第22話 会社の重大発表

 (まぁとりあえず先輩たちを呼び戻すか)

 <かしこまりました>


 『スゥーー』

 麟太郎の影から先輩と宮本が現れた。どうやら影の中から観戦していたようだ。

 

 「主任!すごかったです!勝ちましたね!」

 「なんとかね(笑)」

 「お前さ、倒し方がえげつないな」

 「主任のポーズ!カッコよかったです♡」

 「ごめん。忘れてくれ。」

 

 「ところで浅田は?」

 「あいつは失神したままか(笑)」

 「幸せそうな寝顔してんな。起こすか?」

 「いや。そのままトンボに会社まで運ばせます」


 麟太郎はトンボに命令し、数体のトンボが浅田の体を引き上げた。

 

 仰向けのまま、安らかな眠りについている御神体をダンジョンの出口に向かって粛々と運んでいく。

 

 後に聞いた都市伝説ではあるが事件の後、あの争乱の中で数々の目撃情報などが上がっていたそうだ。

 

 会社員風でスーツ姿の男性がエジプト文明で、かの有名なツタンカーメンを連想させるくらい神々しく、まさに永遠の眠りについてるような姿で横たわり、浮遊移動していたなどと噂話が飛び交っていたという。


 とりあえず、ダンジョンコアを破壊しておかないと日比谷の騒乱は収まらない。

 

 さっそくコアの詮索に動き出した。


 (AIさん。ダンジョンコアって何処にあるの?)

 <南西500メートル程の地点に反応があります>

 (よし、行くか)


 「先輩!移動しますよ!」

 「コアか」


 目的地へ到着するまでの時間を有効に使うため麟太郎はトンボに命令し、数万個以上は散らばっているであろうギフトキューブの回収を指示した。

 

 普段なら険しい森の中を散策しながら進むのだが、幸いあの全体攻撃による環境破壊で障害物が一切無くなり、直線的にダンジョンコアに向かうことが出来たのだ。


 辿り着いたその場所は神秘的な神殿のようである。

 

 中世ヨーロッパ的な彫り物をほどこした石柱が何本も立っていて、その中央の石板を張り詰めた台座の上に祀るように置かれたキューブが鎮座していた。


 「ここか。なんか神聖な感じがする」

 「麟太郎。ここは何なんだ?」

 

 「ダンジョンの核というか、こいつがダンジョンを生み出しているようです」

 「さっきのビッグスパイダーがダンジョンボスだったと思います」

 「政府の発表ではボスを倒すだけではダンジョンの機能は消えないみたいです」

 

 「主任。あのキューブっていうのは?」

 「この前の隕石がばら撒いたダンジョン生成キューブらしい」

 「ってことは、こいつを破壊するしかスタンピードは収まらないって事だな」

 「その通りです」

 

 「どうやって破壊するんですか?」


 (AIさん。破壊方法は?)

 

 <物理、魔法、モーションエフェクト、などの攻撃系の力ならなんでも可能です>

 

 <強度的にはクリスタル(水晶)を破壊するくらいの力で十分です>


 「優美ちゃん。やってみる?」

 「え?」

 「壊すとかそんなこと無理です」

 「先輩は?」

 「麟太郎。これはお約束か?」

 「俺がヤルと絶対なんかあるぞ間違いなく」


 さすが連敗マスター。

 「……わかりました。先輩バット借りても?」

 「貸す貸す。いっぱい使ってくれ!」

 「ありがとうございます」

 「では!」

 

 躊躇なく振り上げたバットで勢いよく振り下ろした結果、ダンジョンキューブはあっけなく粉々に砕けてしまった。

 

 ダンジョンコアを破壊した瞬間、目の前の空間が歪みだし、そして普段通りの日比谷公園に戻っている。

 

 さらに、街にスタンピードを起こしていたモンスター達も一瞬で消え去った。


 ――――――――――――――――


 

 「麟太郎!元の日比谷公園だぞ!」

 「そうですね。どうやらダンジョンは消滅したようです」

 「ふう、一安心ですね」

 「さて会社に戻りますか」

 「よし、莱夢!ご苦労様」

 「では私はこれで。」


 AIの分身体であった相須来夢は麟太郎の左腕に戻っていく。

 

 説明は受けていたのだか、その不思議な光景に唖然とする中村と宮本であった。


 「しかし、麟太郎。この先、浅田の対処どうすんだ?」

 「私は主任が色々と言われるの納得いきません!」

 「まぁ、今に始まったことでも無いですし」

 「これまでと同様に受け流しますよ」


 2人が心配してくれるのは分かるが、俺としたら別に気にしてない。

 

