第33話 麟太郎の秘密

 西野美咲の包帯を取り外した後、美咲から何気ない質問が飛ぶ。


 「そういえば、今日は何の集まりだったんですか?」


 「その、急にお邪魔しちゃったので申し訳なくて……」


 美咲は突然、独身男性の部屋に訪問したことを今更ながら恥ずかしがっている様子だった。


 それを察知したN先輩がまたもやフォローを入れる。


 「あー美咲ちゃん気にしないでねー」


 「ただの合宿の打ち合わせだから(笑)」


 「合宿ですか?」


 「そうだよ!チーム麟太郎の合宿!」


 「チーム?ですか……」

 

 「ほら、麟太郎って他とは違う実力持ってるでしょ」


 「美咲ちゃんも見たことあるでしょ。麟太郎の戦闘」


 「はい!むちゃカッコ良かったです♪」


 「でも、世間にバレたら日本中で大騒ぎになるかもしれない」


 「なるほど」


 「だから麟太郎と秘密の共有をしてるんだ」


 「あいつ曰く、そんな仲間になにか危険があったら嫌なので」


 「それぞれにLevelアップしてもらいたいんだと!」


 「私!伊庭さんと二人だけの秘密、共有してます!」


 何を思ったのか西野美咲は突然宣言してしまう。


 「あ……」

 

 思わず口を塞ぐ仕草をするが、もう遅かった。

 

 N先輩と宮本優美はこの告白に驚きの反応をする。


 もしかしたら自分達さえ知らない何か他の秘密を知っているかも知れないのだ。


 「なに!?美咲ちゃんも?」


 「主任!どういうことですか?」


 「あたし聞いてませんよ?」


 麟太郎も慌ててしまう。


 確かに他の皆には言ってなかった。


 左腕の秘密に自分の親父が関わっている事実だ。


 「美咲ちゃんはどんな秘密を知っているの?」


 「そ、それは……」


 美咲が麟太郎をチラリと見る。


 「先輩!そんな大したことじゃないですよ!」


 「ちょっと俺がゴブリンと戯れたの見てたんで」


 「もうここには来ないでね!お姉さんには言わないから!みたいな」


 「そんな流れの秘密ですよ(笑)」


 長年、麟太郎と一緒に仕事をした来たN先輩はその嘘を一発で見抜いたようだ。


 「麟太郎。俺をなめんな」


 「何を隠してる」


 「長年見てきた俺だから分かることだってある」


 「お前、たまに誰かと喋ってるよな?独り言みたいに」


 先輩の鋭い突っ込みに少し冷や汗を感じる。


 「あのー。な、中村さん。」


 「私は、伊庭さんに助けてもらって」


 「お、お姉ちゃんにバレるのが怖くて……」


 「大丈夫だよ美咲ちゃん。」


 「そのことじゃなくて俺が麟太郎に聞きたいのは別の件だから(笑)」


 どうやら彼女は2人だけの秘密にして置きたかったようだ……健気な子だ。


 「それに、日比谷ダンジョンの時の」


 「相須来夢さんって、ほんとにお前の左腕の分身か?」


 「分身にしては自立性が高かったよな」


 「い、いや、そのー何て言うか……」


 やっぱり麟太郎は隠し通すのが下手な人間だ。


 それなりに誤魔化そうとしたが、相手から疑いのベクトルがさらに一段上がったようだ。


 しかし、もうここまでバレているなら、隠してもしょうがない。


 (AIさん、どうしようか?どこまで話す?)


 <あまり隠し事をしてしまうと、今後の信頼関係にヒビが入りがねません>


 <別にマスタは悪いことを行っているわけでは無いので>


 <マスタが信頼をしているお仲間なら情報を開示しても良いのでは>


 (でも、話すことによって未来の世界線が変わってしまうリスクは大丈夫なのか?)


