第16話 ギルド法案成立と日比谷動乱

 翌朝。


 「なあAIさん」

 「俺の体さ、やっぱり変なんだよね」

 「レベルアップとは何かが違う気がするんだけど……」

 

 <…………そうですか>

 <そのうち説明しなければと思ってたのですが>

 <原因はスライム細胞のようです>

 「細胞の?」

 

 <マスタは隕石事故の際、損傷した欠損部分を私の細胞で補いました>

 <そして時間の経過とともに人間の細胞と同化を始めています>

 

 「ってことは液体金属とヒト細胞のハイブリッドってこと?」

 

 <そのようです>

 「ま、まぁ言いたいことはいっぱいあるが」

 「そうしないと命が無かったことも事実だし」

 「なるようになるしかないか」

 「それと、隣の西野美咲の事なんだけど」

 

 <マスタの対応で正解だったと思われます>

 

 <今後の事は宮本家の皆さんと同等の保護が可能になると推測します>


 そんな打合せの中、スマホから地震速報のような緊急ニュースが飛び込んできた。

 

 政府の管理する情報局に謎のハッキングがあったらしい。

 

 加えて各省庁のIT管理室にも同様の事が起こったらしく、その内容というのが衝撃的だった。

 

 現在、一連の事件となっている迷宮の出現に関する説明と、光の雨【神のギフト】に関わる内容のようだ。

 

 その内訳とは、

 1・世界各地に出現した迷宮なるものはダンジョンという別次元の存在。

 

 2・原因は謎の隕石に積み込まれていたダンジョンキューブという迷宮を作り出す物体から各地にばらまかれてしまった。

 

 3・迷宮にはダンジョンボスが存在していて倒すと一時的にダンジョンは休止する。

 

 4・完全にダンジョンを消滅させるためには迷宮の最深部にあるダンジョンコアを破壊する。

 

 5・ダンジョン攻略で得られるエネルギーキューブというものは次世代エネルギーとして利用できる。

 

 6・ダンジョン内に魔素と呼ばれるエネルギーが溜り過ぎると魔物が外にあふれてくる。


 こういった箇条書きのメッセージと共に対応策が語られていた。

 

 対応策とは、すべての人間にステータスと属性になるジョブをランダムに与えダンジョンに対抗する力を与える事だった。

 

 それが、先日に起こった光の雨【神のギフト】の提供だったらしい。


 そして、文末に差出人からのメッセージが添えられていたという。



 

 〖人類の未来の為に。マザーより。〗


 <!……●×▽◇>

「ん?」

「誰だよ。マザーって?」

「神のギフトを与えた?」

 <マスタ。そろそろ出勤の時間では?>


 これを受け、政府は世界各国と緊急会議を開き国際連合の支持の元、閣議決定を行い世界同時声明を発表した。

 

 日本におけるダンジョン管理は警察、自衛隊と協力し新たに設立するギルドという組織を発足して運営していく方針を示したのである。

 

 同時に、超法的に臨時国会を開き、【ギルド法案】を超党派で可決、成立させ即日執行を断行して、早急に各省庁から人材の派遣を行い執行組織を形成した。


 ギルドは各地方自治体に設立し、近辺のダンジョン管理とエネルギーキューブなどの買い取りを行う段取りになっている。

 

 そして、強力なギフトを手にした人材を募集し、キューブハンターとしてランク式の階級を用意し、魔素の暴発を防ぎ、次世代エネルギーの確保を目指す組織を作りだすようだ。

 

 <…………そろそろ私はoffモードに移行します>

「ん。わかった。また後で!」



 ――会社にて――


 「しかし大変なことになったな」

 「ええ、まさかあんな発表があるとは」

 「なんか今日会社からも話があるみたいだぞ」

 「なんですかね?」

 

 そんな話題の中、宮本優美が出勤してきた。

 

 「主任!係長、おはようございます!」

 「おはよー」

 「お!おはよう」

 「昨日は本当にありがとうございました」

 「いえいえ、どういたしまして」

 

 宮本優美は元気に出勤してきたみたいだ。

 この後、事件の報告を社長にするらしく、準備をして出ていった。


 「おい麟太郎。例の合宿の件どうなった?」

 「そうですね、ゴールデンウイークあたりを考えているんですが」

 「そうだよな。優太の学校もあるしまとまった休みを考えるとそうだよな」

 

 「でさ、その前にでも俺になんか出来ることないか?」

 

 「うーん。そうですね、いくらレベルが上がっても基本的な動作とか」

 「熟練度とか、その辺を鍛えておくのも大切ですかね」

 

 「そっか。お前は普段どうしてんだ?」

 

 「ああ、家の近くに低レベルのダンジョンが有るんですよ」

 「そこで基本的な動きの確認とかですかね」

 

 「よし!今日そこに連れていけ」

 「まじっすか。」

 「まじっす。」


 N先輩のまっすぐなメンタルについ負けてしまった麟太郎はしょうがなく連れていくことにした。

 

 そんな時、部長が部署に戻って来たのだが、神妙な面持ちで何か真剣に考え込んでいる様子だった。

 

 なにか重大発表がありそうだ。

 

 どうやら昼休み前に告知があるみたいなのでとりあえず事務処理でもやって時間を潰そうかと考えてたら、窓の外が急に騒がしくなっている。

 

 ふとその方角を見ると、日比谷公園の方面から悲鳴と人波が押し寄せてきていた。

 

 逃げている人々が突然消え、数秒後にその消えた辺りで死んだように倒れている。

 しかも、その民衆を追いかけているのは明らかにモンスター共だ。

 「まじか!ここでも……」

 

 急いでトイレに駆け込む麟太郎。

 

 (どういうことだ?AIさんON)

 <状況を確認しました>

 <日比谷公園にあるダンジョンの魔素量が一定数を超え、モンスターが迷宮から湧き出てる模様です>

 

(やばいな。どうしたらいい?)

