第30話 俺は、まったく違うから
「よし。書類の提出も終わったし、ん?……ってもう夕方か」
「腹減った……そういえばランチ逃してたな」
(帰りに昨日の店で飯でも食って新メンバーの対策でも考えようかな)
そんな事を考えてた矢先、麟太郎の仕事が終わるのを見払っているような、強烈な影の視線が映り込む。
部署の隅でバレないようにストーカーのごとく彼を監察していた人物が2人居たのだ。
そう、業務中。
幾度となくチラチラと視線を感じていたが、課長に信任された仕事を優先に打ち込んでいたために、あえて完全にスルーしてきていた。
あまりにも露骨なバレやすい行動をしている彼らに、諦めを感じ、俺はため息をつきながら降参した。
「ふぅ……。終わりましたよ。……っで、先輩」
「何か用事でも?」
「おおお♬ そうかそうか!」
「終わったか♩わはは」
「んで。今日は?何する?」
「お前んち(家)か?」
「先輩。 小学生の放課後じゃないんですから(笑)」
「遊びませんよ(笑)」
そんな普通に帰ろうとする麟太郎を、なんのチームワークか分からないが宮本優美が想定通り参戦する。
「主任。私は主任の家に行きたいのじゃなくて、係長が主任の家に行きたいって言うから、あくまで部下としての付き添いで♡」
「あ♩ でも、勘違いしないで下さいね♡」
「部屋が見たい【チェック】とかじゃなくて、【他】の歯ブラシとかコスメとかの【形跡】探し。とかじゃなくて、大事な打ち合わせというか……それですキリッ!」
――恒例のN先輩、心の声――
おいおい(笑)心の声が駄々洩れだぞ。大丈夫か?
お前、何をチェックしようとしてんだ。宮本優美ぃ!
それより今、大事なのは麟太郎がなんか隠している違和感の正体をチェックする事が重要だろう。
だ・か・ら・今朝から、打ち合わせして来ただろうが。
たまに麟太郎が独り言みたいに誰かと話してるような様子に違和感を感じると。
だ・か・ら。そ・れ・を、何を隠してるのか調べるために家へ侵入しようと計画したじゃないか!
なのに……お前(笑)混乱してないか?形跡チェック?なに言ってんだか(笑)
とりあえず安心しろ。アイツには今、彼女は居ない。
――心の声、終了――
麟太郎は悩んでいた。実は今日AIさんと”商人”としての立ち回りを細かく打ち合わせしておきたかったのだ。
それというのも、港区に存在するダンジョンに対応するため、色々とやる事が満載なのである。
うちのギルドが管理する管轄になるので当然、港区ハンターギルドのハンターが派遣されるであろう。
しかし、そうなると宮本優美や先輩含め、浅田なども派遣候補に挙がる。
そのためのレクチャーも伝えておかなければならない。
とりあえず宮本優美のセリフは軽くスルーし、打ち合わせに応じる事とした。
「先輩。」
「たしかに秘密の共有をしている事ですし」
「誰かに聞かれる恐れもありますので」
「不本意ですが、今回はうちでミーティングしましょうか」
「おお!やっと決心したか」
「いっえ。いっえ♪しゅにんのへっや♪」
(AIさん。先輩達とのミーティングを優先しても良いかな?)
<マスタ。構いませんよ>
<睡眠シュミレーターで寝ている間でも打ち合わせ出来るので>
(なるほど。その手があったか。んじゃ)
(先輩達との会話の時のフォローよろしく)
<かしこまりました>
「じゃこのまま直帰しますか」
「おう」
「はい♡いっしょに同じ場所へ帰宅します」
麟太郎は二人と共に電車に乗った。
銀座線新橋駅から赤坂見附で丸の内線に乗り換える。
先輩は何か企んでいるような表情を浮かべ、ふふふ的な顔でニヤニヤしている。
宮本優美に至っては、何を妄想しているのか、一緒に帰宅している事が嬉しいようで、時たまニヤケては真顔に戻り、またニヤケている。
この2人が何が楽しいのか全く分からない麟太郎であったが……。
ちょうど四谷駅に辿り着く辺りで電車が地下から地上に出た瞬間、突然異変が起きる。
いきなり電車の窓ガラスが割れてモンスターが侵入してきたのである。
(AIさん。緊急だ。サポート頼む)
<かしこまりました>
<乗客の保護ですね>
(さすが!解ってるね!)
