第5章 病気


 鈴華と皐月がオトガ村を出て、もう3日となる。


 メルマラ村やオトガ村は大きな山々に囲まれており、大都市へ出るには山を超えなければならない。


 通常、3日ほどで超えられるのだが、子供の足であること、鈴華が疲れたと駄々をこねることで、ちょうど、山頂を越えたところである。


「あついよーー、つかれたよーー。ねぇ、皐月、氷。」


「…私にものを頼むときは?」


「皐月様、氷をお恵みください。」


 少し堅苦しい気もするが。

「いいわよ。……ヒュルア初級氷魔法!」


 ポンっと、手のひらサイズの氷が出てきた。

「はーー、便利だね、魔法って……。」


 そう言って鈴華は氷を頬に当て……溶けた。


「おん?氷が溶けたんだけど。皐月の氷、おかしいんじゃない。」


「えっ……?」


 もしかして、と思い、皐月は鈴華の右頬、左頬、そしておでこに手を当てる。………やはり。


「鈴華、右頬だけ、とても熱いわ。……多分、

片側性頬熱病かたがわせいほおねつびょうよ。」


 皐月は真剣な顔でそう言った。


「放熱病?そしたら寒くなるはずだよ。」


 対照的に、鈴華はとぼけた顔で言った。


「頬・熱・病!頬だけ、右頬だけが風邪を引いて、熱を出しているの。頬に氷を当てすぎたのね。急ぎましょう、もっと悪化してしまうわ。」


 しかし、鈴華は座り込んだ。


「えー?休もうよ。私、頭痛が痛いんだよ。」


 頭痛が痛い……?鈴華が言うと、本気でそう言っているように聞こえる。それで。


「……頭が痛いの?そんなに悪化しているとすると……、早ければあと1日で命を落とすわよ。」


「………!え、うそ……。」


 鈴華は事態の重大さに気がついたのか、パニックになる。


「そんなに酷い病気なの?皐月、なんとかしてよ!魔法で治して!」


「私は氷が専門の魔法使いなの。治癒はあまり得意じゃないから、私じゃ無理。特に片側性頬熱病みたいな危険なものはお医者様じゃないと……」


「使えないわけじゃないんでしょ?やってみてよ!私の命、大切じゃないの?」


「下手にやったら、逆に悪化するの。だから、急ぐしか無いのよ。」


「で、でも……。うぅぅ!」


 鈴華はボロボロと泣き出した。


「うっうぅ……、魔法使いのくせにさぁ!なんなの!他人事だからって酷いよぉ!」


 人生最大の危機に陥り、焦るという言葉じゃ表せないほど焦っている鈴華の横で、皐月は冷静に言った。


「鈴華。落ち着いて。時間を無駄にしないで。早く山を下るのが今は大切なの。」


「うっうぅぅ……、薄、情、者ぉー……!」


 鈴華には申し訳ないが、皐月はあまり焦ってはいない。他人だから。ただ、親友である鈴華を見捨てたりはしない。


「……レビトラーナ空中浮遊魔法!」


 鈴華がふわっと浮いた。


「ふえっ??なにすんの、嫌がらせ!?高いよー!怖いよー!お母さーん!」


 鈴華は手足をバタバタさせる。


「自分でコントロールして。泳ぐ感じだよ。実際にはうごかさなくて良いのだけれど。」


「えっと……。んー?んっ!」


「動いた!流石ね、鈴華。」


「まぁ、そりゃ、できるよ。」


 鈴華の機嫌が良くなってきた。よし。


「じゃあ、行くよ!」


「え?皐月は浮かないの?」


「え?ええ。魔力が持つかわからないもの。」


 実際は違う。それくらいの魔力は持ち合わせている。ただ単に、皐月は泳げない、つまり浮いても動けないのだ。


「そうなの?ふーん、じゃ、病気の私の代わりに頑張って走ってね〜!」


 鈴華は笑顔見せた。


「……。」


 鈴華は本当に病気なのだろうか。頭が痛くてなぜこんなに元気なのだろうか。


 不思議に思いながらも、皐月は走り出した。私って魔法使いなはずなのだけれど……。

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