第24話 宮本優美の能力

 少し錯乱状態になった麟太郎だったが、ついに固まってしまった。


 (心頭を滅却すれば火も亦涼し)

 

 多分、精神統一の為に10分は要しただろう。


 その間、動かなくなった彼に皆、心配したが…………急に動き出した。

 

 「おわっ!!びっくりした!急に動き出すなよ麟太郎」

 「主任@@大丈夫ですか??」


 「あ……。先輩。優美ちゃん。西野さんまで」

 「もう、俺は大丈夫です。しっかり生きていきます!」

 「まだ人生はこれからなんで(笑)」

 

 なにを言ってるのか、そこに居る全員がキョトンとするが、とりあえず動き出したので、まずは安心する。

 

 本人も気を取り直してなんとか正常の精神状態に戻ったようだ。


 そして西野今日子と別れゴブリンダンジョンに向かう事となった3人。


 歩きながら宮本優美のステータスを確認した。

 

 「ステータスオープン」

 『ヴィン』


 ■■■■■■■■■■■■■■■■

 〖個体名〗:宮本優美(みやもとゆみ)

 〖属性〗:人間

 〖種類職業〗:補助魔法士(バッファー)

 〖Level〗:2

 〖経験値〗:20

 [next]:40

 〖HP〗:50

 〖MP〗:30

 〖攻撃力〗:12

 〖防御力〗:10

 〖魔力〗:80

 〖アビリティー〗:”スリップダメージDoT Ⅰ”

 〖スキル〗:《リストレインⅠ》拘束

 〖魔法〗:《ステータス強化Ⅰ》

 〖Cube Setting〗

 slot.1:

 slot.2:

 slot.3:

 ■■■■■■■■■■■■■■■■ 

 

 「なるほど!バッファーだったのか」

 「なんだ?麟太郎。バッファーって」

 「これ、面白い職業なんですよ」


 「味方に(バフ)強化魔法などを掛けてくれるんです」

 「敵に対しては(デバフ)異常状態魔法を掛けます」

 「遠くから参戦出来るし応援型の職業ですね」

 「優美ちゃんにはピッタリかも」


 「あは♪主任に褒められると」

 「う、嬉しいです♡」


 立ち直りの速い宮本優美であったが、この職業は本当に便利なのだ。

 

 まず、戦闘において自身の危険性が低い事だ。攻撃の届かない遠距離に配置できる。

 

 そして、戦闘の状況に応じて味方の数が多いほど全体の攻撃力を上げることが可能。

 

 敵の数が多い場合でも、異常状態の魔法を掛けることで相手の攻撃を半減出来る。


 「優美ちゃんこれは期待できるよマジで!」

 「それと日常的に得意なことってなんかある?」


 「んー。そうですね……」

 「しいて言うなら暗算ですかね」

 「そろばん習ってたし」

 「複数の計算なんかも同時に出来ますね」

 「学生の頃、数学のテストとかは2問まとめて暗算してました(笑)」


 これは凄い。もしかしたら神のギフトより凄いかもしれない。

 

 バッファーは複数の味方の管理や、敵への異常状態を管理しないと成り立たないのだ。


 「よし!決めた」

 「先輩!今日は優美ちゃんのための強化訓練にしますよ」

 「お、おぅ……」

 「わーい♪やったー♪」


 ――――――――――――――――――――


 東都大学付属高校 体育館前


 「麟太郎。ここか」

 「はい。体育館の入口が迷宮の門です」

 「こんな警備のなか入れるんですか?」

 「問題なし!さあ準備するよー」


 麟太郎はそう言うと早速、左腕を動かした。

 

 銀色に光りはじめ、周辺の視界がユラユラと揺れ始める。


 《インビジブル》


 3人は周りの風景から完全に消えた。


 「主任これって私たち透明になってるんですよね」

 「そうだよ。このまま入り口に向かおう」


 ゴブリンの迷宮はいつも通りの景色である。

 今回は宮本優美の能力の強化がメインだ。


 「さて、一応念のためですが」

 「ゴブリンといっても何があるか分からないので」

 「皆さんにはトンボに護衛を付けて、保険を掛けておきます」

 「俺はなるべく参加しないので」

 「二人で連携を取ってください」


 宮本優美の能力は補助系なので、N先輩が前線でタンクになって貰い、彼女の能力の練習台になって貰う事とした。


 「先輩。タンクをお願いします」

 「了解」

 「えーと優美ちゃんはまずステータスのキューブスロットにスキルなどを全部セットしてね」

 「はい!」


 セットが終わって、あらかじめ使い方を説明する。

 同時にコンタクトをOFFにしていたAIさんを呼び出していた。

 

 (AIさん補足を頼む)

 <かしこまりました>

 


 「主任、スキルとかの効果が全く分からないのですが……」

 

 「よし、まず魔法欄に表示されてる 《ステータス強化》だね」

 

 「これは先輩のステータスを均等に20%アップする強化!」

 「試しに発動してみて!」

 

