第21話 日比谷ダンジョン④

 ビッグスパイダーは麟太郎の深淵を極めた挑発にちょっと違う怒りを覚えていた。


 そんな中二病の疑いがある彼に翻弄され怒りに任せた物理攻撃をしかける。

 

 しかし、麟太郎は強烈な攻撃を紙一重で避けカウンターぎみにトリプルエアスラッシュを打ち、ヒットアンドアウェイ戦法で蜘蛛の化け物に浅い傷を負わせていく。

 

 奴はイライラの頂点に達したのか、それとも言葉責めに激怒したのか、生理的に激怒したのか理由は判らないが、かなり御立腹の様子だ。


 いきなり全身の毛が逆立ち高温の湯気が立ち上がり、震えながらワナワナと口元が動いたかと思った瞬間。

 

 突然周りの空気を吸い込み、激しい怒りをぶつけるかの如く怒涛の轟音と共に大量の酸を吐き出した。


 「奴のスキル《吐酸Ⅰ》か」


 酸の液体が消防車のホースから飛び出してきて、まるで暴れる放水車のように酸が飛んでくる。

 

 障害物として利用していた周りの木々も酸により溶けだし、それもまったく意味を成さなくなっていった。

 

 麟太郎は咄嗟にバリアキューブを1枚の太陽パネルのように変形させ盾とし、咄嗟に防御態勢をとる。

 

 それにリンクしている他のトンボのバリアキューブも先輩達を守るように太陽パネル型に変形していくのだが不思議なことに気付いた。

 

 なぜか糸で繭みたいにぐるぐる巻きにされている浅田にはリンクが反応しないようだ。


 「なるほど、奴の糸には酸の耐久力があるみたいだな」


 そんな事を考えながら対処していたけが、もうすぐAIさんの演算が終了する時間になる。

 

 AIの分身である【相須莱夢】の体が銀色に光り始めた。

 

 <アプリケーション演算終了まで10秒>

 <同時にインストール作業も行います>

(よし!頼むぞ)

 <カウントダウン>

 <5>

 <4>

 <3>

 <2>

 <1>


 <モーションエフェクト起動>

 <ME《影支配》Shadow type”潜”>


 莱夢の銀色の輝きに目を奪われていたN先輩と宮本優美、そして浅田の地面にボンヤリ映し出されている影が僅かながら動き出し、波紋のように波打つ。

 

 ――スカイプ――

 [先輩!優美ちゃん!]

 [今から安全の為に自分自身の影に隠れてもらいます]

 

 [あぁぁ?マジ意味が分からないぞ?]

 [影を利用した魔法みたいなものです]

 

 [地面に映し出されている自身の影に潜るんです]

 [主任!何となく理解しました。ユータがよく言ってました]

 [忍者影移動みたいなアレですよね(^▽^)/]

 

 [……ま。まぁ。そうだね……そんな感覚で……]

 

 [おい。まさかとは思うが麟太郎……お前……もしかして、ちゅうに]

 [あぁぁぁわああ!何言ってんですかこんな緊急事態に!]

 

 [オットそうだったな。で、どうすればいい?]

 [プールの水に飛び込む感覚と同じ要領でお願いします]

 [おk!よっしゃ飛び込むぞ!]

 

 [私は足から!]

 [いっ せーの]

 [せ、せーの●×▽]


 〖ドボン!〗という水しぶき音と同時に二人の体が影の中に消えていき、そして影さえも消えていった。

 

 ついでに不本意だが一応浅田の救助もやっておかないと後でめんどくさい事になるかもしれないと思い、しぶしぶと行動に移す。

 

 麟太郎は左腕をバルカン砲にトランスフォームし、ビックスパイダーを牽制しつつ右手にアサシンタガーを持つとスキル《トリプルエアスラッシュ》を発動して浅田が吊るされている糸の上部を切断する。

 

 切り離され落ちていく浅田の体が自身の影に飲み込まれていき地面に消えた。


(よし!これで思いっきり戦えるぞ!)

