第28話 来訪者

 『コンコン。部長、失礼します』

 「どうぞ」

 「失礼します」

 「どうした」

 「はい。只今受付に山梨県の南ブロック支部の方がお見えで」

 「担当者と話がしたいと仰っておられるのですが」

 「どう対応しましょうか」

 「山梨南ブロック支部?……わかった」

 「私が対応しよう」

 「応接室に通しておいてくれ」

 「かしこまりました」


 本田部長はそう言い残すとデスクに散らばっている書類を整理し応接室に向かう。


 ――――――――――――――――――


 一方、麟太郎は自身の検査の為、浜崎課長の元を訪れていた。


 「課長。こちらで良かったですか?」

 「おお。伊庭君。もうそっちは終わったのか」

 「はい。自分が担当していた検査はすべて終了しました」

 「そうか、それじゃ君の検査は私がやろう」

 「よろしくお願いします」


 課長の前でステータスを開示し、商人の職業を説明した。


 「君は、商人だったのか」

 「はい。ですが能力欄をご覧ください」

 「なるほど、アイテムボックスは便利みたいだね」

 「はい。迷宮の攻略には便利な能力です」


 ハンターになるにはダンジョン攻略メンバーにメリットがないと意味がない。


 「しかしねぇ。商人という職業が戦闘向きじゃないしね」

 「攻略メンバーが君を守る負担が出てしまう」


 課長の意見も御もっともだ。いくら荷物を大量に持ち運び出来ても死んだら意味がない。


 だが、そのために考え抜いて命名したアレがあるのだ。


 「課長。判断する前にこの能力欄を見てもらえますか」

 「ん?イージスセブン?」

 「はい。この能力は使用者を守ってくれる盾となります」

 「先日のモンスターくらいの攻撃は簡単に防いでくれます」

 「なんと!それは凄い」

 「なので攻略メンバーに負担を掛ける事は在りえません」


 浜崎はこの能力に関心した。それと同時に疑問も浮かんでいた。


 「しかし、伊庭君」

 「何故、商人である君にこんな能力が?」

 「ギフトキューブです」

 「ギフト?」

 「はい。自宅の近くに初心者向けのダンジョンがあるんですが」

 「そこでたまたま手に入れたキューブが」

 「なんとレジェント級のレアキューブだったんですよ」

 「おお!君は運がいいね」


 課長は納得してくれたみたいだ。これでもう安心だろう。


 「なので課長。自分は出来ればハンターとして登録したいのですが……」

 「そうか。まぁ君が希望するなら許可しよう」

 「身の危険も守れるしね」

 「有難うございます」

 「だが、戦闘に参加できないからランクは低くなると思うけど大丈夫か?」

 「問題ないです。ギルドに貢献できれば満足です」

 「よし!わかった。とりあえず一番低いランクになるが」

 「Fランクからスタートしてくれ」

 「はい。承知しました」


 無事、ハンターとして登録できた。この先はなんとか理由をつけてスキルを増やしていけば良いだろう。


 それにN先輩や優美ちゃんも無事ハンター登録したようだ。


 あの2人なら間違いなく我がギルドのトップクラスの実力者になるだろう。


 ――――――――――――――――――


 ◇応接室◇


 「お待たせして申し訳ございません。」

 「担当させて頂きます。私、本田と申します」


 「こちらこそ突然訪問しましてご迷惑おかけします」

 「私、山梨県南ブロック支部から参りました田中と申します」


 「それで、うちのギルドに来られたご用件とは?」

 「はい。早速ですが我が南ブロック支部においてもダンジョン資料というかデータの集積に取り掛かってまして」


 「先日起こった日比谷でのスタンピードについて情報を提供して頂けないかと思い参上しました」


 田中は率直に尋ねてみた。相手のリアクションを見るのも目的だが、妙な駆け引きをしている時間も余裕もない。


 もたもたしていると、【あの方】に消されてしまう恐れもあったからだ。


 「そうでしたか。わざわざ起こし頂いて恐縮なんですが」

 

 「ギルド創設の発表の日の出来事だったものですから」

 

 「ギルド職員の各所配置転換なども今日から動き始めたばかりなんですよ」


 「しかし何故、港区支部に?」


 「日比谷公園は千代田区支部の管轄になるはずですが……」


 「はい。そちらにも後ほど伺う予定なんですが」


 「日比谷公園に直線距離で近いのがこの支部になるので」


 「もしかしたら一番先に情報を得てるのではと推測しました」


 田中は素直に思っていることを本田に伝えた。

 

