第34話 伊庭十四郎

麟太郎たちは驚愕してしまった。

 

数十年後に、この世界が終焉を迎えるなどと言われても個人的に何も出来る事がない。


 ましてやその、原因すら分からないのだ。


 宮本優美も困惑していたが、彼女はタイムスリップ系の知識を生かし、AIに質問を投げかける。

 

 「え、えーと相須さん?で良いのですか」


 <はい。呼び方はご自由にどうぞ>


 「その、光の雨イベントが発生したということは」


 「もしかして世界の崩壊を止めるための手段なのでは?」


 <おっしゃる通りです。そのために今でも分析作業を並行して行っております>


 麟太郎も納得した。光の雨をプレゼントした〖マザー〗という謎の人物は未来からやって来たのかもしれない。


 しかし、世界が崩壊する原因が何なのか?それがはっきりしない現状では動きようがないのだ。


 「相須さんは、崩壊の原因となる情報は持ち合わせてないのですか?」


 「一応、知っているのかと……思うんですけど……」


 <はい。存じています>


 <ですが、今はお話出来ません>


 <理由は、麟太郎様のお父様である十四郎さまの命の危険に関わる事だからです>


 「俺のオヤジ?」


 <今現在、十四郎さまは安全です。ですが、崩壊の原因をここで知ってしまうと、そのように対応しなくてはならない状況になります>


 <そこで世界線の分岐が起こる可能性もあるので>


 <申し訳ありませんが。今後、時期をみてお伝えすることになります>


 <それに、私が知っている崩壊の原因と今回の光の雨との因果関係がまだ見つかっておりません>


 AIの説明によると、世界の崩壊が起こる原因にうちのオヤジが関わっているようだ。


 そして、【光の雨】が何故、その原因とやらの対応策になっているのか整合性が分析できていない様子だった。


 「そっか分かった」


 「アレだね。行動を共にして行けばそのうち解明出来ると!」


 「先輩達もそれで良いですか?」


 「分かったよ麟太郎。そのためにも俺たちも一緒に行動するぞ!」


 「あたしも主任と一緒に行動します!」


 西野美咲も麟太郎の秘密を知り、もっと彼との関係を深めたいと心に決めたのだが図々しく参加して良いのだろうか、そんな事を考え、一歩踏み出せない純粋な少女なのであった。


 「あのー。私も、その……」


 ここで麟太郎の天然スキルが発動する。

 

 「美咲ちゃん。ここまで知ったからには ”付き合って” 貰えると嬉しいな」


 「は!はい♪是非♡」←瞬間的超絶反応。


 何故か麟太郎が発した〖ワード〗に妄想し顔を真っ赤にする西野美咲。


 何に反応したのであろうか?鈍感な彼は不思議に思っていたが、その〖ワード〗に敏感に反応したのが宮本優美。


 「主任!あたしも知ってしまったから、同じ言葉欲しいです!」


 「え?俺なんか変な事言った?」


 宮本優美が何を求めているか理解が出来ないまま、同じ言葉を繰り返してみる。


 「あ、えと……」


 「優美ちゃん。ここまで知ったからには ”付き合って” 貰えると嬉しいな」


 「むぅー……(妄想中)キャ♪  ……はい。」


 何かを噛みしめ、何故か、つつまし気に”しおらしく”返事を返す宮本優美。



 



