第19話 日比谷ダンジョン②

 腰が抜けたのか呆然とした表情でへたり込んでた浅田の回復を待ち、さらに奥へと進んでいく麟太郎たちであったが不満顔のクズ男がぶつぶつと嫌味を言い始めた。

 

 「おい。伊庭」

 「さっき俺が倒した3体分のギフトキューブ」

 「お前ちゃんと拾ったんっだろうな」

 「拾ってあるよ。それが仕事だし」

 「信用ならないから今すぐよこせ」


 めんどくさいのでギフトキューブをアイテムボックスから取り出し渡すことにしたが、さらに揉めることとなる。


 「ほら。渡したぞ」

 「……」

 「おい!これじゃねえよ」

 「何が?」

 「俺が倒したキューブじゃないって言ってんだよ」


 やっぱりめんどくさい奴だった。俺のアイテムボックスは中でスロットごとに分別できるようになっている。

 なので奴専用のスロットを確保してそっちに保存したので間違えるはずがない。


 「こんなカスみたいなスキル渡しやがって」

 「他のキューブも見せろよ」

 「卑しい奴だなカッコ悪いぞ」

 「お前の方が卑しいだろコソコソ隠しやがって」

 「お二人とも落ち着いてください」

 「伊庭さん。申し訳ないけど先を急ぎたいので」

 「ギフトキューブを浅田さんに見せてあげてもらえませんか」

 「ふう、そうですね了解しました」


 ――スカイプ――

 [麟太郎。あいつ頭大丈夫か?]

 [仕事もあんな感じですよ。困ったもんです]

 [主任は悪くないです]

 

 [皆さん、ここは冷静になって先を急ぎましょう]

 [今回拾ったキューブはすべてカスでしたから(笑)]

 「ドロップキューブはガチャみたいなもんですから」

 

 [とりあえず奴を納得させるには今回拾ったキューブは全部渡しましょう]

 [ですね。カスですから(笑)]

 

 [主任。提案があります]

 [彼のドロップしたキューブを私が拾うっていうのはどうでしょうか]

 

 [なるほど優美ちゃんも一応非戦闘員って枠になってるから少しでもお手伝いする形で演技するって事だね]

 [はい!]

 [よし決まったな]


 ――――――――――――――


 麟太郎は素直に浅田にキューブを渡した。そこに相須莱夢が話に割って入ってくる。


 「伊庭さん。今回は浅田さんにキューブのすべてを提供したらいかがでしょうか」

 

 「一応先陣を切ってくれた報酬として前払いという形で考えてもらえないでしょうか」

 

 「まあ、相須莱夢さんがそう言うなら自分は良いですけどみんなは?」

 

 「主任に任せます」

 「いいぜ、麟太郎」


 先ほどの打ち合わせ通りに話が進んでいる。クズ男も満足そうだ。あのニヤケた顔はいつ見ても気持ち悪い。


 「まぁ、お前らがそう言うのであれば今回は貰っておくよ」


 そこで、打ち合わせ通りダメ押しをする宮本優美から発言が……。

 

 「主任。提案なんですが次回から浅田さんのドロップしたキューブは私が拾っても良いですか」


 浅田は、内心ちょっとドキッとして嬉しそうだ。

 

 「え?それは構わないけど、どうして?」

 「あは(笑)非戦闘員なので暇なんです」

 「浅田さん。私がお手伝いしても良いですか?」


 浅田は妄想してしまった。

 もしかしたら、彼女は俺に……。


 

 だが、気のあるフリを投げかける彼女の所作は……そう。 皆、経験あるだろう。


 中村猛37歳、彼は一連のやり取りを観察し、経験に基き、こう考察した。


 ――――――考察――――――


 〖あの子、最近綺麗になったな。でも、やけに俺の事気にかけてくれる〗←これ。

 

 それが勘違いの原因となる、 ”もしかしたらワンチャンあるかも系” の罠である。

 

 好きな男性とうまくいきそうな女性は急に魅力的なオーラをばら撒き不思議と輝く。

 

 そして、興味の無かった他人(浅田や他多数)にも異常に優しくなる。←いまココ。

 

 そこが落とし穴だ。

 

 世の男性のほとんどは、その優しさに魅了され自分へ好意が有るのかと勝手に勘違いしてしまう。

 

 先走って告白などしようものなら……もう、目も当てられない。


 それが悲劇の始まりだ。


 決まって自分の同僚や友人など身近にいる男性と付き合ってしまっているのだ。

 

