第9章 病院


 鈴華と皐月は先を急いだ。……と、いっても鈴華はふよふよ浮いているだけなのだが。


 20分ほど歩くとトンネル(?)のようなところを抜け、建物がいくつか見えてきた。


 外は少し明るかった。


 なるほど、あの穴の中で私達は9時間ほど倒れていたみたいだ。ちょうど寝る時刻だったことも関係しているのかもしれない。


「ゴホッ…、ここ、ハピネスシティ?」


「かもしれないわ。早く病院を探しましょう。」


 探すと言っても、この辺りのことなど何もわからないので、ジョギングをしていたおじさんに声をかけた。


「すみません。このあたりに病院はありますか?この子の体調が良くなくて。」


「小児科…が良さそうだな。それならすぐそこさ。ただ、まだやっていないが。」


「いつ開くんですか?」


「さあな。9時とか10時とかだと思うが。病院の壁にでも書いてあるだろうよ。……それにしても、ツインテールの嬢ちゃん、大丈夫か?さっきからずっと咳をしているが。」


 鈴華は今もゴホゴホと咳込んでいる。


「あまり大丈夫ではなさそうなんです……。」


 そう言って皐月は今まであったことをおじさんに伝えた。


 陽はもう完全に出て、小鳥がチュンチュンと鳴いている。


「そりゃあ、大変だな。……そこの公園のベンチででも休んでおくと良いじゃねえか?病院にも近いし、な。」


「ご親切にありがとうございます。そうします。」


 公園に移動した。

 ”幸せの緑公園”という名前だった。ここはハピネスシティの近くだと考えて、まず間違いなさそうだ。


 3時間ほどたったとき。暇つぶしに、皐月は鈴華に色々な魔法を見せてやっているところだった。


 病院の扉が開いていることに気がついた。”幸見病院”という名前。ここも、公園と同じで都市立なのかも。


 今は9時10分だ。開院は9時と書いてあったので、入って良い……はず。子供だけで病院に入ったことがないので緊張する。


「ゴホッ、はは、皐月、ゴホッ、緊張してんの?ゲホゲホッ…。」


 そう言うが否や、鈴華は病院へズンズン(といってもヨロヨロしている)入って行く。


 受付のところには若いお姉さんがいた。結構美人。


「おはようございます、どういたしましたか。」


 にこやかに、でも少し驚いた声色でお姉さんは言った。


「あの、この子が病気で、見ていただけないでしょうか。」


 鈴華は咳込みながらうずくまっている。立っているのも辛いのだろう。


「………、少しお待ちください。」


 お姉さんは奥へ行き、少ししてまた戻ってきた。


「準備が整いました。どうぞ、こちらへ。」


 奥には3つ部屋があり、そのうちの1番奥の部屋に入った。中にはお医者さんらしい男の人がいた。イケメン。


 お医者さんでイケメンとか最高でしょ。


 お医者さんは、鈴華の状態を確認した後、私を病室から追い出した。


 ……追い出した、という言い方は感じが悪く聞こえるな。


 とにかく、私は病室を出て、受付の近くにあった椅子に座っていた。



 部屋の外で考えていたのは、受付のお姉さんと、お医者さんの関係についてだった。


 実は、受付のお姉さんも、お医者さんも、名札に”幸見”と書いてあったのだ(病院の名前は苗字から取ったのだろう)。


 受付のお姉さんは20歳くらい、お医者さんは30歳くらいに見えたので、親子には到底見えなかった。従兄弟とかなのかな……。


 女優並みの美しさの受付嬢、俳優並みの美しさの医者のペア。


 将来、私、ここで働こうかな。でも、田舎かぁ……。どうしよう……。




  そんなことを考えているうちにお医者さんが部屋から出てきた。


「鈴華さんなのですが……。」


「はい。えっと…大丈夫そうですか?」


「ええ。大丈夫、なのですが……。」


 お医者さんはなにかをためらっていたが、決心したように言った。


「鈴華さんに、なにか危ないお薬を飲ませたことはありますか?」

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