 ――――――――――――――――


 ここは、長野県に属する日本アルプス。


 その中の中央アルプス山脈の麓にある、とある研究所。


 伊庭十四郎の所属している大手財閥企業の最新テクノロジーラボである。


 建物の見た目は地上5階建ての白い外壁で病院を連想させる作りで、なんの特徴も無い普通のありふれたビル。


 だが、秘密は地下にあるのだ。


 1Fの奥の部屋にあるエレベータールームには幾重にも重複するセキュリティーで管理されていて、


 そのエレベーターで地下300mまで降りた場所に、異様な光景の研究所があった。


 そこには東京ドームのような大きな空間が広がっており、中央には”バベルの塔”を思い起こさせる組み立て中の機械がそびえ立つ。


 この設備の正体は明らかに未来のコンピュータと噂されている【量子コンピューター】の開発中といった所だろう。


 「伊庭博士。直近のデータが集まりました」


 「お。ご苦労様」


 「じゃあ例のデータと照らし合わせて分析作業に移行してくれ」


 「かしこまりました」


 伊庭十四郎は量子コンピューターの開発と並行して例のロケット消滅事件の追跡作業に追われていた。


 「しかし、不思議な事があるもんだな」


 「ロケットが爆発した形跡もなく、どこか別の空間に移動したような現象だ」


 それもそのはずで、


 ロケットのセンサーから直前まで送られてきたデータ送信が、なんの衝撃感知も無く消えたのである。


 しかし、最後のデータ送信から1つだけ解った事があった。


 ロケット発射から成層圏を抜けて宇宙空間に出た瞬間、途轍もないエネルギー反応があり、その後忽然と消息を絶ってしまったのだ。


 その時のデータを分析している最中、ふとある事を発見する。


 「このエネルギーの波形……もしかしてダークマターなのか?」


 ダークマターとは、まだ人類が発見していない謎の物質で一部の研究者の中にはブラックホールに関連している可能性も示唆されている。


 だとしたら、可能性ではあるが時空間移動というタイムスリップ現象を起こしたのかもしれない。

 

 そうなると、ロケットが破壊されずに時空を跨いで過去か未来に行くことだってあり得る。


 「あ!」


 十四郎はなにか閃いた様子だった。


 彼は物理学の権威でもあり、また量子コンピュータの開発の責任者でもある。


 「探査ロボットだ!」


 「伊庭博士!どうかしましたか?」


 「E1564だ」


 「E1564とは伊庭博士が開発した人工知能の事ですか?」


 「そうだ。探査ロボットに組み込んだAIだ」


 「E1564は学習機能に特化した自立型のAIなのだ」


 「しかもロボットの工作機能を使用し、ハード面でのアップグレードも自ら行う事が出来る」


 「成長の為のカスタマイズ実行。要は自身で考え、改造出来るシステムを組み込んであるのだよ」

 

 十四郎は歓喜する心を抑えながらも少し期待をしてまう。


 もし仮に未来へ飛んだとしたら、人類がまだ到達できていないテクノロジーを習得して、現代にタイムスリップして戻って来るかもしれない。


 彼は、その為のアクセスを取る方法、手段の準備を進める事に賭ける事にした。


 「スグにE1564の開発データを持ってきてくれ」


 「アクセスの方法を考えてみる」


 「はい!すぐにお持ちします」



 



 ――――――――――――――――


 麟太郎は秘密を打ち明け、少しスッキリとした表情を浮かべていた。


 普段から余り自分の本心を打ち明けないように振舞って過ごしてきていたのだが、思い切って打ち明けてみると、以外にも皆の暖かい反応に心が絆される思いで満たされてしまったのだ。


 なので巻き込んでしまった仲間に対する責任感を感じ、強化合宿に気合を入れ直す35歳であった。


 「では、合宿場所の選定をします」


 「先日のギルド法案に基づき全国のダンジョンが公開されました」


 「その中で今回は初心者も居る事ですし」


 「C級のダンジョンに絞りたいと思ってます」


 この発言に、N先輩と宮本優美は不満を覚えた。彼らにとってC級ダンジョンは成長の糧にならないからだ。


 「おい。麟太郎。それってレベル低すぎじゃないか?」


 「主任!あたしもそう思います」


 「お2人はA級レベルですからね(笑)」


 「ですが、今回。面白いダンジョンを見つけたのですよ!」


 「面白いってなんなんだよ。説明しろ!」


 麟太郎はAIさんの検索、分析の結果、皆が効率的にレベルアップ出来る候補地を教えて貰っていたのだ。


 「富士山の麓」


 「青木ヶ原樹海ダンジョンです」

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