 その後、知った事実、アイツと付き合ってる事を聞いた時の絶望感……虚無感。

 

 だが、そんな恋する乙女に悪気はない。自分の幸せをお裾分けしているだけに過ぎない。

 勝手に勘違いしたお前が悪いのだ。


 浅田。ご愁傷様。骨は拾ってやる。


 ――――考察終了――――


 さすが絶賛連敗中の経験が成せる思慮深い考察力だった。

 身近な女性に手を出すとダメージが深い。気まずいからだ。

 だから社内恋愛はリスクが高いのである。

 

 

 「お、おぅ、ゆ、優美ちゃんが俺のを拾ってくれるのなら嬉しいよ」

 「んじゃそういう事で!相須さん大丈夫ですか?」

 

 「私は国家安全局の職員として自分の獲得した分のキューブをギルドに提供する義務がございます」

 「それ以外はご自由にどうぞ」


 宮本優美の機転でやっと揉め事も収束し、ダンジョン攻略に進むことが出来きて、途中何度か戦闘を交えたが道中は順調である。

 

 キツイ傾斜の山道も過ぎ、比較的平地に近い広大な森の環境になってきていた。

 

 ただクズ男だけは20体分のキューブが全部カスだったと分かり、憮然とした表情で行動している。


 (だいぶ進んだけど、このダンジョンってどこまで探索すれば良いのだろう?)

 <魔素濃度から推測すると規模的にそろそろ終着点に近いと思われます>


 そんな会話をしているとインターフェイスのマップにひと際大きな赤い点が表示される。

 その点滅している個所を意識して注視していると突然、脳内にまばゆい光が発し、同時に未知の底知れぬ恐怖にゾワゾワとした衝動を感じた。


 〖ビリビリビリビリ〗

 「なんだ!これは!!」

 

 なんとも表現しがたい強大な覇気を感じ取った麟太郎は、本能的に悪寒が走ってしまい自我を忘れて思わず声を上げてしまう。

 

 (!!!!グッ……●×▽◇……!)

 「みんな!気をつけろ!」

 「ん?どうした麟太郎?」


(AIさん。ヤバイぞ!マジで強いのが来るぞ!)

 <確認しました。未確認のモンスターです>


 「おい!みんな!危険だ!強いのが来るぞ!体制を整えて最大限の注意をするんだ!」

 「おいおい無能君。いくらお前に探知能力があるからって大げさすぎじゃないか?小物の戯言か」


 

 

(鑑定)


 麟太郎の左目が赤い光を放つ。戦闘モードのインターフェイスから未知の敵の情報が表示され即座に危険な相手だと認識した。


 ■■■■■■■■■■■■■■■■

 〖個体名〗:ビッグスパイダー

 〖属性〗:昆虫型

 〖種類職業〗:魔虫

 〖Level〗:56

 〖経験値〗:972188

 [next]:50106

 〖HP〗:9860

 〖MP〗:890

 〖攻撃力〗:10560

 〖防御力〗:7650

 〖魔力〗:980

 〖アビリティー〗:蜘蛛糸操作 ####Ⅲ

 〖スキル〗:吐酸Ⅰ 粘糸Ⅰ

 〖魔法〗:パラライズⅠ

 ■■■■■■■■■■■■■■■■


 (……まじかよ……これは強いぞ……)

 (ステータス以上の何か未知の力を感じる)

 <人間が感じる直感というのは理解できませんが>

 <マスタとの一対一なら対戦効果は25万VS13万でやや優勢なのです>

 <ですが>

 <パーティーメンバーの保護も含めると16万VS15万とイーブンに近い確率です>

 (それはチョットまずいな……)

 

 そんなプレッシャーの中、心拍数がバクバク上がるのをなんとか自制し呼吸を整えようとするが、ビリビリと押し寄せてくる脅威的な覇気に押し潰れそうになる。


 しかし、そんな事も言っていられない。脳をフル活動し、対策を考えるしか生き残る方法がないのも事実である。

 だが考えが整理できていない状況の中、ジワジワと視界に迫ってくる巨大な恐怖の影。

 

 「来たぞ!」

 「うわっ!なんだあれは!」

 

 それは霧の深い森の湿地帯からゆらりと黒い影とともに正体を現し、赤い複数の何かがユラリユラリと揺れている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る