 同期入社してから最初の頃は意外と仲が良かった時期もあったからだ。

 

 ただ、ある事件が起きるまでは……。


 「そうか。あまり無理すんなよ麟太郎」

 「…………主任」


 何故か宮本優美だけは納得いかない表情を浮べていた。

 

 彼女はこれまでの麟太郎のやってきたことを尊敬していたから余計に腹が立ったのかもしれない。

 

 「……。主任!わたし決めました!」

 「え?」


 「怖い人からあなたを守ります!キリッ!」

 

 なんか両手を広げて防波堤のように守るような仕草をして、聖母マリア様のような表情で見つめる宮本優美の姿があった。

 

 (油断した。ちょっとカワイイ)


 「あ、ありがとう優美ちゃん」

 

 何を突然言い出したのかと困惑する麟太郎であったが、キリッっと言い切った背景には、たぶんあの浅田の物言いに憤慨していたのであろう。

 

 だがそんな、華細いながらも自分を守ろうとしてくれる振舞いと優しさに少し心を打たれる35歳であった。


 会社に戻った3人は事件後、落ち着きを取り戻した社内に安堵する。

 

 同僚に話を聞いたところ、合同会議室フロアに社員が集まってる様子。


 「麟太郎。あれかな?部長の言ってた発表ってやつ」

 「たぶんそうでしょうね」

 「会議室、行きますか」


 フロアには全社員が部署など関係なく集められている。

 

 営業部の部長どころか社長含め役員たちも同席していた。

 

 そんな重々しい雰囲気の中、代表して我が営業部の本田部長が最初に説明するようだ。


 「えー皆さん、先ほどの混乱の中、社員の皆さんに被害も無く無事だったことに安堵しております」

 「この度、我が社は重大な決断をすることになりました」

 「これまでの事業を撤退し新たな業態に参加する事と決定致しました」


 部長の発表を受けてフロア中がざわつき始める。


 「新たな業態とはギルド創設です」

 「わが社は国家が運営するギルド港区支部となります」

 「皆さんの業務に関しては各部署の長から詳細を伝える事となっております」

 「初めての業態で困惑している事は重々承知していますが」

 「この世界情勢を鑑みて皆さんの力を貸していただけると幸いです」

 「どうかよろしくお願い致します」



 とんでもないことになった。

 一介の食品関連の企業がギルドを創設したのだ。


 「おいおい。まじか」

 「これは、想定外でしたね」

 「主任……」

 「しかし、なんでうちの会社が?」

 

 部長に代わり社長から説明が続いていた。

 

 国が我が社を指名した理由の1つが会社の立地である。

 

 ギルドに登録するハンター達のアクセスの良さと他のギルド支部との距離感のバランスなどを考慮し決めたようだ。

 

 そして、もう1つの決定的な理由が食品関連の流通網だ。

 

 他の専業的な会社の流通網より生活に特化した食品類の流通システムが他のギルドとの連携に合理的だと判断したようだ。


 説明会も終り、再び営業部のフロアに戻った3人であったが、今後の身の振り方に不安を覚える。


 「浜崎課長。今後の私たちは何をすれば良いのでしょうか?」

 「そうだね……まずは2つの団体に分ける事となりそうだ」

 「2つの団体?」

 「それは、事務系を行うギルド職員とダンジョンを攻略するハンターに分ける事だ」


 課長の説明では例の光の雨〖神のギフト〗によって与えられたステータスに答えがあるみたいだ。

 

 全ての社員のステータス検査を実施し、ハンター適正を見極め辞令を出す方針である。


 「では課長もハンターになる可能性が?」

 「私のステータス職業は釣り人だからねぇ」

 「なんの役にも立たないよ」

 「本田部長もたしか農家だったからギルド職員として皆のまとめ役だろうね」


 部長も課長もギルド職員確定で安堵した。

 

 ハンターになったら常に生命の危険に晒される。

 

 世話になった上司に先立たれるのは夢見が悪い。

 

 しかし、うちの社員にまともなハンターが現れるのか?浅田?


 「だが、うちの社にとんでもない実力のハンターが誕生するかも知れない」

 「課長?どういうことですか?」

 「君たちは先ほどのスタンピード中に社に居なかったようだが」

 「謎の救世主が現れたんだよ」


 救世主?…………。

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