第14話 秘密の共有
麟太郎の想像を絶する攻撃に度肝を抜かれる宮本家族と1人のおっさん。
わずかだが優太の目が輝いているように見え、チョットだけ少年の心に火種がともったようだ。
「ふん、な、なかなかやるじゃん」
「麟太郎……お前ってやつは……全部持ってくな」
「主任!素敵すぎます!」
(ここでドヤるとN先輩と同じになるし、AIさんにも突っ込みが入りそうだな)
「さあ。出口は直ぐそこですよ急ぎましょうか」
「ああ、そうだな。皆さんついてきてください」
やっと現実の世界に戻って来たメンバーだったが、解散する前に約束してもらわないとまずいことを思い出した。
それは、麟太郎の能力である。
たしかに多数の人間が不思議な能力を得たが、彼は特別である。
未来からやって来た人工知能を搭載したメタルスライムAIの秘密が世間にバレると例の目的である世界線が変わる可能性も否定できない。
なのでこれからどの程度、秘密を打ち明けるかはAIさんと相談して決めていくしかない。
(AIさん相談があるんだけど)
<どうしました?>
(あのさ、俺の能力をあの家族や先輩に見られたわけじゃん)
<そうですね>
(俺たちのこと秘密にしたほうが良いよね)
<秘密にしたほうが良いと思われますが>
<マスタは嘘を隠すのが下手なように見えますが>
(そうですよ。はい。その通りかもしれませんが)
<秘密の開示はマスタにお任せしますが対策は取らせてもらいます>
(対策?)
<今回の救出作戦の段階で秘密がバレることは推定しておりましたので、あらかじめ対策を演算しておりました>
<対策として用意できるのはメタルスライムの一部を所持してもらうことです>
<昨晩、機能を追加したペット機能を応用した対策になります>
<例えばペンダントなどに変形させて身に着けてもらうことで情報の共有をすることが出来ます>
<さらに、マスタの指示でそのペンダントに能力の付与をリモートで行うことが出来る為、危険が起きても身を守るアイテムとして利用できます>
(なるほど、秘密漏洩の監視も出来るし、皆のボディーガードも出来るってことだな)
<その通りです>
(さすがだ。AIさん)
<ふ。それほどでも>
(今、ふって言った。)
<それがなにか?>
(いやなんでもないです)
対策は整ったので解散前に皆を広場に集めて話をすることにした。
「さあ皆さんやっと脱出できましたね」
「ほんとにありがとうございました」
「もう安心なのでそれぞれ解散したいと思います」
「が、その前に皆さんに約束してもらいたいことがあるのですが少し宜しいでしょうか」
皆が不思議そうに麟太郎を眺めているが、ここは秘密の共有が必要のため思い切って口を開いた。
「実は秘密にして頂きたい事がありまして」
「主任!大丈夫です。言わないですよ。むしろギャップが♡」
「うん!俺もあんな残念なことイワナイ」
「もちろんですよ。わかってます」
「あれは……そうですよね承知しました」
「なんだあの事か、そんなに気にすんな麟太郎」
なぜか皆の生温かい視線が気になる。
「???」
「俺まだ何にも言ってないのですが??」
「わかってるよ。もう言うな。黙っててやる」
(AIさん、彼らは何をおっしゃってるのでしょうかね?)
<推測するに、決めセリフを”噛んだ”ことでしょか>
(なに!俺、噛んでた?)
<ハイ。思いっきり>
麟太郎はその時の事を思い出し、顔が真っ赤になっていった。
しかし、大事なことを伝えないといけないのでここは気を取り直しもう一度話しかけた。
「ま、まあそれもなんですが」
「俺の能力の事も秘密にしてもらえないかと思っている次第です」
「そうだな!お前の能力ってちょっと異常だもんな」
「たしかに、他のステータス保持者とは次元が違いますね」
「主任の為になるなら私は」
「秘密にしてやる代わり条件がある。姉ちゃんに絶対手を出すなよ!」
「こら!あんたって子は!すいません。大丈夫です秘密にします絶対」
「皆さんありがとうございます」
「それで、これなんですが皆さんそれぞれ身に着けてもらいたいのです」
アイテムボックスから例のペンダントを5つ取り出す。
「麟太郎、これなんだ?」
「今後の対策のためです」
「今回のようにいつまたどこで事件に関わるような危険な事が起きるか否定出来ません」
「なので、身を守るための能力を付与したペンダントです」
「おお、良いのかそんな貴重なアイテム」
「はい、装備しておけば車に跳ねられても傷1つ負わない能力も付与してあります」
「他の能力も色々ありますが、後日追って説明します」
「主任!素敵すぎます!出来れば今度はゆ、ゆび、キャ♡」
「オイ!てめぇ!姉ちゃんに近づくな!」
(俺なんもしてねえし、状況的になんも間違ってねえし、なんなら……近づいてねーし)
(まったくシスコンのクソガキは話をややこしくするなよ。まぁ、俺の子供時代と似ていて共感する部分もあるのだが)
<マスタ…………年上好きの変態だったんde>
(コラ!勝手な解釈すんな!似ているのは少年時代のわくわくヒーロー願望のことだよ!)
