第25話 宮本優美の覚醒
緑色のゴブリンが次から次へと集まっってくる。
「麟太郎!こんなもんで良いか?」
「そうですね、約30体ってところでしょうか」
「い、いやぁぁぁあ~●×▽◇!」
「み、緑がいっぱい」
「気持ち悪いです~!」
ゴブリンの集団は最初、N先輩を目掛けて集まって来たのだが、その後方の宮本優美に気が付いた。
彼らの本能が無意識に発動する。
『ム、ム、ムラムラムラ・・・ムラ』
「キャーー!!キモっ!なんかムラムラした縄が!」
宮本優美に向かってムラムラした縄が飛んでくるが、麟太郎のスキルが飛び出す。
《トリプルエアシュラッシュ》
『ズバズバズバ』
あっけなく縄は彼女に絡みつく前に切断される。
《バインド》
『シュルシュルシュル』
『バチン』
ゴブリンはバインドによって縛り上げられ身動きが取れない。
N先輩のモーションエフェクトが発動したのだ。
さすがに、何回も麟太郎と組んで戦闘した経験がある先輩だ。
連携にも慣れてきている。
「さぁ!優美ちゃん」
「ステータス強化がそろそろ消える頃だ」
「上書きしてみよう!」
「は、はい」
「ステータス強化!」
『ブワン』
再びN先輩をオレンジ色のオーラが包み込む。
「よし!カウント始めるよー」
「は、はい」
「1,2,3,4,5……」
ステータス強化の効果を確かめる為、秒カウントが始まった。
「120、121、122……」
『シュン』
「あ。……オーラが消えた」
「効果時間は約2分だね!」
「もう一回掛けよう!」
「今度は120秒前で掛け直そうね!」
「はい!」
宮本優美はタイムをカウントしながら体内時計の訓練を行っている。
「そろそろ120秒だと思います」
「重ねます!」
「ステータス強化!」
『ブワン』
「おお!優美ちゃん凄いよ」
「今のは正確には110秒だったよー」
「10秒の誤差は初めてにしては上出来だよ!」
体内時計の感覚は繰り返し覚えるしかないので、最初の感覚がここまで合うと先が期待できる。
そしてある程度、繰り返したところで次のステップに移った。
「優美ちゃん。次はDoTをゴブリンに掛けようか」
「でも、いまステータス強化を掛けてますが……」
「うん。2つ同時に管理してみよう!」
これがバッファーの真骨頂だ。彼女には並行計算の要領でやってもらおう。
「は、はい。DoT!」
『ブワン!』
「ググ……グワ!!」
どうやらゴブリンにダメージが入ったようだ。紫色のオーラに包まれている。
「ステ 56,57,58」
「DoT 4, 5, 6……」
彼女は数えだした。凄い才能だと感心する麟太郎。
自分だったら全てをAIさんに任せるかもしれない。
N先輩も可愛い部下の行動に目を細めている。
「主任!85秒でDoTが消えました」
「再度掛けますか?」
「うん!よろしく」
「DoT!」
『ブワン』
段々と要領が良くなってきたな本当に頼もしい。
「115, 116」
「ステータス強化!」
『ブワン』
「2,3,4,5」
「79,80,81」
「DoT!」
『ブワン!』
2つ同時に管理している。完璧だ。効果が切れないように2つとも継続している。
やがてDoTを掛けられたゴブリンが体力が無くなり消えていった。
「優美ちゃん!初討伐おめでとうー♪」
「わー!私凄い!やったー」
まだ体内時計に多少の誤差はあるものの、仲間内のパーティーにこれだけ優秀な補助が居ると嬉しい。
(まるで秘書だな!スケジュール管理が優秀)
<私では不満だと?>
(んな事、言ってねえよ)
(お、お、俺にはAIさんが居るからアレだけど)
(ほら!他のパーティーメンバーが……)
<すこし、ドモってません?>
(ちがう!まったくちがうから!)
