第23話 救世主と修正主
救世主?浅田ならツタンカーメンになっていたから違うとは思うが……。
そんな実力者が我が社に存在するのは頼もしい限りだ。
「課長、その人はうちの社員なんですか?」
「社員なのは間違いない」
「実際、その時モンスターが社内に入り込んできたんだよ」
「フロア中が大パニックになってしまってね」
「大騒ぎになったんだよ」
なるほど、自社ビル内には関係者しかいないはずだ、部外者の一般人は限られている。
知らない人間が救世主なら一目でわかるはずだし。
「誰かその人を見かけてないのですか?」
「それが、不思議なんだが……」
「誰も救世主の姿を見ていないと?」
「うむ」
どういう事だろう。わざわざ姿を隠す必要があるのだろうか。
「課長は戦闘を見ていなかったのですか?」
「いや、実際私も襲われているところを助けてもらったしね」
「その時の状況を詳しく教えて頂けないでしょうか」
なにかおかしい。課長が嘘を言ってるメリットがないし、ギルドとなった今、実力あるものを隠す必要もない。
「私が襲われそうになって魔法攻撃が飛んで来たんだが」
「なぜか不思議な事に魔法が空中で吸い込まれるように消えてしまい」
「直接物理攻撃を仕掛けた相手が目の前で弾き飛ばされてしまったんだ」
「その後、空中から光のような物が飛び出しモンスターを討伐してしまった」
「誰かが助けてくれたのかと周りを見渡したが誰も居ないし」
「だが助かったのは事実だしね。たぶん社員の誰かだね」
見えない味方。空中で消える。空中から攻撃。
ん?ちょっと待てよ?それって……あ!
「麟太郎、それって……あ!」
「……あ! 主任」
「あ!」
それってトンボの事か。100体のトンボを社内に配置していたのを忘れていた。
2人はトンボの恩恵を受けていたのですぐに気付いたようだ。
「ん?君たち、何か知っているのかね」
「あ、い、いや、勘違いでした(苦笑い)」
「あははは」
なんとか課長を誤魔化し、自分が対策用に置いていたボディーガードの存在をうっかりしていた麟太郎であった。
「しかし、不思議な事に他のフロアでも同じ現象が起こっていたんだよ」
「複数人の救世主が居ることも考えられる」
やはりそうだ。トンボの仕業だ。
「そうでしたか。課長も大変な目にあったんですね」
「また詳しい情報が上がったら僕たち部下にも教えてください」
「分かった。そうするよ」
そんな会話が終了したタイミングで同じ営業部の部下【進藤 晃一(しんどう こういち)】が話しかけてきた。
彼は今年入社したばかりの新入社員だ。
「伊庭主任。お疲れ様です」
「お、進藤。君も無事だったんだね」
「はい。なんとか助かりました」
「主任たちが課長とお話の間、部長の方から通達がありまして」
「部署ごとにステータス検査を実施するのですが」
「営業部は明日になるそうで」
「本日はこのまま解散するという事らしいです」
「そっか。わざわざ知らせてくれてありがとう」
「いえ。では失礼します」
好青年である。今時めずらしい位に礼儀正しい若者だ。将来が楽しみだ。
――――――――――――――――――
麟太郎は帰宅の準備を整え席を立つ。
タイムカードを打刻し、フロアの出口に向かおうとしたところN先輩たちが付いてくる。
何故?だろうかと振り返り、理由を聞いてみると。
「先輩?どうしたんですか?」
「さぁ。麟太郎。行くぞ」
「え?どこに?」
「決まってんじゃねえか!お前の家の近くのダンジョンだよ!」
そういえば約束していた事を思い出し、さすがに観念する。
「ふう、そうでしたね。分かりました」
「私も行きたいです♪主任の家♪」
家?なにか勘違いしている宮本も一緒に連れていくことになった訳だが、まぁ、それぞれ自分の身を守るための訓練になるなら仕方ないか。
ダンジョンのリポップにはまだ時間があるため近くのレストランで食事を採る事に。
その際、2人の今後の成長過程を話し合う予定にしてたのだが……。
「主任、この店の料理、美味しいですね」
「そうだね。ここの料理長と仲良くてね」
「たまに色々教えてもらったりしてるんだ」
「納得しました♪」
「だから主任、料理が上手なんですね♪」
「だだの趣味だよ(笑)」
「ところで麟太郎」
「これから行くダンジョンだけど」
「なんで破壊しないで放置してるんだ?」
「低レベルの初心者用ダンジョンですからね」
「チュートリアル的な練習に丁度良いと思いまして」
「それに、俺が定期的にボスを討伐していますから」
「スタンピードが起こる心配もありません」
「普段は警察が管理してるんですよ」
「KEEP OUTの黄色いテープ張って」
「なので一般人は立ち入り禁止です」
「じゃ俺らも入れねえじゃねえか」
「心配いりません」
「能力を使えば簡単に侵入できますから(笑)」
そのうちハンターギルド中野区支部が管理する事になると資格を持ったハンター達が集まって来るだろう。
「んで。優美ちゃん」
「はい♪」
「ダンジョン行く前に君のステータスを把握して置きたいのだけども」
相手は変態ゴブリンだからな。
万が一のことも考えておかないと……。
西野美咲のように捕まったりしたらムラムラした縄が飛んでくるからな……。
「あは♪気になります?」
「ハイ。……トテモ気になります」
「え。ウソ……。主任……に……今ちょっと塩対応されてしまった……(´;ω;`)ウゥゥ」
「え!!」
突然、涙目になっている宮本優美の反応に困惑してしまった。
今の話の下りでなんかあった?
