第26話 検査委員とテイマー
「課長。おはようございます」
「おはよう。あ、そうだ伊庭君」
「今日、実施する適正検査だが」
「検査員の数が少なくてね」
「是非、君に手伝ってもらいたいのだが……」
「え?僕ですか?」
何故だろう、なぜ課長は俺に?N先輩でも良いはずだ。
「うむ。君はステータスの適正云々より、人を見る感性に優れていると前から思っていた」
人を見る感性?
「ハンターっていう仕事は危険が伴う」
「そこを君の目で判断してもらえると助かる」
「なんせ私は釣り人だからね(笑)」
俺は課長に自分のステータスを見せてない。それなのに、この信頼は何故?
浜崎課長の考えに少し疑問を持ったが、上司の命令だ。従うしかない。
――――――――――――――――――――
ここは営業部にある第二会議室
『コンコン!』
「はい!どうぞ!」
「失礼します!」
「ああ。進藤君が来たか!なんか気まずいね(笑)」
「はい!よろしくお願いします」
麟太郎は会議室を利用して営業部の社員をステータス検査し、割り振りの判断を任されていた。
「じゃぁ進藤君、ステータスの表示をお願いします」
「はい!」
進藤晃一は自身のステータスを表示し、少し照れたような仕草をする。
「お願いします!」
「ステータスオープン」
『ヴィン』
■■■■■■■■■■■■■■■■
〖個体名〗:進藤晃一
〖属性〗:人間
〖種類職業〗:テイマー(調教師)
〖Level〗:10
〖経験値〗:4521
[next]:1548
〖HP〗:320
〖MP〗:300
〖攻撃力〗:150
〖防御力〗:256
〖魔力〗:300
〖アビリティー〗:テイマースロットⅠ
〖スキル〗:《交渉Ⅰ》《誘惑Ⅰ》
〖魔法〗:《テイムⅠ》
〖Cube Setting〗
slot.1:
slot.2:
slot.3:
■■■■■■■■■■■■■■■■
なるほど。テイマーか……。
これは……ちょっと厳しいかな。ソロだとテイムしたモンスターの強さ次第だしな……。
でもテイマースロットというアビリティーには興味ある。
これは以前AIさんにお願いしていた案件。
モンスターを圧縮して生きたままファイル化したいとアイディアを出していたのだが、彼は参考になる素材だな。
「進藤君、戦闘経験は?」
「あ、はい。住居近くのダンジョンと今回の日比谷パニックです」
「そっか」
「君は今回の日比谷パニックで戦闘したと?」
「無我夢中でした」
「一応テイムしたモンスターをすべて召喚したのですが」
「力なく全滅し、もう終わったと覚悟しました」
「そんな時に救世主が現れ、一命を取り留めました」
「なるほど……でもテイマースロットに強力なモンスターが居れば対応できたと?」
「そうですね。でも僕一人で強力な魔物をテイム出来ないですし……」
「ですが、今回の件で思い知りました。このまま、スライム飼ってスローライフが定番ですかね……」
オイオイ。君はこれからの日本を担う若き新入社員だぞ!?
一通り社会を渡り合った功労者が言うならまだしも、これからの未来を背負っている若者がスローライフだと?
