第7章 ピンチ


「鈴華、どう、立てる?歩ける?」


「……立て…る、し、コホッコホッ、歩ける…けど、辛いよ。ゲホッ」


「…………。」


 どうしよう、どうしよう。珍しく皐月は焦っている。自分のせいで、鈴華が命を落としてしまうかもしれないからだ。


 急がなければならない。それはわかっている。けれど。



 そもそもここは穴なの?出口はあるの?歩くべき?上に戻るべき?どれくらいの深さ?広さ?今の時間は?



 わからないことが多すぎて、どうすればよいかわからない。


「鈴華……。私、どうすれば良いんだろう?」


「コホッ、どうすればって……。…皐月に…わから…ないことなら、コホッゴホッ、私には、わからない…よ。」


 頼りない。


「じゃあ、これからどこにいけば良いか、わかる?」


「それも、コホッ、わからない、よ。けど、ゲホゲホッ……。その、皐月って、音の、動き、わかる?」


「音の動き?無理よ。なんで?」


「無理か……。コホッ、いや、前読んだ漫画でさ、音が、跳ね返ってくるとか、ゴホゴホッ、で穴の大きさ、把握していたから、役に立つかも、ゲホッ、と思った……。」


「そういうこと。私は音が専門ではないからね。……あ、待って。」


 私は、音専門では無く、氷専門。だけど、水の固体の状態が1番得意なだけで、水が液体でも、気体でも、得意と言えるくらいには扱える。



ウォルン水蒸気探知魔法!」



 まずは、この穴がどのくらいの広さなのか、深さなのか、知りたい。


 この魔法なら、水蒸気がどこにあるのか半径500㍍以内ならわかる。


 右100㍍、左30㍍ほどのところに壁。それと、右斜め前と後ろが、確実に500㍍は空洞になっていることがわかる。


 深さは……、450㍍ほどかな?……なんで、この高さで落ちて、私たちは無事なんだ……?


 とりあえず、上に戻るのは現実的ではない。そんなに上に浮いて行けないもの。


 右斜め前か後ろに行くべきね。そして、多分……。



ミュルア初級水魔法!」



 やはり。水は右斜め前方向に進む。皐月は水を出す量を増やす。


 そして。



ヒュルア初級氷魔法!」



 大きめの、箱型の氷を出す。


「鈴華、この氷に入って。寒いかもしれないけれど、我慢できる?」


「うん……。コホッ、でも、どうゆうこと?ゴホッゲホッ、なに、やったの?」


「乗りながら説明するわ。氷が岩にぶつかるかもしれないから、気をつけてね。」


「うん。ケホゲホゲホッ、…どうやって気をつけるの?」


鈴華と皐月を乗せた氷は水の流れに沿って進んで行く。


「コホッ……、それで?」


「あのね、まず、私は空気中にある水蒸気の場所を調べて、この穴の形を調べたの(実際には、穴ではないのだけれどね)。すると、さっきいた場所の、後ろと右斜め前の部分に空洞があることがわかったの。で、水を流したら案の定、右斜め前の方向に進んで行った。良い、鈴華?つまりこの穴は、」


「……川が流れていた場所?」


「その通り。……あくまで、私の推測でしかないのだけれどね。だから、水の流れていった方に行けば……。海に出るはずなの。」


「海に、コホッ、出てどうすんの?」


「私たちが山を下って行こうとしていた大都市・ハピネスシティは、海沿いにあるの。だから、海に出たら、ハピネスシティに着いたようなもの、なはず。」


「なるほどね…。てか、ゲホッ、……ハピネスシティとか、なんか…ゴホッ、胡散臭いよね。コホコホッ。」


「それは私もそう思うわ。」


 そんな話をしていたら、ゴン、と音がして氷は止まってしまった。


「どうしたのかしら?様子見てみるわ。」


 そう言って皐月は氷から出た。


 皐月は息を呑む。


 そこにはがあった。

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