 だが、先日は発表準備を進めている最中に突然社内にまでモンスターが攻めて来たのである。

 

 本田も答えに困惑していた。


 なんせパニックになっている状況が勝手に救世主のおかげで騒動が収まってしまった為、情報の整理が追い付いていない。


 「田中さん。申し訳ないのですが先ほども話したように」

 

 「発表準備の最中に起こった事件でしたので」

 

 「それに社内にモンスターが乱入してきて日比谷公園まで対処する余裕もありませんでした」


 なにかおかしい。田中は本田の話に違和感を覚える。


 日比谷ダンジョンはA級クラスの評価がされてる迷宮だ。


 そこに生息しているモンスターがギルドのフロアまで攻めてきてたら、かなりの被害を出したはずだが、この本田さんは妙に落ち着いている。


 本来であれば自衛隊の派遣を国に要請していても、おかしくない状況だったはずだ。


 という事は社内の人間で対処し討伐したことになる。


 「本田さん。社員は全員無事だったんですか?」

 「おかげさまで、怪我も無く全員無事でした」

 「ただ一人だけ気を失っていた社員がいましたが怪我もしてないようです」


 「あそこはA級ダンジョンですよ!」

 「ここの社員はそんなに実力があるハンターが居るんですか?」


 「そこは私にも解らないのですよ」

 「社内では救世主と騒いでいる者もいますが」

 「なんせ、誰もその姿を見ていないので……」

 「救世主……ですか……」

 

 田中は港区支部に来て正解だと感じた。


 港区支部には何かある。あふれだしたモンスターはモブに近いレベルだったかもしれないが、A級ダンジョンである。


 「本田さん。その時の情報を詳しく教えて頂けませんか?」


 「情報提供の代わりにギルド運営の基本的な情報をこちらも提供します」

 「それは助かります。なんせうちは元々食品関連の事業しか手掛けたことがなく手探り状態でしたから」


 さらに、その時の状況を詳しく聞いた田中は、ついでに千代田区支部に向かう為、ギルドを後にしようと席を立ち本田部長と共に部屋を出た。


 「本田さん。今日はありがとうございました」

 「こちらこそ、運営のレクチャーを頂き感謝しております」

 「今後ともお互いに情報交換できると幸いです」


 挨拶を済ませ、ビルのロビーまで二人で歩いている時の事だった。


 偶然、麟太郎と浜崎課長が通りかかる。


 「あ!本田部長」


 部長と目が合ったので課長と共に軽く会釈をしたのだが、隣に見知らぬ人物を連れ立っていた。


 まぁ、ギルド発足の敬意訪問する来客の対応だろうと思いその場を離れようとした矢先。


 『バリン!ガシャーーン!』

 『キャァァァア』


 突然、一階ロビーの窓ガラスが割れ、モンスターが侵入してきた。


 どういう事だ?日比谷の迷宮は破壊したはずだ。


 何故、突然モンスターが現れる?麟太郎は困惑した。


 急いでOFF中のAIさんを呼び出し問いかける。


 (AIさん、これってどういう状況?)

 <今現在、状況を分析してます>

 (見た感じ日比谷ダンジョンのモンスターと似てるんだけど)


 いきなりの歓迎出来ない訪問者にフロア全員が先日の光景を思い出し身構えている。


 そこに居合わせた連中がそんなことを思い返している瞬間、視界がゆがんだ。


 <マスタ。フロア全体のエンカウントワールドです>

 (まじか。意味がわんない。なんで?)

 

 <分析終了しました>

 <この事態はダンジョンのバグによる、はぐれモンスターみたいです>

 <ダンジョンを構築する際、まれに発生する現象のようです>

 

 (でも、あれくらいのモンスターなら対処可能だよね)

 <問題ないです>

 

 そんな状況を把握している間に、モンスターが無差別に攻撃を仕掛けてくる。

 

 が、その攻撃が被害者に届く前に消え去って、空間から謎の光が迎撃し一瞬でモンスターを葬った。


 それを目の当たりにした田中が驚愕の表情をうかべ、確信する。


 「間違いない。ここにはとんでもないハンター。怪物が居る」

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