(AIさん次の準備を頼む)

 <承知しました>

 <発動まで30秒>


 AIはそう言い残し、擬態の相須莱夢が変化しはじめた。体が銀色に輝きドロドロと溶けるように液体金属になり、自身の影に同化して消えていく。

 <発動まで20秒>

(了解!もう少しだな)

 

 そう返事をしながら片目スカウターを装備し、ターゲティングシステムVer.1.2.1を起動。

 

 このバージョンは以前からボス戦を想定して準備し、インストール済であった。

 

 多数の敵対策とは逆に、巨大な個体を複数部分的にロックオンできるシステムを追加したプログラムである。

 

 「複数同時にロックオンするぞ」

 「脚8本」

 「目6っつ」

 「口に照準」


 赤く光った照準線が各所にロックオンしていった。

 

 「じゃぁ後はトンボにお願いするかな」


 仲間達を守っていたトンボが一斉に散開しながら攻撃態勢に入った。

 「撃て!!!」

 〖キュィーン!ピュッン!〗

 〖ピュッン!〗

 〖ピュッン!ピュッン!ピュッン〗


 一斉に放たれたエネルギー弾がそれぞれの照準に向かって撃ち込まれ、ビックスパイダーに命中していく。

 〖グギャァァァア!!〗

 

 <発動まで10秒>

 

 視界と機動力を奪われ身動きが取れない状況に怒りを覚えて叫んでいるが、次の攻撃が待っていた。

 

 麟太郎の牽制の間に先ほどからカウントダウンしていたAIの影と金属が融合し影の中で鋭い槍が何本も生成されていき、そしてビックスパイダーの影と同化し始める。


 <マスタ。演算完了しました>

(よし。終わりだ)


 <モーションエフェクト起動>

 <ME《影支配》Shadow type”突”>



 


 「突け!!!」


 〖ズバッドガッズバッザシュッ〗

 

 突然ビックスパイダーの影から黒い円錐型の槍が何本も突き出てきた。まるで生け花に使う剣山のようだ。

 強烈な覇気を身にまとっていた蜘蛛の怪物は全身を串刺しにされ、即死に近い状態で息絶えた。


 「ふう。やっと終わったなAIさん」

 「みんなを呼び戻すか!」


 <……。……。>


 

 <少し様子がおかしいです>

 「なに?」

 「そういえば、なんで奴は消えないんだ?」

 

 ビックスパイダーの死骸は通常なら光のモザイクになって消えるはずだが何故かそのまま残ってる。

 不思議に思いジィっと観察しているといきなり巨大蜘蛛の腹が蠢いていた。

 

 〖グニュグニュグニュ〗

 「うわぁ!なんか腹が動いてるぞ!」

 「キモイきもい。ぞわっとした!」

 <戦闘モード再始動します>


 しばらく警戒しているとモコモコと動いていた腹の部分から食い破るように何かが出てくる。

 

 〖ビリビシャバリ。ピチャピチャ〗

 〖ザワザワザワサササ……サワサワサワ〗

 

 何匹も何匹も、いや何万匹だろうか。子蜘蛛の大群が勢いよく飛び出してきたのだ。

 

 「マジかやっべーなコレ……」

 未確認スキルだった《子蜘蛛》が発動。

 それは体長50㎝くらいの魔物だったが、鑑定してみるとかなり手ごわい。

 

 パチンコ玉の入った箱をひっくり返してしまった時のように捕まえようにも補足できない。

 

 蜘蛛の子を散らすとはよく言ったもんだ。収集つかない状況になってしまった。

 


 「っく。みんなを呼び戻す前で良かった」

 「モーションエフェクト《空中浮遊》」


 麟太郎は今の状況を把握するため一旦空中に飛んだ。

 さらにインターフェイスのマップ画面で敵の散開状況を確認する。


 「やっべーな」

 「こんな数、ターゲティングシステムでも対応できない」

 <全体攻撃で一気に殲滅する事を推奨します>

 「!?」

 「あ。。そうか。。あれだ!!」

 「助かったAIさん!ナイスフォロー」


 (蜘蛛の子を散らすように散開した状況に困惑していたが奴らは防御力は大したことはない。ならば。)


 「ME《Mist World》ミストワールド展開」


 上空からマップ上に点在する範囲に霧を風魔法に乗せ高速で広げた。

 約半径1kにも及ぶ広範囲に張り巡らされた水蒸気と微小な氷と砂塵の世界、帯電しながら迷宮世界を覆う。


 「地獄の火炎」

 「焼き尽くせ」


 〖ズ・ズズ――グガワァァアアァァ!ドゴゥォワァァァアア!〗

 

 《炎獄の檻》ほど囲う事が出来なかったため逆に連鎖して広がるように放った魔法地獄の火炎を起爆の信管代わりに利用して

 ダンジョン内がすべて消滅するかの如く放たれた水蒸気爆発。

 

 常軌を逸する巨大なキノコ雲が発生し、迷宮内の森の木々を一斉になぎ倒し、辺り一面砂の大地になっていた。

 

 そこには倒した魔物のギフトキューブが万単位で散らばっている。

 

 

 「はははは……。」

 「やりすぎ?かな?」

 <殲滅するには致し方ないかと>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る