第29話 舞い上がった宮本優美
一階フロアの轟音を聞きつけ現場に走る二人の姿があった。
「係長!今のは何の騒ぎですか!」
「宮本!お前はここに待機してろ!」
「でも、もし昨日のようにモンスターが社内に入って来てたら」
「私、足止めくらいは出来ます!キリッ」
「……そ、そうだったな……。足止めは得意だったな……」
覚醒した宮本優美には敵の動きを止める《リストレイン》がある。
周りに被害が出ないように敵の動きを止めるスキルは有効だ。
二人は急いで一階のフロアに到着したが、何故だろう、誰も人が居ない。
「え?係長……誰も居ないです?」
「だな……。なにがあった……」
そんな困惑した状況で肩透かしを食らった気分になっていたのが、突然、二人が見ていた視界が揺らぎだした。
「なんだー!?……見ている光景がユラユラしてるぞ」
「私もです。まるで蜃気楼のように揺らいでます!」
そんな現象を体験している二人の映像に、一階フロアに居た人々が急に出現する。
「おわ!なんだ?急に皆が現れたぞ」
宮本優美が慌てて辺りを見渡すと、1人見知ったアノ彼が、集団の中の1人として現れた。
宮本の隠されたスキルであろうか?
はたまた、特定の人物を見分ける動体視力なのか第六感的な何か?なのか。
麟太郎の存在を発見できる特殊能力を発揮し、見事!恋する女性の〖第三の眼〗で、捉えたのであった。
「あ!……主任!!」
「主任が突然現れました!」
「麟太郎!おい!大丈夫か!」
「あ!先輩!……そこに居たんですか(笑)こっちは大丈夫ですよ――」
「お二人は大丈夫でしたか?」
N先輩と宮本優美が駆け寄って来た。
「ガラスが割れる破壊音が聞こえてきて上から降りて来たんだ」
「そうでしたか(笑)なんか突然モンスターが突っ込んで来たのでチョット慌てました」
「が、……アレでした」
「そっか。まぁお前がヤラれることは万に1つも無いからな(笑)」
「しゅにん……( ;∀;)……」
宮本優美は麟太郎の無事に安堵すると同時に危険な場所に遭遇した彼に、思わず感情が表面に出てしまう。
「なんでいつも危ない所に居るんですか!」
「もう心配になるじゃないですか!」
「いや(笑)偶然だよ(笑)」
「優美ちゃん。心配してくれてありがとうね♪」
「俺がヤバい時は君が助けてくれると嬉しいよ♪」
「しゅ……。主任は絶対!私が守ります!キリッ。」
「う。」
またヤラれてしまった。彼女のあの仕草。
アレは、反則だよな。あんまり使わない方が良いよ(普通の男性は勘違いする)
まぁ、素直で純粋な彼女の天然な発言だろう(笑)
俺なんかチョット話しやすい先輩程度の発言だろうが、浅田辺りは完璧に勘違いするだろうな(笑)
だが彼の考察とは反対に、宮本優美は絶頂の時を迎えていた。
「お!優美ちゃん♪頼もしい♪ 俺、守られます!」
何気ない麟太郎の返事に彼女は心臓を突き抜かれたように反応してしまった。
「むぅぅぅキャ♡ 私、ここで死んでも満足♬」
「守りますよーー♪任せて下さい♡」
「なんてこと言うんだ優美ちゃん♪そんなこと言われたら逆に守っちゃうぞ♬」
「ぉぉぅーぉ♡……ぉおお、あはっ♡」
宮本優美は興奮し陶酔していた…………。
彼の無意識な言動に、彼女は心を躍らせて舞い上がっている。
そんな光景を眺めていたNっ先輩からの、心のメッセージを覗くと。
――N先輩の心の声――
宮本が妄想するのは勝手だが。ホント大丈夫か?宮本……。
俺は麟太郎の天然的な発言で、勘違いして撃沈してきた女子を数々見てきていたのだ。
アイツは自分に向いて来ている女子の行動に超鈍感な残念な性格をしている。
本人はただ単に、人として好かれているとしか受け取ってないのだ。
アプローチを仕掛けた女子にしてみれば、脈ありなのか脈無しなのか、気になってしょうがない。
なので、宮本。アホな麟太郎に、お前の気持ちを色々試して気付かせてやってくれ。
俺は麟太郎の理想とする結婚相手の条件を知っている。
昔、アイツが泥酔状態の時に無意識に話した女性に対する理想像を聞いたことがあるからだ。
