言ってたな」

「気になって思わず呟いたことが視聴者に拾われて、声が一致したことから見つかったのが大凡の流れみたいで」


 ふと呟いたことが拾われるとか、視聴者の人達もよくやるなぁ……


「それに関する事なのですが、ひとつ謝らないといけないとなんです」

「この流れでそう来るってことは、俺のチャンネル関連か」

「はい……私の配信、月城 るなのに関してはモデレーターの方たちに負担をかける形になってしまったのですが、おおよそ平和に終了することが出来ました」


 そこで月城 るなとモデレーターを強調してくるということは。


「あぁ、そういう事ね……俺の方にはそのフィルターがないから直で来てるわけだ」


 おおよそ好意的な意見が多かったとは思っていたが、結局、そういったことを受け入れられない奴や愉快犯も出てくるわけだしな。


「本当に申し訳ないです……」

「いいよ、謝らなくて。そりゃ少し残念に思うけどさ……俺のチャンネル登録してくれていた人達はそんな事しないって、そういう事は理解しているから」


 あのチャンネルはほぼ身内みたいなものだったから。


「それに、次の機会があるんだ。そこで有名になってやるよ」


 何もここで終わりな訳では無いしな、むしろ始まりだ。


「……ですね。さて、しみったれた空気はここで一旦終わらせにしますか」

「そうだな」

「とりあえず、七海さんをVTuberに誘った理由ですね」

「突拍子も無さすぎたからな、さっき宇宙猫になってたろ俺」

「人って理解不能なこと起こるとあんな表情できるんだなと思いましたよ」

「その原因になった張本人が何か仰ってますねぇ」


 いつもの調子が戻ってきたのか、お互いに軽口を叩き合う。

 そして、VTuberに誘った理由を聞いてみると、割と単純な理由だった。

 そっちの方が都合がいいからだ。


 まず、俺があまり有名ではなかったこと。

 ここで有名配信者だったら話しがまた違ったらしい。


 夜空 るなと仲がいいと言っても、流れてきた会話はおかずの内容を話しているだけで、男女の睦まじさとはまた違う、家庭的な話だったこと。


 それらを踏まえて、俺は一般人判断をされたからなのか、あまり害はないと判断されて、むしろこっちが被害を与えてしまった形になるのだ。


 だったら、うちで匿えば良くね?と結論が出た。


 そして、月城さんの鶴の一声と明野 空の衝動によってVTuberが決定したのである。


 いきなり話が飛躍しすぎな気がする……


 とはいえ、これが今回の事の顛末みたいなものだ。


「これまたまぁ、突拍子のない話だ」

「これ以外のいい方法があまり思いつかなかったのと、そっちの方が面白そうと思った私の判断です!」


 どやさと自慢げにそれなりに大きな胸を張る月城さん。

 彼女の行動力甘く見てたわ。


「そういえば、明日って時間空いてますか?」

「ん?大丈夫だけど」

「それじゃあ、明日フェアリップの本社に行きましょうか」

「はい?」

「お隣さんVTuber化計画の始動です」


 本当に甘く見てたわ、即断即決すぎる。

 俺は思わずほうけてしまったではないか。


 夜空 るなの配信に俺の声が乗ってからここまでの怒涛の展開、多分普通に生きてきたら経験することは無いかもしれない。


 けど、そう言って微笑む月城さんの笑顔はあまりにも楽しそうで、全ての煩わしいことがどうでも良くなってしまうほどで。


 思わず見蕩れてしまうほどに魅力的に写った。






「では、これから配信視聴オールの開始です!」

「ちょっと待ってこら」

「七海さんはVTuber見ていると言ってもしっかり見ていなかったのでしょう?なら、これは必要な措置なのです」

「夜更かしするための口実にするな」

「ふふふ、問答無用です」

「はぁ……適当につまめるもの準備するから待っててくれ」

「ありがとうございます、七海さんのご飯大好きです」

「あまりにも食い意地の張った告白だなぁ」


 どうやら、これからVTuber配信視聴オールの開始みたいだ。まあ、これもいい経験かな……

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