第2章 誘い


「さ、つき、さま、申じ訳ございまぜんでじた。」


 鈴華は深々と頭を下げる。……震えながら。


「まぁ、許してあげるわ。まったくもう、鈴華はすぐに調子にのるんだから。」


 皐月の怒りはほぼおさまっていた。


「ありがとう、…ございます。お礼に私の夢について語りますね。」


「遠慮しておくわ。耳にたこができるほど聞いから。」


 鈴華ってば、ちゃっかりしているのよね。


「いや、今回進化したんで。」


「夢って進化するの?」


「あのね、私、魔法少女になりたいの。」


「何回も聞いたわ。無理よ。」


「可能を証明するのはできるけど、不可能を証明するのは難しいんだよ。それでね、私、魔法少女になるにはどうすれば良いか考えたの。」


「それも聞いたわ。魔法使いになるための手掛かりがあるかもしれないって、人の家のゴミを漁りはじめたのは驚いたわ。カラスもびっくりよ。」


「いや、そんな無謀なことはもうやめたよ。もっと、美しくいこうと思ってさぁ。」


「………それで?」


「私、冒険する!冒険して、魔法使いになるための手がかりを探すの!」


 無謀なことって、なんだろう。美しくって、なんだろう。ゴミを漁るのと、何が違うのだろう。


「何言っているの。危ないわよ。」


「わかってるよ〜。だから、皐月も行くの。」


 鈴華は当たり前そうに言った。


「え……?」


「あー、大丈夫!すぐに、じゃないよ。夏休みに行くよ。絶対楽しいって!」


 皐月は考えた。鈴華と2人だけでどこかに行くのは、きっと楽しいだろう。そして両親からは断固反対されるだろう。絶対に。私は大切な一人娘だから。……でも、だからこそ。


「私も行くわ。夏休み初日に出発よ!」


 両親の慌てふためく顔が見たい。


「さっすが、皐月。ノリが良いね!」


 今から楽しみになってきた。…ところで…。


「鈴華、その服はどうするの?」


 破れたままの鈴華の服。


「あー、うん、まあ、ギリいけるから、このままで良いや。新しい服、新調するよ。」


「私の服は……いらないの?」


「っ…まあ、返すの忘れそうだし?いらないよ。」


 そう言って、鈴華は足早に帰っていった。

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