第17話 絶世の美女とクズ男
日比谷公園に辿り着いて次元のゆらぎを確認した麟太郎であったが赤く光っている左目から見えるインターフェイスのマップ画面に違和感を感じ立ち止まってしまった。
「AIさん。なんかインターフェイスのマップ画面で3つの緑の点がこっちに向かって来てるけど……」
<確認しました>
<マップの履歴を遡って検証した結果、会社を出てからこちらを追尾してる模様です>
<ペンダントのマーカーから確定しているのは中村さん〖N先輩〗と宮本さんの2人です>
<もう一人は未確認人物です>
背後から迫ってくる足音の正体は3人
たまに消えたり出現したりしているのでエンカウントワールドで戦闘しながらこちらに向かって来ているようだ。
遠くから近づいてくる3人のうち、その中の1人を見て麟太郎は頭を抱えてしまい思わず口に出してしまう。
「なんであいつが一緒に居るんだ?」
2人はN先輩と宮本優美でもう一人は……同期の浅田清志で、俺の最も苦手とするタイプの人物なのだが、なぜ一緒に来たのか状況がわからず困惑してしまい咄嗟に戦闘モードをキャンセルしトランスフォームした左腕を解除してしまった。
本能的に自分の能力がバレることへの嫌がるそぶりを見せ、咄嗟に隠すような行動をしているマスターに対し、それを瞬時に感知したAIが優先的判断を行う。
<対処します>
AIはペット機能を活用して独断で左腕から相手に見えない角度でヒト型の分裂した個体を生み出した。
「おおおぉお」
「イッツ アメージング」
AIの機転で出現したそれは女性型のAIペットであった。
<この個体は私の分身として操作します>
<マスタの能力を隠すために、この分身が代わりに戦闘を行います>
正体を隠したい麟太郎にとってエスケープ的な存在が現れたことによって、都合の良い言い訳が可能となったのだが……。なんとも嬉しい問題が発生してしまう。
出現した彼女は世の男性の願望的要素を全て備えた絶世の美女を具現化した形で鎮座している。
美しいオーラで包まれたその姿に思わず息を飲んでしまい、作り物とは思えないリアル過ぎる淡麗な容姿や、吸い込まれるような瞳に魅了され、数秒間時間が止まったように感じてしまった。
腰までストレートに伸びる黒髪で気品の高い雰囲気を醸し出し、例えるならば銀座のクラブのチーママといったところだろうか。
夜の華やかな舞台に立つ出勤前の、いわゆる美容院でセットを整える前のラフなスタイルで、胸元の空いた白いブラウスにスリムジーンズ姿のギャップに目を奪われない男性陣は皆無であろう。
むしろ夜の舞台で会うより貴重なその姿に興奮を隠せない。
ギャップ萌えとはこういう事なんだと感激する麟太郎であった。
「おい!麟太郎。どこ行くんだ!ん?そ、そちらの美しいお方は……」
「主任……隣の人は……キレイ……」
2人は俺を追いかけてきたようだが隣の絶世の美女に目を奪わてしまったようだが、浅田に至っては硬直している。
一瞬3人の存在を忘れかけていたが、ようやく我に返った。
「あ、えーと散歩?かな?」
「んな訳あるかよ!」
「主任……そちらの女性は……」
「まぁ、何て言うか、アレですよ」
言い訳を考えるそぶりを見せ、2人のペンダントをチラ見する仕草に違和感を感じた優美が何かに気が付いたようだ。
彼女は咄嗟にN先輩の脇腹をツネッた。
「痛てっ。なにすんだよ宮本」
優美は目線だけを浅田清志に向けてからまたN先輩に視線を戻し、アイコンタクトを送りペンダントを指さしたのだ。
そのゼスチャーで鈍感なN先輩もやっと気づいたようで秘密の共有のことを思い出していた。
「ああ。アレか。なんだ。ははは」(棒読み)
そんな会話を聞いて疑心を抱いた浅田が話に割り込んできて暴言を吐く。
「伊庭。お前なんでこんなところに居るんだ?」
「周辺のパニック状況を見ろよ。そんな美女を連れて平然とした顔してうろつきやがってアホなのか?」
「やっぱ仕事が出来ない奴はパニック状況になっても何も感じてないクソ鈍感野郎なんだな」
そんな暴言に宮本優美のホッペタが膨らんでいる。まるでリスが食べ物を頬張ってるときの膨らみ方だ。
彼女は麟太郎に嫌味を言っているアイツが許せないようだ。
彼はうちの会社の営業部のエースで今はN先輩と同じ係長である。同期入社の頃から優秀で、実績を上げているのだが、その手段が最悪で評判が悪い。
同僚の手柄を平気で横取りするのでも有名で、取引先とある程度話がまとまったころに勝手に横からアポを摂り接待など色々な手口を使って契約をまとめたりしているのだ。
出し抜かれた被害者は自分だけではない。しかも無能呼ばわりする捨て台詞が怒りをさらに増幅させる。
こんな奴に特別な能力がバレたらかなり厄介な事となるのは明白なのだ。