女性は相手の反応を本能的に見破る。
返事が上の空な男性に対してかなり敏感な生き物なのだ。
(ちょっと待って!ちがうのだ。まったくちがうのだ。)
俺は真剣に考えてて、そう、あれだ!例え低レベルダンジョンだろうが仲間に何かあったら大変なので、深く考えてる最中に何気なく反応しただけなのだ。
誤解だ。優美ちゃん。それは誤解なんだよ。
話しの流れを修正しないと。
「あ、あの優美ちゃん……」
「それはちょっと誤解で……」
「ちょうど優美ちゃんに聞いた時、先日ダンジョンで襲われていた女性がいて」
「ゴブリンに捕まっていた光景を思い出して」
「その事と丁度重なって」
「まじめにステータス確認しておかないと守れないなと……」
「ごめん。質問しておきながら他の事考えてしまって」
「まあまあ。麟太郎も宮本の事をまじめに考えてた結果だから」
「ほら。ティッシュ」
「……はい。 グスッ。 」
麟太郎は必死で取り繕って宮本優美をなだめている。
そんな説明をしていると、見知った顔の女性が入店してきた。
『いらっしゃいませ!』
向こうも気付いたみたいで、声を掛けられる。
「あ、伊庭さん!どうも!」
声を掛けてきたのはなんと、お隣さん(西野美咲の姉)西野今日子だった。
「あ、西野さん!こんばんわ!」
「西野さんも、こちらでお食事ですか?」
「はい。仕事が忙しくて作る暇もないもので(笑)」
「主任。こちらの、お綺麗な方は?」
いつの間にか立ち直っていた宮本優美が参戦してくる。
「あ、みんなにも紹介しますね」
「俺の家の隣に住んでいらっしゃいます西野さんです」
「西野さん。この2人は会社の同僚です」
「中村猛です♡♪」
「み・や・も・と・です。……ニコッ。」
「ビクッ!……初めまして!西野と申します!」
「あ~。そういえば伊庭さん。妹の為に有難うございます♪」
「え?」
ダンジョンの事がバレたかと思い一瞬焦る麟太郎。
「子猫ちゃん。可愛いですね」
「妹も喜んでました」
そっちか。バレてなくて良かった。
「イヤなんかすいません。いきなりペットなんかプレゼントしちゃって」
「いえいえ。マンションはペット可ですし」
「本人も一緒にお風呂なんか入ってるし、気に入ってるみたいですよ♪」
(え)
(なっ!……っ! なにぃ―――!!)
(Japanese "furo" its ●×♡▽■ ets. )
( Presented by Porn. ……oh ! yes.)
(oh! yes. じゃ・ないだろっ!!)
(お……風呂ぉda!!……だとぉぉお!……yes.)
(ha ha……そういえば遠隔操作をOFFにしたままだったからアレだけど、い、……い、一緒にお風呂だと!?)
(いかんですよ これはsasugani いかん)
(まったく いかん)
(うん。まったくけしからん。いかんですよ)
麟太郎は少しだけ、チョットほんの少しだけ我を忘れてしまった。
「あはは。それは、いかn……」
「ゴホン、失礼」
「それは、いか……nったです!(よかったです)……」
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