 <現状、世界で起こっている出来事に沿って考察すると、問題ありません>


 <どうやら私の存在を薄々感じ取ってる方もおられるようですから>


(分かった。俺の事を疑って色々調べるために動き回って危険な目に合わせるのも意に沿わない)


(開示しよう。)


 <かしこまりました>


 麟太郎は、意を決して秘密の告白をすることに決めた。


 「ふぅ……。先輩、分かりました」


 「もうすべてお話します」


 「美咲ちゃんも聞いてて良いからね」


 「はい。」


 どこから話そうか悩んだが、順を追って話した方が良いだろう。


 「先輩、数日前にH3ロケットが発射された日覚えてますか?」


 「ああ。覚えてるよニュースでやってたよな」


 「そのロケットが発射された同時刻に隕石が墜落したニュースは?」


 「うん。同時ニュースになってたからな」


 「俺はあの墜落現場に居たんですよ」


 「なに。大丈夫だったのか?」


 「大丈夫じゃ無かったんですよ。瀕死の重傷でした」


 「そんな時、救命の為に助けてくれたのが」


 「この左腕の相棒です」


 麟太郎は左腕を銀色に光らせながら前に差し出した。


 そして、自身から切り離す。


 水銀のようなその液体は、徐々に丸みを帯びたスライムに変化していき、メタルスライムへと形を変えた。


 「先輩。これが秘密の正体です」


 「麟太郎。なんなんだこの物体は?」


 「人工知能AIを搭載したメタルスライムです」


 「そんなものがどうしてお前に?」


 「それは本人から説明させましょう」


 そう言うと麟太郎はAIさんに支持を出した。


 それに従い、メタルスライムは姿形を変え相須来夢の姿に変身する。


 <またお会いしましたね>


 <中村様、宮本様、そして初めましてですね、西野様>


 出現した相須来夢の相変わらずの美しさに皆、感嘆していた。


 <私の本当の名前は相須来夢ではなく>


 <スライム型AIロボット>

 <製造番号E1564>


 <と申します。以後お見知りおきを>


 ついに正体を現した秘密に驚きを隠せないメンバー。


 言葉に詰まって、問いかけも出来ない状態であった。


 <私はある目的のため遠い未来からやって来たのです>


 <隕石事故の近くで偶然にも麟太郎さまを発見し>


 <治療のため失った左腕に同化しました>


 <それにより私の能力を麟太郎さまが使えるようになったという訳です>


 N先輩と宮本優美はおおむね理解した。麟太郎の不思議な能力の根源はこのスライムだったと。


 しかし、西野美咲には疑問が生じていた。


 「あのー。私から質問しても良いですか?」


 「たしか、伊庭さんの話だとその左腕」


 「お父様が作られたと?聞いていたんですが……」


 それは間違っていない。本当の事だ。


 <西野様。その通りです>


 <私は麟太郎様の父親である十四郎様に作られました>


 「でも、未来からやって来たと……」


 <はい。それも間違ってない事実です>


 <私は十四郎様に現代で作られ、先日のロケットで>


 <惑星探査ロボットとして打ち上げられたのです>


 「それがあのロケットニュースか」


 N先輩は麟太郎が冒頭で話したロケット打ち上げのニュースを思い出していた。


 「でもあのロケットって行方不明になってなかったか?」


 <宇宙空間で謎の歪みが発生して未来に飛ばされました>


 <そこで未来のテクノロジーを吸収して隕石に乗って現代に戻って来たという訳です>


 宮本優美はタイムスリップ物の小説が大好きであった。


 「あたし、分かっちゃいました!」


 「タイムパラドックスですよね」


 タイムパラドックスとは同じ時間軸に同じ人物、物質は存在出来ないという理論だ。


 <正解です>


 <ロケットで現代から消えてしまった為、私が戻れる時間は、消えた直後だったのです>


 <なのでロケット消滅と同時に隕石に乗った私が現れたのです>


 麟太郎もそこまでは知らなかった。

 

 父親が作ったロボットの未来からやって来たタイミングが、あまりにも都合が良すぎたからだ。

 

 そして、N先輩からもう一つの疑問に対する質問が飛ぶ。


 「現代に戻って来た経緯は分かったっけど」


 「ある目的の為とはなんなんだ?」


 AIは質問された、ある目的を伝えてしまうと未来の世界線が変わる恐れが有るため、慎重に答えを選んだ。


 <中村様、事実を答えてしまいますと>


 <世界線が変わってしまう為、すべてお話することは出来ませんが>


 <光の雨というイベントは本来無かった出来事です>


 <ある何者かがこれから起こる未来を上書きしようと作り出した現象です>


 <要は未来の誰かが、過去(現代)の歴史に干渉したということです>


 <実際の未来はあと数十年後に文明が崩壊します>


 「なにぃいい!この世界が終わるということか!!」


 この発言にみんなも驚いたが、麟太郎自身も聞いてなかった。

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