が、しかし、これをアドバイスすると難易度が高くなるので、あえて言わない事にする……。
――心の声、終了――
「麟太郎!昼飯まだだよな。一緒に行くか?」
「先輩。俺これから検査結果の書類をまとめて提出しないと……。また今度で!」
「お、そうか。」
「それじゃ、また後で!」
麟太郎と一緒にランチ出来ないと悟った宮本優美が、現実に戻って来た。
「主任!後で合宿の打ち合わせ、しましょうね!」
「あ、そうだったね。ご家族にも連絡していおてね!」
「はい!」
突然の襲撃に対応し、あのまま自動的にトンボを配置していた事が功を奏して、無難に事を終えた後。
これまでの成り行きを真剣に考察しながらこれからの対処も含めローミングも必要なのではないかと思い至った麟太郎。
「AIさん。俺思うに俺らの体験だけで物事を判断するのも限界がある」
「広く情報を集める手段として全国のギルドとの連携を深める必要があると思うのだが……」
<マスタ。私は情報。大好きです!>
<どんどん交流を深めていった方か得策だと推奨します>
「そっか。分かった」
「今後、その方向で進めて行こう!」
<お願いします>
モンスターと対峙してAIから聞いていたこの別世界に飛ばされる現象を麟太郎は自分なりに考えていた。
エンカウントワールド(並行世界)の特徴である。
どうして戦闘が終了すると元の世界に戻るのか?だれがこの現象を操作しているのか。
疑問に思わない方がおかしい。
異世界のモンスターと戦闘態勢に突入すると、別次元の並行世界に飛ばされる。
その仕組みとは目の前の物事に対し選択をした結果の未来線の事だ。
「バタフライ効果に関連しているのかな」
<そのようです。何かのメッセージのように推察します>
<カオス理論に由来する連動性の原理を体験させているかのようです>
「風が吹けば桶屋が儲かる」
「アレと同じか」
<おっしゃる通りです>
<バタフライ効果とは、蝶が羽ばたいた時の微小な空気の流れが、他の空気の流れと合流し、少しづつ流れの方向を微妙に変え、やがてそれが巨大な竜巻に変幻する可能性を秘めた選択肢の例えであると解釈しております>
選択したことによって未来は分岐する。選んだ未来、選ばなかった未来。
つまり〖もしも今ココでこの決断をしたらこうなる別の世界〗
未来が分岐する世界線のことだ。
今回の現象は、モンスターと遭遇した世界からモンスターと遭遇しなかった普段の世界に戻って来たという事だ。
未来線を自由に行き来きしながらそれを操れる。そんな事が出来る存在。
光の雨を浴びてから不思議な世界線へと変わった謎。
もし、マザーがそれを意図して操作しているのであれば、それはどういうメッセージを伝えたいのか。
これが、マザーという謎の存在しか、知りえない事実なのだ。
――1階フロアの田中――
「本田さん。今のは……。例の救世主……」
「そ、そうです。今のはまさに昨日見た光景と同じです」
「誰が攻撃したのか全く分からなかったのですが」
「おっしゃる通りです」
「私どもも、誰がこのギルドを守っているのかこれから調査をする予定です」
「本日すでに全社員のステータス検査が終了しましたので」
「これから精査する予定となっております」
「そうでしたか。では是非こちらにも情報をお伝えして頂ければ有難いのですが」
「承知しました。結果が分かり次第連絡します」
「有難うございます」
「では、私はこれで」
「はい。お気をつけて」
田中は実際の現場に遭遇して幸運にも救世主の戦闘を目の当たりにした。
あの日比谷ダンジョンの攻略を成功させたのもたぶん間違いない。
いったい何が起こっているのか?
なにかしらのイレギュラーなのか、例の〖揺り戻し〗なのか、今後の展開を見てみないと判断が出来ない。
〖あの方〗に早速報告を上げよう。
我々が、【光の雨】以前に進めていた計画に支障をきたす恐れがある。
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