いつのまにか尻にひかれている。まったく哀れだ。
――――――――――――――――――――
「よーし!優美ちゃん」
「もう慣れてきたね!」
「はい!嬉しいです♪」
「じゃもう1つ!次の段階に行ってみよう!」
「主任と次の段階!わーい♡」
またなんか勘違いしているみたいだが、そこはスルーして、彼女の今後を左右する訓練を行う事とする。
「今度は3つの能力を管理してみよう!」
「今残ってるゴブリンは1体だから」
「先輩のバインドを解除してもらうね」
「こっちに向かって来るけど大丈夫?」
「怖いけど頑張ります!」
「いくぞーGO!」
「はい!」
「リストレイン!」
「DoT!」
「ステータス強化!」
「あは♡」←先輩
「1,2,3,4」
これは……どう見てもN先輩が、おっしゃってたアレと類似する。
リストレイン→亀甲結びで縛り上げ。
DoT→ロウソクを垂らし。
N先輩にステ強化→鞭で喜ばす。
そんなプレイで放置され、天国に逝ってしまう悲しいゴブリンの末路。
もしかしたら、俺が彼女のキャラを今後、変えてしまうかもしれない。少し不安になる麟太郎であった。
――――――――――――――――――――――――
ここは…………ゴブリンの迷宮。
洞窟のような薄暗いじめじめした空間。
その壁には所々に水晶が浮き出し水が滴り落ちている。
そんな洞窟の片隅に、テーブルセットが置かれていて、優雅に紅茶を楽しんでいる人物が……。
宮本優美である。
その近くで身動きできない巨体のモンスターが1体。
苦しみながら絶命の時を待っていた。
このダンジョンで巨体のモンスターといえば、そう、ゴブリンジェネラルである。
「主任!今日は楽しかったです!」
(DoT!)
『グワッ』←ジェネラル
「そ、そうだね汗」
「係長も盾になって貰って有難う御座いました」
(リストレイン!)
『グワッ』←ジェネラル
「お、おぅ。どういたしまして……」
「主任!このクッキー♡美味しいですね♪」
(DoT!)
『グワッ』←ジェネラル
「あ、ありがとう汗」
「そういえば明日のステータス検査どう・・・」
(リストレイン!)
『グワッ』←ジェネラル
「・・なるんですかね主任はどうするんですか?」
「う、うーん。まだ考えてなかった汗」
『ウグワアァァァxxx…………。――――――』
『シーーーーン…………。』←ジェネラル
「あ。死んじゃったみたいですよ」
「そ、そうだね汗」
彼女は覚醒してしまった。バッファーとしての才能が開花し、ダンジョンボスをもソロで倒すほど成長したのである。
しかし、まるで主婦が昼ドラを見ながら電話している、あの壮絶な光景が重なってしまう。
女性というものはドラマの内容も把握しながら電話で話が出来る生き物で、いつも思うのだが、脳が2つあるのかな?と思ってしまうことが多々ある。
本当に不思議な生き物だ。そして、いつのまにか強くなっていく。
あの華細い華奢な……両手を広げ、はかなくも精一杯の勇気を振り絞って〖あなたを私が守ります〗と言ってくれた彼女は、もう…………。
ジェネラルの討伐と共にダンジョンが一時機能停止になり、迷宮を後にすることとなったが、もう夜も更けている。
宮本優美が麟太郎の自宅を訪問したいと駄々をこねていたが、電車も無くなるという理由でN先輩に引き取ってもらった。
――――――――――――――――――――――
◇◇とある某ハンターギルド◇◇
「なに?日比谷のダンジョンが消滅しただと?」
「なにを言ってるんだ?あそこはA級ダンジョンだぞ」
「なにかの間違いだろ」
「神のギフト以前からこの力を習得している我らでさえ、攻略できるのは極僅かに限られている」
「もっと詳しく調査しろ」
「ですが、どこのギルドも発足したばかりで専門的な情報さえ持っていないのでは」
「お前……そんな消極的な事言って大丈夫なのか?【あの方】に消されるぞ」
「い、いえ。そんなつもりは……」
「すぐ、日比谷に飛びます」
某ハンターギルドの関係者は早速、足早に東京へ向かった。
「日比谷ダンジョンは我ら組織の重大なキューブを獲得するチャンスだったのに」
「一体誰が……」
男は少し考えた後、携帯を取り出して通話を始めた。
「あ、もしもし、警視庁の○○さん。実は………………」
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