第4章 隣村到着
鈴華はどんどん進んで行く。皐月は追いかけるが、全然追いつかない。
「……っ、もう、鈴華!待って!」
声が届いていないのだろう、鈴華は止まらない。
そして、小さくなっていく背中が、…急に消えた。
「鈴華……。はぁ、案の定って感じね。」
皐月は苦笑いし、鈴華が消えた場所に、足元に気をつけながら向かう。
「助けてーー!」
声が聞こえて下を見る。
鈴華がいた。
「皐月!助けて!なんでこんなところに落とし穴があるの!?」
「知らなかったのね。この森にはたくさん落とし穴があるのよ。隣村の人たちは落とし穴が大好きだからね。」
「隣村……?」
鈴華は方角もわからず来ていたらしい。
「この森は、私たちの住むメルマラ村と、隣村のオトガ村を繋いでいるのよ。なんぜだかわからないけれど、オトガ村の人たちは落とし穴が好きで、この森に落とし穴をたくさん掘っているのよ。」
「なぜ!?理解ができない!!!」
なぜ、なぜ、と叫んでいる鈴華を救出した皐月は、膝についた土を払い、
「とりあえず、足元に、気をつけていきましょう。」
と、念を押すように言った。
「らじゃー!っす。」
隣村のオトガ村に着いた。この辺だと1番栄えている村だ。
「やっと……着いたんだね。」
痛い目をみたはずの鈴華は、その後も落とし穴に落ちまくり、身も心もボロボロ、という感じだった。
「そうね。ここでお金を貯めておきたいところよね。」
対する皐月は少し土や泥で汚れているものの、それは鈴華を救出する時に付いたものであり、傷はない。
「私たちまだ14歳だよ?お金なんて貯めれないよ。それに、ここはまだメルマラ村に近いから、あんまりグズグズしてると皐月のお父さんとお母さんが来ちゃうよ。」
「うーん、まぁ、そうね。親が来るのはマズいわね。大きい都市に出ても仕事はあるだろうし、ここでは必要最低限の物だけ買っておこうか。」
基本、物は皐月が買うことになっている。鈴華にお金がないのは仕方がないとわかっているので、特に文句はない。
「私たちに、仕事あるの??……それで、必要最低限の物って?」
「食べ物と、鈴華の武器かな。」
「武器?いらないよ、私魔法使いになるもん。」
「魔法使いになるまでに必要なのよ。もっとも、魔法使いは杖が必要だけどね。」
「じゃあ、杖欲しい!」
鈴華の言葉は聞かず皐月は考え出す。
攻撃力があるものじゃダメよね。鈴華が何しだすかわからないもの。攻撃力が低いもの。それは……。
「ひのきの棒にしましょう。」
「私は杖が欲しい。」
鈴華はすぐに反論した。
「同じようなもんよ。ひのきの棒でも魔法は使えるわ。現に、ドラ◯エ4の魔法使いであるブ◯イは、初期装備はひのきの棒よ!」
「ドラ◯エの話でしょ。ひのきの棒じゃ魔法は使えないんでしょ。知ってるよ。嘘つかないで。だってさっき、皐月は、魔法使いは杖が必要って言ったもん。あと、ひのきの棒ってドラ◯エで最弱の武器でしょ?か弱い私には心細いなぁ。」
……か弱い?学校の2階からいつも飛び降りている鈴華が?
「ドラ◯エの話でしょ。それで言うと、ドラ◯エ3ではゾー◯をひのきの棒で倒したら、ひのきの棒はロ◯の剣として伝えられるらしいわ。どんなものでも、あなた自身が頑張れば問題ないのよ。」
「えー?そういう問題?」
鈴華は拗ねてしまったが、私の鈴華への信用がないためである。もう少し信用があれば棍棒ぐらいは買っても良かったんだけどね。
「じゃあ、行きましょう、鈴華。」
「はぁい。」
そう言って渋々皐月についてくる。買ってもらえるだけ感謝して欲しい。……買うことに文句はないよ?
武器屋に着いた。
「おじさん、ひのきの棒、一本ください。」
「はいよ!500リースのものと、1000リースのものがあるけど、どっちが良い?」
——“リース”とはこの世界のお金の単位で、1リースは約1円だ。——
「鈴華、どっちが良い?」
「もちろん1000リースの方。」
人に買ってもらうのに遠慮しないのか。まあ、1000リースの物の方が丈夫そうだし、いっか。
「じゃあ、1000リースの方、お願いします。」
「はいよ!それにしても、ツインテールの姉ちゃん、ずいぶん泥だらけだねぇ。森の落とし穴にでも落ちたのかい?」
「そーなんだよ!なんであんなに落とし穴あるの??許せないよ!」
鈴華には後で敬語を教えたい。
「ははは!それはな、昔、森にはたくさん魔物がいて、そいつらとまともにやりやってちゃキリがねえてんで、落とし穴に落とすようになったのよ。で、あまりにも掘りすぎて戻すのもめんどくせぇっつうんで、今でも沢山あるんだ。昼間だったら落とし穴に気づくはずなんだが、こんな朝早くに店にきているところを見ると、夜に森を通ったんだろ?そりゃあ、落ちるさ。」
今は朝の5時。店を開けているのが信じられない時間だ。
「そっかー。それで、今でも森には魔物はいるの?」
「んーー。」
おじさんは少し考えた後、
「まぁ、多少はいるな。ただ、そいつらはあんまり人間を好まないから、ちょっかいかけなければ大丈夫だ。」
「そうなんだ、おじさん、ありがと!」
「あぁ、感謝しな。俺ほど気の良い男はこの村にゃいねぇぜ。それと、俺はまだ38だ。おじさんって言うのはまだ早いぜ。気をつけてくれ。」
「わかった!じゃあ…、ありがとう、おにいさん!」
そう言って、鈴華と皐月は店を出た。
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