予想していたが早速、電車内で視界が揺らいだ。
『うわぁぁあああ!』
『きゃぁぁああ――!』
車内の一般人たちが騒ぎ出した。突然のパニックである。
エンカウントワールドが出現したのだ。
一車両丸ごと並行世界に飛ばされたようだ。
麟太郎は一瞬の判断で乗客を誘導する。
「皆さん!こっち側に集まって下さい。私はハンターです!」
「俺の周りに集まればバリアでガードしますので安心です!」
乗客は一目散に麟太郎の元へ集まって来た。
「トンボ展開!合わせてイージスセブン!」
そんな状況の中、さっきまでニヤケていた2人も迅速に対応する。
「リストレイン(拘束)」
「DOT(毒)」
「ランチャー展開」
「死ね」
『ドゥゴゥオオオン!!』
『ドゥン。バキバキ!』
一瞬であった。麟太郎が乗客を守り、宮本優美が敵の動きを封じ、先輩がとどめを刺す。
完璧なコンビネーションである。なにも打ち合わせしていないのにそれぞれの役割を自分の判断で行動した。
この阿吽の呼吸は日ごろ同じ営業畑で過ごしてきた仲間との信頼感におけるチームワークだった。
「お2人さんナイスです♪」
「おう!余裕だな」
「主任を守りたい一心で♡」
そして、エンカウントワールドが終了し、現実世界に戻って来た。
電車は何事も無かったように四ツ谷駅で停車し、パニックになった乗客のほとんどが降りて行く。
「みんな降りちゃいましたね」
「そりゃそうだろ」
「まぁ戦闘ステータス持ちも居たでしょうが経験が無いと尻込みますよね(笑)」
「だよな!最初は誰だって怖いもんな(笑)」
一両丸ごと貸し切り状態になった車内で3人とも座り、今の状況の考察に入る。
「しかし、麟太郎。今のはスタンピードとは違うよな」
「そうですね。単体で現れるのはダンジョンのバグでしょう」
「ん?バグ?」
「はい。うちのギルドで先ほどエンカウントしたじゃないですか」
「あれと同じ状況でしょうね」
「うちのギルドに現れたのはバグなのか?」
「多分ですけど、ギルドのヤツは日比谷ダンジョンに居たモンスターでした」
「ダンジョンが消滅した後に現れたのですよ」
「考えるに、魔素が溢れてモンスターが氾濫するスタンピード以前に」
「何かのバグでダンジョンから飛び出したモンスターなんじゃないかと推察します」
「なるほど……イレギュラーで発生したモンスターだからダンジョンが消滅しても行動していると」
「その通りです。あくまでも推察ですけど」
「主任!左目が赤いですよ?どうしたんですか?」
「あ!これはスキルの関係というか、まぁ、気にしないで(笑)」
「戦闘モードになると自然とこうなるんだ!」
「ユータが言ってました」
「片目の色が変わるのはオッドアイと言って」
「最近のアニメの特徴だって」
「それに中二病は片目に憧れるって言ってました」
「優美ちゃん。それは、ちがうから」
「なんなら、左目の件は、俺のせいじゃないし」
「まったく、ちがう」
「そう、俺は、ちがうから」
「35にもなって、それは、ちがうし」
――――――――――――――
所変わって港区支部を訪れていた田中だが、【あの方】に報告する前に上司である○○に上告した。
「もしもし、田中です。取り急ぎ報告が御座いまして……」
「……。どうした……」
「今回の日比谷ダンジョンの消滅ですが、どうやら」
「管轄外のギルドが関与している可能性があります」
「……どういうことだ?」
「はい。あくまで可能性ですが、日比谷ダンジョンを潰した人物が港区支部に居ると思われます」
「緊急の案件になると思われますので【あの方】にご報告した方が良いかと思われます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます