お隣さんとご飯を食べよう

「それでは皆様、良い夜を」


 :良い夜ー

 :お疲れ様

 :続報待ってるぞー



 一波乱あった配信も俺のVTuber宣言があって一区切りついたのか、キリのいいところで終了。

 今回はちゃんと配信が切れていることをしっかりと確認する。


 そして訪れるのは静寂。


 月城さんは満足そうな表情をしているけど、どこか申し訳なさそうな雰囲気も感じる。


「さてと……」

「ッ……」


 俺が言葉を発すると体をはね上げて目がキョロキョロし始めてしまったではないか。

 なんか最初に出会った時を思い出すな。


 初めて会話した時は雨の日に部屋の扉の前で両足を抱えて震えていたっけ……。


「とりあえず……ご飯食べよっか」

「え……?」

「色々とあって慌ただしかったから、俺の作ったご飯食べられてないだろ?話の続きはその時にしよっか」

「……いいのですか?七海くんには私を怒る権利があるのですよ」


 さっきまでの自信満々、我が道をゆくスタイルはどこやらか。彼女は雨に濡れた子犬のようにプルプルと震えている。

 それに対して俺が言ってあげられる事は……


「別に大丈夫さ。俺もがあったからな」

「……そうですね。そうです!興味があったなら問題ありませんね」

「そうそう……だからさ、俺作の美味しいご飯食べて、話はそこからだな」

「はい!」


 自分で美味しいご飯と言うのも恥ずかしいが、今の空気ならこういう自信満々な方が向いてる。

 なにより、恥ずかしくはあるけどいつも彼女に喜んでもらえているんだ、誇ってもいいだろ。


「とりあえずおかずを見繕うか、ご飯は炊けているか?」

「バッチリです!七海さんの料理を食べる時に白米がないのは失礼に当たるので、教えて貰った通りに必ず炊いています!」

「そう言って貰えるとありがたいね」


 むんっ!と両手を胸の前に持ってきて構えた月城さんに俺は微笑を漏らした。

 本当、最初の頃は凄かったなぁ……


 米を洗ってと言われて本当に洗剤使う人がいるなんて思ったことないからな。


 お察しの通りだが、月城さんは家事出来ない系ガール。それを極めた先にいる家事力皆無系女子だったのだ。


 これまでどうしていたのかを聞くと、お手伝いさんがやってくれていたと言っていたので、リアルにそんな人がいるのかと驚いたもんである。


 ちょっと前のことに思いを馳せているうちにおかずを見繕い終わる。

 2人分だから、とりあえず3つほど選んで、量が少なかったら増やしていくか。


 まず1つ目は唐揚げ。おかずと言ったらもう定番とも言える1品だ。味付けは醤油とみりん風調味料、ニンニク、しょうがなどのノーマルなやつだな。

 一緒に入っていたレタスとプチトマトを整えて皿によそる。


「唐揚げはコロモがザクザクの方が美味しいよな」

「わかりまふ……」


 あっ、もう食べてる。

 小さな口が黙々と動いていて小動物みたいで可愛らしい。


 2品目はポテトサラダ。

 卵多めベーコンゴロゴロのこれ一つでもじゅうぶんにご飯が進むやつ。酸っぱさを加えるために福神漬けを刻んでいれて、胡椒も少し強めにしているのがポイントだな。


「マヨネーズとかこれでもかと入れるからカロリー凄そうだよなぁ」

「学生の私たちには関係ないのです、その分運動もするのでふから!」


 続いて焼きナス。

 地味に格子状に綺麗に包丁入れるの大変なんだよなぁこれ。


「しょうがをたっぷり入れて焼くのがこれまた美味しいんだ」

「ご飯が進みますね」


 追加でほうれんのおひたしと、味噌汁も作って置くか。

 冷蔵庫から取りだしたほうれんそうをさっとお湯に通して、水気を絞り、あとは簡単に麺つゆや砂糖で味を整え、皿に乗せたら鰹節をまぶす。


 味噌汁の具材はシンプルに豆腐とネギ。

 出汁はさっきも使った鰹節の残りからとって、味噌を溶かして味を整える。


「にしても、なんで鰹節削り機があるのやらか……」


 普通は家庭にはないであろう道具を見ながら呆れていると、月城さんが恥ずかしそうに理由を話す。


「一人暮らし始めるなら気合い入れるぞ!と一念発起した時の代物としか言いようがなくてですね……」


 どうやら手当たり次第に調理器具を通販カートにぶち込んでしまったみたいで、その結果がこれらしい。


「まあ、そのおかげで俺が助かっているからな」

「ですね」


 それからも穏やかな会話は続き、夕飯の時間はすぎていく。

 お互いに配信をしていることもあってか食事の時間が被らなかったりとかも定期的にあるが、やはり誰かと取る食事と言うものは良いものだなと、楽しそうに笑う月城さんを見て、改めてそう思った。




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