「そうか……でもぶっちゃけ君はどうしたいの?」
「もちろん夢はありました!」
「神のギフトを得て、想像し、色々考え」
「自分の過去の黒歴史を塗り替え、この職業で最強になって無双したい!」
「そんな自分が、やり直しガチャで引いた能力」
「テイマー……」
「そのマザーのギフトによって、新たな希望が日々増幅してワクワク!としながら、低級ダンジョンで無双し…」
「その結果……今回の日比谷パニックで無力な現実を思い知り……ウルウル( ;∀;)……」
黒歴史の件が気になったが、少し涙腺が緩くなっている後輩の目を見て、どうにかしてやりたいと思うのは親心だろうか。
だが、彼は急激に成長した宮本優美クラスに覚醒する可能性も秘めている。(彼女は遠い方向に覚醒してしまったが・・)
「まあまあ、そんなに自分を否定しないで」
「君にも可能性はあるよ」
「神のギフトで戦闘も出来ない人達もたくさんいる訳だし」
「そんな中でもしかしたら最強になれるギフトを貰ったんだから」
「考えればなんか出来る!」
「でも……伊庭主任……どうすれば良いか分かんないですよ涙」
たしかに、テイマーは自分の実力でテイム(捕獲して調教)するのは至難の業である。
自分よりレベルの高い相手をテイムするには戦闘で相手を弱らせ、メンタル的にこいつには敵わないと思わせる事が必要になる。
したがって、圧倒的な実力差があるなら良いが、ステータスを見る限り弱いモンスターしかテイム出来ないであろう。
例えるなら彼の実力からして、ゴブリン程度なのかと推測する。
なので彼が我がギルドのハンターとして成長するにはパーティーメンバーの協力が必要になるのだが……。
麟太郎は思い切って彼に提案してみた。
「進藤君。1つ提案なのだが、俺のチームに参加しない?」
「え?伊庭主任のチームですか?」
この提案は双方にメリットがある。
麟太郎が考えているモンスターファイルの研究が出来る事、そして、進藤が欲する強力なモンスターの確保、双方に利益があるのだ。
「そうだよ。うちのチームは今回の日比谷パニックモンスタークラスなら」
「簡単に討伐出来る!」
「君にもメリットとなる提案だ」
進藤に断る理由は1つもない。むしろ、強力なモンスターをテイム出来るビックチャンス。
「是非!チームに入れて下さい!」
「わかった。でも一応チームのメンバーに承認を得る時間を頂戴ね!」
「はい♪よろしくお願いします!」
新しいメンバーが加わる土台が出来た。
彼の能力を調べる目的、それと同時にテイム出来る確率を調べる必要があったのだ。
なんせ、俺のゲーム知識通りなら良いが、謎だらけのマザーという、実際、本当に実在する人物なのか?もしかしたら誰かが作り上げた虚像なのか?
全く分からない魔訶不思議な力の持ち主が与えた【光の雨?……神のギフト?】
それを、世界中にハッキングしてまでも強行した設定である。
「じゃぁ進藤君。たぶんハンター登録になると思うので宜しくね!」
「はい!今回の面接が主任で良かったです!」
「悩んでた霧が晴れました!」
「有難うございます!」
麟太郎は考察を重ねる。マザーが発した〖人類の未来の為に。マザーより。〗
しかし、この設定に何か強烈な違和感を覚えた。
マザーという謎の存在。そのメッセージとなる真意は何なのか。
何故、異世界と現代地球を繋ぐカラクリの術を知っているのか?
AIさんの発言を思い返すと……一緒に行動を共にし、未来を一緒に追いかけたいと言っていたあの、発言が妙に引っかかり、この先にとんでもない事件が起こるのではないか。
いろいろな考察が入交り、在りもしない最悪な結末に不安を覚える。
もしかすると、我々人類の未来が抱える問題提起のようなものが在るのではないかと推測する自分が居たのだ。
しかし、進藤君のように未来に希望を託している若者もいる事は否定できない。
これは実験も含めた【神のギフト】の可能性に賭ける必要もあるなと。
そう考える麟太郎であった。
俺のメンバーに事情を説明し、今後の対策を含め相談しよう。
よし決めた彼はうちのパーティーメンバーになって貰い今後の参考資料になってもらおう。
麟太郎は直感した。テイマーの可能性とミステリー的な好奇心に。
――――――――――――――――
某ハンターギルドの関係者
「ここが港区ハンターギルド支部か……。」
受付に向かう謎の人物。
「あのー。港区ハンターギルドはここで良いですか?」
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