「お前こそN先輩達についてきてなにしてんだ?」
一応上司になるのだが、同期と言うこともあり、しかも性格がクズなのでいつもタメ口でしゃべっている。
「そんな事決まってんだろ」
「優美ちゃんが外に出ていったから追いかけてきたんだよ」
「それに、おまえさ、いつも注意しているが上司に向かってタメ口はやめろよ」
(なるほど、どうやら彼は宮本優美にご執心のようで、周りにイキって強さをアピールしカッコつけたいのだろう)
(マジでくだらない)
「そっか。優美ちゃんの護衛か」
「俺の質問に答えてないぞ。お前こそこんなところで何してんだと聞いてるんだよ」
「なんで優美ちゃんがお前を追いかけているんだよ」
(こいつやっぱめんどくせー)
(AIさん、これからの対応どうしようか)
<お任せください>
そう言うと麟太郎の前に分身体のAI美女が歩き出し対峙した。
3人は美女の存在に再び目線を奪われ呆然としている。
「お話の途中で申し訳ありません」
「私は国家安全情報局の【相須 莱夢】(あいす らいむ)と申します」
「今朝方に政府の発表があったのはご存じだと思いますが」
「ギルド設立の為に情報局から派遣されたスタッフです」
「え?そんな美しいあなたが何故、こんなアホな伊庭と?」
「この日比谷公園の次元のひずみへ調査に来ていたのですが」
「大量の魔素があふれスタンピードを起こってしまったようです」
「そこで緊急対応が必要となりダンジョンに入る事となってしまったのです」
「最深部に有るコアを破壊するかダンジョンボスを倒す以外このパニックを止める方法がないのは今朝の情報として皆さんもご存じだと思います」
「そうした時にこちらの伊庭さんと偶然出会いまして、話を聞いたところ彼がアイテムボックスの能力と魔物探知の能力を持った”商人”の職業ステータスだということが分かりました」
「私共のメリットとして魔物探知で素早く発見出来、しかも情報収集のためのアイテム収集もやりやすくなるので同行のお願いをしていた次第です」
なんとかつじつま合わせに成功したかに思われたが、やっぱりめんどくさい彼が絡んできた。
「ぶw!!し、し商人って(笑)」
「おまえさ、せっかく神のギフトを貰っておいて勇者とか賢者みたいなカッコいい職業じゃなくて商人?しかも荷物持ち?」
「あんま笑わせないでくれ頼むから」
「こんなパニック状態になってみんな魔物と戦っている時に戦闘力も無い商人って」
「大丈夫か?ほんと勘弁してくれ(笑)無能さんー」
宮本優美の顔が真っ赤になってさっきよりホッペタが膨らんできた。フグのお腹みたいになっている。
N先輩は苦笑いしているが目が怒っていた。
「じゃあ麟太郎。ダンジョンに潜るのか?」
「はい。行ってきます」
「俺も行くぞ」
「いや今回はどんな魔物が居るか分らないので」
「お前ひとりで危険な事させるわけ無いだろ」
見つかってしまった以上、この頑固な人が大人しく入口で待っているとは想像がつかず、了承するしかなかった。
「ふう、わかりました。でも危ないと判断したら速攻逃げてください」
「んなこと出来るか」
「そうじゃなくて戻って救援をお願いしたいのです」
「同行する相須さんはギルドトップクラスの実力があると聞きました」
「なので先輩が残るより探知能力で情報を知らせる俺のほうが予測戦闘をしやすくなりますので便利なんですよ」
「まあしょうがないな、そういう事ならわかった」
そこに優美が歩いて迫って来て麟太郎の側まで来ると耳打ちをしてくる。
(主任。私も連れて行って下さい)
(え?ダメだよ。危険だから)
(でもアイツと二人っきりで取り残されるほうがもっと危険です)
宮本優実は涙目で訴えてきた。たしかにあのクズの事だ。
このパニック状況に便乗して優美ちゃんになにするか分かったもんじゃない。
これも見つかった俺の責任だ。
(わかったよ優美ちゃん。俺が責任取るから一緒に行こう)
(せ、せきにんって♡きゃ!有難うございます♡)
なんの責任か勘違いしている宮本優美であったが、同行する事になった。
「そしたら皆さんで行きましょうか」
「浅田は帰ってくれ」
「俺は精霊系の魔法が使えるんだぞ」
「ふざけんじゃねえぞ。優美ちゃんが危険だろうが」
「おまえなに勝手に彼女を連れて行こうとしてるんだ」
「浅田さん。わたし伊庭主任と一緒に共同作業するので、一緒に……♡」
「……おいこら伊庭。俺も行くぞ。それにタメ口はやめろ」
「ふぅ……」
「ご勝手に」
浅田清志に邪魔されてかなり遅くなってしまったが、AIの機転によりなんとかダンジョンに潜ることが出来た。
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