オラオラで威嚇する優太をなだめつつ全員にペンダントを装備してもらい。やっと解散することになった。
――――――――――――――――――――
N先輩と会社に戻った麟太郎は、部長と課長に宮本優美救出の報告を行い、デスクで一息ついた。
「なあ麟太郎、今後どうすんだ?」
「先輩、俺にも分かんないっすよ。こんな異常な状況で今後どうしたらいいのかって」
「まぁそうだよな……。世界的にこんな事が起きるなんてな、まったくアニメの世界じゃあるまいし」
「でも現実、死人も行方不明者も出てるし、今の状況で出来ることは強くなって身を守るしか」
「だよな!それしかないよな!」
「ただ情報があまりにも少な過ぎます。ここは政府の見解を見守って個人的に出来る限りの対策を考えるしかないと思いますが」
「うんその通りだ。そこで提案なのだが、秘密のメンバーでレベルアップの合宿なんか出来ないか?」
「合宿!ですか・・・」
(AIさんどう思う?)
<マスタが守りたい人達の戦力がアップするのは良い事だと思います>
(わかった)
「そうですね。良い提案だと思います。それでしたら適正の場所を見つけてみますので後日報告しますね」
「わかった!たのむぞ!」
会社を退勤し、自宅に戻ってインターネットやテレビなどで情報を収集してみる。
早速、世界各国での被害状況や個人のSNSなどを閲覧し、これはとんでもない事が起こっていると驚愕した。
まさに世界を揺るがす異常な事態に陥ってると再確認する事になる。
この情報を受けて、まず最優先すべきは身内の安全の確保のため、出来る限りの対策を練り、近しい仲間を守る事だ。
日本を含め世界各国の混乱は常軌を逸している。
報道によると各国は連日に及ぶ首脳会談をリモートで行い、この事態に対応するため、国際連合を主体とした方針にすべてをゆだねる決断を迫られている状況であった。
麟太郎は今回被害にあった宮本家の今後の対策と同時に、偶然にも迷宮に踏み込んでしまい不運な事件に巻き込まれ、心にも傷を負ってるであろう お隣さんである西野美咲のフォローも考えていかなければならないなと真剣に思っていた。
◇◇◇西野美咲の自宅◇◇◇
(あの銀色の……。なんだったんだろう……。)
幻想的な銀色に光る綺麗な流光を目の前で目撃し、瞳と心を奪われる衝撃を残しながら意識を失う寸前の美咲たったが、緑色の変態に囲まれて絶望の中、助けに来てくれたナイト。
そんな状況を思い出し、布団にくるまりモジモジしている。
右腕に巻かれた包帯をなでながら妄想に妄想を重ねつつ、同居している姉の帰りを待っていた。
『ガチャガチャ。バタン』
「ただいまー!あぁぁぁつかれたー」
「きょん姉ぇ~おかえりー」
美咲の姉、西野今日子(26)が帰ってきたようだ。
彼女の職業は警察官、公安部第二課巡査部長、俗にいう公安である。
一連の事件の対応に追われてここ数日は家に帰ってこなかった。
「このまま寝るね。死んだように寝てやる!」
「……って美咲!その腕どうしたの?」
「うん……ちょっとね。部活で怪我しちゃって」
「なにやってんのよ。大丈夫なの?病院は?」
「大丈夫だよ!軽い切り傷なんでもうほとんど治ってるし」
「そう、なら良いけど気を付けてね」
「私、もう限界。寝るから朝まで起こさないでね」
「はいはいわかりました。オヤスミ~」
今日子はそのまま部屋に閉じこもってしまい、少年の形をしたぬいぐるみを抱っこしながら至福の睡眠に落ちていった。
どうやら少年に異常な興味をそそぐいわゆる”ショタコン”というやつらしい。
美咲は姉を起こさないように部屋でまた妄想を開始しながらたまにニヤニヤして静かに過ごしている。
物音を立てて起こしてしまうと、物凄く機嫌が悪くなる姉の性格を知っての行動だ。
そんな時、部屋の外から『バタン』……玄関を閉める音。
『カチャ』……カギを閉める音。
『コツコツコツ』……歩き出す音。
お隣さんの音が聞こえてきて、足音が遠ざかり徐々に消えていく。
(伊庭さん。出かけたみたい。もう20時なのに何処に行くのだろう)
(よし!)
美咲は麟太郎の行動に興味深々のようで、思い切って後をつけてみる事にした。
――――――――――――――――――
あとがき
次回、大事件発生!必見です
今後の展開が気になりましたら是非ともブックマークや☆評価などコメントも頂けたら執筆の励みになります。
しん吉
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