 <ダンジョンボスを倒すか、ダンジョンコアを破壊するしかないでしょう>

 

(また面倒なことになりそうだな)

 

 <お仲間はどうされますか?>

(ダンジョンボスの詳細がわからない以上、連れていくのは危険かも)

 

 <そうですね、ではペット機能を使用してガードさせてはいかがでしょう>

 

(それしかないな、AIさんにそっちのほうは任せていい?)

 <かしこまりました>


 AIはそう言うと早速ペット機能を展開。


 『ヴィン。ヴィン。ヴィン・・・』

 左腕が光るとすぐさま透明化(インビジブル)を施した昆虫型をしたトンボのような物体100体を分裂させた。

 

 まるで小さいドローンのように空中にホバリングしているみたいだ。

 

 「AIさん、こんな小さいやつらで守れんの?」

 

 <防御に関しては1つ分のバリアキューブを実物大で展開できます>

 

 <個体が小さいため狭い場所でも移動できますのでこの会社のビル全体を管理出来ると思います>

 

 <さらに個体の大小にかかわらず攻撃力もビックベアを倒すくらいの能力はあります>

 

 「すごっ!そんなんが100体いたら今目の前で起こっているスタンピードよりえらいこっちゃ」

 

 「なら安心なんで、早速ボス討伐に行きますか!」


 会社の外に出てみると通りはパニック状態になっており収集不可能な状態であった。

 麟太郎はそんな人ごみをかき分けて原因のモンスター共の方へ突き進む。


 ――――――――――――――

 

 社長室から出てきた優美は廊下の窓から混乱の街並みを見つめていた。

 「えええ。街中にモンスターが!!」

 「え?アレって主任?」


 麟太郎が会社の外に飛び出していく姿を発見してしまい、優美も無意識に追いかけようと走り出した。

 途中、営業部のフロアを通り過ぎて走っていく姿をN先輩が発見。


 「おい!宮本!どこ行くんだ?」

 「あ。係長。その、何て言うか、追いかけます!」

 「???お前何言ってんだ???」

 「…………主任が!」

 「おい!ちょっとまて俺も行く!」

 「たしか倉庫に社内運動部の野球バットがあったはずだ」


 そんなやり取りをもう一人の社員が見かけていた。


 ――――――――――――――――

 

 やっとたどり着いた目の前にパニックの元となった化け物が居た。

 その時、突然視界が〖グワァン〗とゆがんだ。

 

 さらに、今まで人ごみの中に居たが建物の景色はそのままに人だけが居なくなっている。

 この状況は前にもあった。あの最初に出会ったビックベアとの戦闘シーンと全く同じだ。

 

 今回、対峙したのは顔だけで人間の頭くらいの大きさのあるコウモリみたいな魔物が、数体飛んでいる。

 

 <エンカウントワールドです>

 「なんだそれは?」

 

 <敵と戦闘状態になると別の並行世界に飛ばされるみたいです>

 

 「なんだかよくわからないが魔物以外の人たちには被害が出ないという事?」

 

 <はい。今居る場所は別の世界ですので>

 <ただし、相手を倒すか自分が死ぬまでこの世界からは出られないということです>

 「それだけ分かれば充分だ」


 

 「戦闘モード展開」

 

 「鑑定頼む」

 

 <鑑定結果>

 ■■■■■■■■■■■■■■■■

 〖個体名〗:シャドウ バット

 〖属性〗:哺乳類型

 〖種類職業〗:魔獣

 〖Level〗:30

 〖経験値〗:171348

 [next]:18073

 〖HP〗:1850

 〖MP〗:230

 〖攻撃力〗:1100

 〖防御力〗:560

 〖魔力〗:280

 〖アビリティー〗:超音波

 〖スキル〗:###Ⅰ 吸血Ⅰ

 〖魔法〗:ソニックウェイブⅠ

 ■■■■■■■■■■■■■■■■


 「対戦効果は?」

 <23万vs 1500です>

 「了解。まずは相手の攻撃を受けるぞ」

 「バリアキューブ展開」

 <敵の攻撃が来ます>

 『バシュバシュ』

 『キシューン』

 『ヴィンドンヴィン』


 展開していたバリアキューブにシャドウバットの攻撃が吸い込まれていく。

 

 適当にあしらい、防御していたが突然予期せぬ攻撃を食らってしまった。

 「うわっビックリした!!」


 シャドウバットの攻撃中、驚いたのが地面に映っていた麟太郎の影から新たな敵が飛び出して来たことだ。


 <解析終了しました>

 <影の中から出てきたスキルは《影移動Ⅰ》です>

 「なるほど、影を利用するのか」

 「使えそうだな」

 「じゃこちらも反撃で!」


 左腕が輝きだした。モーションエフェクトで 《ミストワールド》を展開し、敵全体をまとめて包囲したのち火属性の攻撃を放つ。

 

 「獄炎の檻」

 『ゴワァァァ』

 『ドグァァァァン』


 霧で包まれた檻の中で盛大な火炎とともに水蒸気爆発を起こし、シャドウバットは跡形もなく燃え砕けた。

 

 以前使用した《雷の檻》サンダーパラライズを参考に《地獄の火炎》という魔法の応用技である。


 「はは。。やりすぎたかも」

 <見事な応用技です>


 「よし!迷宮へ急ぐぞ」

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