 「はい!す、すてーたすきょうか!」


 『ヴワン』


 その瞬間、N先輩にオレンジ色のオーラが纏わりつく。


 「おお~宮本!なんか力がみなぎるぞ!」

 「私ってすごい!」


 社内でも良くある事例だが、現場の空気を良くしてくれる存在、明るくて笑顔が素敵で聞き上手で、その子が居るだけで仕事がはかどる。

 

 あると思う。

 

 別に恋愛感情とかそんな浅はかな理屈ではなく、居てくれるとパワーが増す!そんな元気を貰える女性社員。

 

 あると思います。


 そんな事を思いながら彼女の能力に興味を持つ麟太郎であった。

 

 宮本優美は先の事件の時、自身の能力が理解できなく、使用するのを自粛していたようだ。


 そんな彼女の未来を解放してやろう!

 

 これから実践訓練のためAIさんのナビの元、使用方法を享受する。


 「よし、次はアビリティー欄のスリップダメージの説明するよ!」

 

 「これは敵に毒のようなダメージを少しづつ与えていく能力なんだ」

 

 「敵のステータス欄のHP(体力)が一秒ごとに少しづつ減っていく」

 

 「通称DoT 〖Damage On(Over) Time〗と言って」

 

 「倒すのには時間が掛かるけど確実に相手の体力を消耗していくんだ」


 「でも主任。時間かけてたら敵が近付いて来て、私も襲われちゃいますよね」


 そうなのだ!ここが弱みとなるデバッファーの欠点なのだ。宮本優美の意見も最もだ。だが…………。

 

 彼女には、デバフを相手に付与した後の時間経過、という弱点を補う素晴らしいスキルがあったのだ。


 「そこは安心して!優美ちゃんにはデバフ 《リストレイン》がある」

 「このスキルは相手をその場に拘束出来るんだ!」

 

 「マジで凄いよ!優美ちゃん。DoT入れて拘束して、逝く(死ぬ)まで放置プレイ(笑)」


 それを聞いていたN先輩が口を挟んできた。

 

 「まるで亀甲結びで身動きできないオッサンにロウソク垂らして見てるだけのプレイだな。麟太郎!」


 「Sぉぅ……。Mぁぁ。……せんぱいの趣味はアレですけど……」

 

 「ざっくり言うと……そぅ・まぁ・アレですね、そんな感じです……」

 

 「???主任……?」

 「主任は……私が見てれば満足するんですか?亀甲プレイって?なに?」

 「主任は……。 縛って……ロウソク?」

 

 「優美ちゃん。そこは華麗にスルーしようね。まったく違うから」


 そんなことはさておき、実践モードに入るメンバー。

 いざ進もうと歩き出した途端、N先輩の強化オーラが消えてしまった。


 「あれ?力が元に戻ったぞ?」

 「先輩、安心してください」

 「優美ちゃん。もう一度掛け直して」

 「え……?はい。ステータス強化!」

 

 『ヴワン』


 再びオレンジ色のオーラがN先輩を纏った。


 「どういうことだ?麟太郎」

 「バフには効果時間が有るんですよ」

 

 「使用者のレベルや熟練度でバフを掛けてから何秒とか、時間が決まってます」


 バッファーの難しいところはその効果時間の管理なのだ。

 

 戦闘中に効果時間が切れてしまうと、突然ステータスが元に戻ってしまい、動きに支障がでる。


 なのでバッファーは効果時間が切れる前に、重ね書きのようにもう一度効果を掛け直す必要があるのだ。


 宮本優美には、それが出来る素質がある。


 なぜなら並列計算が出来るのだ。


 後は時間の管理、体内時計を秒単位で把握できれば完璧である。

 

 味方にしてみれば、常に自分の身体能力が20%もアップした状態で行動できるのだ。


 「優美ちゃん。今日は自分の発動した能力の効果時間を把握しようね」

 

 「え、と、一秒、二秒、って数えるって事ですか?」

 「うん♪正解」

 

 「でも……効果時間が過ぎて係長がダメージ負ったりしませんか?」


 「先輩は……なんと言うか……それが趣味みたいなので」

 「むしろ効果時間が切れて叩かれた方が喜ぶかも(笑)」


 「おい麟太郎……マジお前さ……。言っていい事と、逝って♡イイ事があるぞ♡」


 (先輩……。それは相手にもよるじゃないデスか……相手、そっち系のプロじゃなくて、ゴブリンですよ)


 「優美ちゃん。気にしないで!先輩はHPお化け&ドMなので」

 「ってかゴブリン程度、100体出てきても壊れないから(笑)」

 

 「あは♪それなら思う存分、練習させて貰います!」

 

 「よし!行きますか」


 『アオォォォォオオ――ン』

 「キャ!びっくりしちゃいました」


 その号令と共にN先輩がアビリティー”遠吠え”を使用する。

 効果抜群で緑の群衆、ゴブリン達がワラワラと集まって来た。

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