第6章 転落


 皐月はひたすら走っていた。汗が滴る。


「っ……はぁ、はぁ……っ」


「皐月〜、大丈夫?私走ろうか?」


 鈴華はふわふわ浮いていて、汗1滴とも垂らしていない。


「いや、結構よ。鈴華は体調が悪いのだから。」


「……。そう?」


 今、皐月は学校のマラソン大会のときよりも全力で走っている。疲れた様子を見せてはいけない。鈴華が心配して、私にレビトラーナを使わせるに違いないから。


 山頂から下ってきて5時間ほど。日が傾きかけてきた。


「皐月〜、暗くなってきたよ。走れる?交代しようか?」


 どうしよう。真っ暗になったら、私はなにも見えなくなってしまう。そういう体質なのだ。


 前、落とし穴がたくさんある森(名前がわからない)では、ポラン周りが明るく見える魔法を使ったので問題なかったのだが、今回は鈴華にレビトラーナを使っているため、無理だ。


 2種類の魔法を同時に扱うことは私にはできない。


 レビトラーナ空中浮遊魔法で浮いて、補助具(ビート板のような物)を使えば、皐月は動ける。実は、万が一のために、コンパクトなサイズのものを持っているのだ。でも、かっこ悪いから使いたくない。でも、鈴華の体調を考えると…。でも、でも………。


 悩んでいるうちに真っ暗になってしまった。


 どうしよう。


 いや、……私は鈴華に、弱点を見せたくない!


「このまま行きましょう。」


「え!?大丈夫??」


 正直大丈夫ではない。でも、私のプライドを守るため、やるしかないのだ。


「もし、私が危ない方向に言ったら教えてね。」


「う、うん。」


 鈴華はかなり不安そうな声色だ。


 皐月は再び走り出した。と、思ったら、足元が無かった。


「皐月!!!」


 この言葉を最後に皐月の意識は途切れた。









 皐月は目を覚ました。


「……どこ、ここ?」


 あたりを見渡す。目を凝らせば足元ぐらいは見える、そんな明るさ。


「咄嗟になると、なにもできないものなんだな。」


 レビトラーナ空中浮遊魔法を使えば良かった。動けないとしても、浮けはするのだから。


 ……あれ、そういえば、私、なんで生きているんだろう?落ちている時に見た限りでは、この穴(?)はかなり深かったはず。


 ハッ!


「もしかして、ここは、天国!?」


死後の世界なんて信じてはいないけれど。うーん、しかし、こんなに暗いところが天国なんて、そんなわけないか。かといって、私の行い的に地獄はありえないし。



 ……冗談は置いておいて。心配なのは鈴華だ。片側性頬熱病でただでさえ弱っているはずなのに、私が意識を失ったことでレビトラーナの効果が切れ、落ちてしまったはずだ。


 鈴華、かなり弱っているかも。早く見つけないと……。


ミラルル生きている人間を光らせる魔法!」


 ここから20メートルほど先に光っている場所がある。

 皐月は歩き出す。


 どこも痛まないのよね。足を捻ってすらいないみたい。私って、そんなに体が丈夫なわけではないのだけれどな。


 そんなことを思いながら歩いていたら、鈴華がいた。


「よかった、鈴華!無事?」


「コホッ……、皐…月っ!うん、無事だ……よ、ただ……、」


「片側性頬熱病の症状がひどい感じ?」


「……うん、多分。喉と…、頭が痛くて、咳も出て……、ちょっと辛い、かな。……はは。」


 急がないと。鈴華がもうすぐ死んじゃう。なんであんな意地、張っちゃったんだろう。皐月は今までの人生で1番後悔している。


 絶対絶命大ピンチ、だ。

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